ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問5 面の表裏を同時に照らせ

問5-2

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 時刻は午後5時を過ぎた。

 孤狼丸との1戦のあと、勢いのままに更に5連戦もしてしまった。
 研究、そして実戦。それは単なる作業ではなく、全力でぶつかっていく数試合だった。
 彼らには少し悪いことをしたと思う。
 だが、対戦相手も少しずつ興味深いデッキを使うプレイヤーが増えてきてくれたので、俺のテンションはなかなか下がらず爆走モードになってしまったとしても仕方が無いというものだ。

 なんだ、ランク戦だって捨てたもんじゃないじゃないか、と思いながらほくほく顔で小綺麗な「部屋」になった控室に戻った俺は、ふと視界の端で点滅するお知らせに気づいた。
 どうやら試合中に着信が入っていたらしい。それは案の定ミューミューからのもので、俺は慌ててかけ直した。

「もしもし?」

 透き通った声が耳朶じだを打つ。
 むさい男共と殴り合いをした後だと、砂漠で見つけたオアシスのように体に染み渡る。

「ごめん、試合中だった」

 緊張して少し声が高くなってしまった。恥ずい。咳をしてごまかす。

「そうかな? と思って着信を残しただけですからお気にせず。そろそろ一度区切りませんか?」
「了解。なんとか今のところは負けずに来てるよ」
「流石です。……『アレ』、決めちゃいました?」
「最高に気持ちよく入ったのは1発だけだけど……無事決めたっす!」
「やった! おめでとうございます!」
「ざーっす!」
「なんですかそのキャラ」

 クスクスと笑うミューミューの声になんだか気持ちが癒やされていく気がする。しまった。俺ともあろうものが、たった1日でほだされてしまった。
 いや別に何も困っては無いが。

 とりあえずランク戦の話はそこまでにして、待ち合わせ場所を決めた。
 もちろんいつもの滝前。彼女の部屋でも良かったが、チョッキとみずちも合流予定とのことだったのでとりあえずはそこだ。

 俺は通話を切ると、そそくさと身支度を整え、部屋を飛び出した。
 薄暗い闘技場の通用路を早足に抜けると、大きな古めかしい鉄の扉の前に着く。
 力を込めずに、その扉にそっと両手を添えた。

 ――ごうん、と音を立てて重そうな扉がゆっくり左右に開く。

 闘技場はロビーの端に位置する、この「挑戦者の鉄扉てっぴ」で隔たれた異空間だ。
 ロビーというのも通称で、実際は「天霊の檻」と呼ばれるこの建造物が建つ場所は地上ではない。
 空を漂う巨大な浮き島という設定なので、ここからどこかに移動するにはこうして別の場所につながる「扉」を通る必要があるのだ。
 要は行き先が固定されたデカいどこ○もドアが何個か置いてある。便利!

 鉄扉を抜けた先、見慣れた広間との間に仁王立ちする1つの影があった。

「遅かったな」

 もふもふお耳に、茶色の毛並み。
 見覚えがある。いや、ありすぎる。
 1時間以上前に倒した孤狼丸が、腕を組んでこちらを睨みつけていた。

「あ、ごめんね。待った?」
「ううん、いま来たとこ……って何やらせんだよ!」
「お前が勝手にやったんだろ、なんだよキレんなよ」
「うるせぇよ! ……じゃない、うるさいですよ!」

 丁寧に怒られたのは初めてだ。

「いや、ごめん……なさい。喧嘩をしたいんじゃないんです。ちょっと話があって、待たせてもらいました」

 孤狼丸は急にしおらしく態度を軟化させた。
 それはゲーム前の姿とも、ゲーム中の姿とも違う。
 声を作っていない彼のそれは中性的な少年の響きがあった。

「……まだ、俺の事疑ってんの?」

 ゲーム中に彼が口にした「チート」の件だろうか。俺は身構えた。

「いや、それは終わった後に何度もプレイ動画で確認しました。……疑って、すいませんでした」

 そう言って彼は素直に頭を下げた。
 決してきれいなお辞儀ではなかったが、彼なりに真摯に謝る姿に、俺は自分の考えが間違っていた事に気づく。

「こちらこそ、容赦なく蹴っちゃった。ごめんね」
「それは別になんとも思ってません。戦いの中の話ですし、そもそも只のゲームですから」

 若い声で落ち着いて話す彼は、リアルではこんな感じなのだろうかと透けて見えるような自然さだった。

「じゃあ、話って?」

 彼のアバターは野生の狼を思わせる少し獰猛な顔つきの青年だ。
 それが手を後ろに隠してもじもじと話づらそうにする姿は、申し訳ないが率直に言って気持ち悪かった。

「あの、その……」

 バッ、と彼は俺に向かって手を伸ばした。

「僕を弟子にして下さい!」
「え、やだ」

 思わずばっさりと断ってしまった。
 彼の顔がみるみると泣きそうな表情にゆがむ。

「な、なんで……?」
「今は忙しいから、かな。……ごめんっ。人を待たせてるからこの辺で!」

 俺は逃げるようにその場を去ろうとするが、走り出そうとした足をガッと掴まれる。

「また、逃げるのは……ナシですっ!」

 ちょ、ちょ、困る。

「あ、すいません。なんでもないです。なんでもないです。こいつが……おい! 離れろって!」
「弟子にしてくれるまで……離しませんっ!」

 傍から見たら、男二人がくんずほぐれつしているような姿勢になってしまった。
 周りから奇異の視線が飛んでくる。

「落ち着け孤狼丸くん、一旦落ち着いて、話もうちょっと聞くから」
「……本当ですか?」
「ホントダヨ」
「離したら逃げる気ですね!? このままでも許可は出せますよね!? 逃しませんよ!?」

 クソッ! 俺はダサい嘘を付けない男っ! こんな時に足枷になるとは!!

「あ」
「え?」

 俺は落ち着いて視界ディスプレイを操作し、「マイルームへ移動」を押した。

「さらば」
「あーーーっ!!!!」

 俺は彼の掴んだ手を離れ、光の粒となり消えていった。

 元気出せよ、孤狼丸。俺よりもっと良い師匠が見つかるさ。
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