ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

文字の大きさ
52 / 92
問5 面の表裏を同時に照らせ

問5-1

しおりを挟む


「司書長、司書長、ししょちょーー!!」

 騒がしい声が二日酔いの頭にガンガン響く。

「あ゛ぁ゛? ちょっと静かにしてくれ……」
「しませんよ! 今まさに試合中なんですから! チェックチェック!」

 どん、こいつは遠慮なく俺の腹の上に覆いかぶさる。
 無駄にデカイ脂肪袋がのしかかって重い。

「どけモモタロー」

 椅子を3脚使ってベッドにしていた俺の横、デスクに置かれたPCを操作していた百田ももたひなの頭をぐいと押しのける。

「ももたろーじゃなくて百田です! いいから早く起きて下さいってば!」
「あー頭いてぇ……。ちょっと先に水くれ」
「どうぞっ!」

 百田が近くのウォーターサーバーから水を出すと、何を思ったか指で蛇口を押さえて俺の方に圧縮されて飛び散る水をかけてきやがった。

「ぷわっ! お前! 馬鹿、やめろ!」
「目ぇー! 早く覚まして下さいー!!」
「おい! 分かったから! うわっぷ水止めろ!」

 俺は慌てて立ち上がると、百田の頭にげんこつを落とす。

「あいたっ!!」
「止めろっつってんだろクソタロー!」
「だからってそんなに本気でぶたないでくださいよぉ……」
「機械も置いてあるのに水浸しにしやがって……。げんこつで済んで良かったと思え」

 いつものことながら、こいつはなかなか常軌を逸している。
 だからこんなところに配属されているのかも知れない。いや、キャラクター採用か?

 頭をすりすりこする百田と一緒に、飛び散った水を雑巾とタオルで黙々と拭き取る。
 幸い機械類には影響が無かったようでようやく安堵の息を吐く。
 一昔前のように書類が散乱する机が並んでいたら、確かめるまでもなく大惨事だったことだろう。

「で、なんだったんだよ慌てて」

 ひときわデカいマイチェアに深く腰掛けながら、俺は百田に要件を聞いた。

「あーっ! そうだった! こんな事してる場合じゃなかったんですよ、司書長のあほちん! 試合ですよ、試合!」

 百田は急にスイッチが入ったかのように自らのデスクに向かうと、したたたたと高速で指を動かし始めた。

「100対0でお前のせいだろ……で、誰の試合だ?」
「昨日の『citrusシトラス』がランク戦に乗り込んで来たんですよ!」
「シトラス……? ああ、玻璃猫に勝ったっていう……」

 正直あまり興味は無かった。
 昨日はこいつともう一人のアホがキャイキャイ騒いでいたのが聞こえてはいたが、未だ断片的な情報でしかそいつの事は知らない。
 玻璃猫が負けたとは言え、ランク戦ではなく野良戦での事だし、実質ノーダメ撃破っていうのも嘘くさい。どうせ出来レースだったんだろうというのがまとめサイトを見た俺の所見だ。

「司書長の事だから、どうせまだシロートの書いたまとめサイトしか見てないんですよね?」
「いーんだよ、俺らがやってる事だってどうせシロートのまとめ記事に毛が生えたようなもんなんだから」
「またそんな言い方して……ちょっとは真面目に仕事して下さい!」

 こいつには言われたくないとは思うが、同時に言われても仕方がないとも思ったので、俺はその件についてはスルーして話題を変える。

「で、その柑橘類くんが何だって?」
「へ? 柑橘類……?」
「あー……ったくそんなのも通じねぇのかよ。そのシトラスの事だよ、シートーラース。日本語にすりゃ柑橘類の事だろ?」
「なるほど、合点承知の助!」

 手をぽんっ、とアホがアホくさく叩いた。いつの時代の表現だ。使い所もおかしい。

「中学生レベルの英語で関心されたところでなぁ……。それよりとっとと話を進めてくれよモモタロー」

 俺の催促に、カチカチっと何かをクリックして百田は抑えきれない笑みを手で隠すようにしながら椅子ごと俺の方を向いた。

「むふふ、これはさすがの司書長でもびっくりするかもですよ?」

 百田がもう一度カチっとクリック。
 俺のデスクに置かれた4面ディスプレイの一つに、転送されたゲーム内映像が再生され始めた。
 ライブ映像だ。

「今ちょうどやってんのか」
「そうです。これが今季のソロランキングに初参加で5戦目。過去戦歴もさらってみましたが、今まで一度たりともランクが付いたことの無いプレイヤーデータでした。つまり……」
「今季どころか、今のアカウントで今日が初のランクマッチってことか」
「そうです。その状態で、今のところ4戦全勝です」
「ふーん……」

 別にめずらしくもない。ゲーム内レベルが高いプレイヤーなら、ランク戦に行ってなくても実力はある。
 例え対人戦経験が少なくとも下位ランク相手だったらマッチ運次第ではそういう結果になってもおかしくは無い。
 しかも例のシトラスは上位ランカーの火香の師匠っていう話もある。ランク戦は出て無いが身内戦はやっていたようなエンジョイ勢だろう。その相手が「燃える鬼神」っていうのならまぁ強いっていう話も分からんでもない。が、どうせそれだけだ。

 火香の事も一時期は注目していたが、あいつは片手5位内ランクになる器じゃない。馬鹿そうだからな。

 俺はまたすぐシトラスへの興味を失い、電子タバコに手を伸ばす。しかし最近喫煙本数を減らそうとしているため、いつも置いてある場所に望みのブツは無く、俺の右手は悲しく虚空をさまよった。

「おい、タバコどっかに――」
「今の所の全試合通しての被弾率は3%。4戦でポイントは300を超え、既にランクは4万位台です」
「――……は?」

 百田の言葉が一瞬頭をすっと通り抜け、戻ってきた。
 4戦で3%? ポイント300? そんな馬鹿な。

「ポイント内訳は、『完璧な試合パーフェクトゲーム』『相手は死ぬE・F・B』『見敵必殺サーチ&デストロイ』『駈歩キャンター』に『轢殺オーバーキル』……『神回避グレイズ』なんか一試合に何度もあったり……」
「おいおい待て待て。なんだそれ……上から順に名誉点オナーポイント項目を挙げてるだけだろ?」
「いえ、だから彼のポイント内訳ですってば」
「……嘘だろ?」

 俺は画面を注視する。
 ちょうどその瞬間、落ちる【質量の暴威】の下で横にすっ飛びながら回避するシトラスの姿が映し出された。
 画面右上の名誉オナー項目にまた「神回避」がぽこん、と追加される。

 ……なるほど。百田のくだらない冗談ではなさそうだ。

 「外」から見た試合で鳥肌が立ったのは、それこそあのクソボケ野郎と玻璃猫のお嬢ちゃんが戦っているの見た時以来だ。

「おいモモタロー」
「はい?」
「こいつの野良戦データ、保存分ありったけ持ってこい」
「……はい!」

 百田が嬉しそうに立ち上がる。その拍子にゆさっと揺れる乳には目もくれず、俺は食い入るように映像に向かった。

「よーしよし、いいぜシトラス。その調子でクソくだらねぇランク戦を混ぜっかえしてくれよぉ……?」

 俺はくすぶっていた心に小さく何かが灯るのを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

遠すぎた橋 【『軍神マルスの娘と呼ばれた女』 3】 -初めての負け戦 マーケットガーデン作戦ー

take
SF
千年後の未来。ポールシフトによって滅亡の淵に立たされた人類は、それまで築き上げた文明を失いいくつかの国に別れて争いを繰り返していた。唯一の「帝国」に産まれ育った少女ヤヨイは、アサシンとなった。  ついに帝国はチナ王国に宣戦を布告した。  陸軍特務少尉に任官したヤヨイも総力戦の渦中に身を投じる。無線の専門家でも武術の手練れでもない、多くの部下を指揮して新たな戦いに臨むヤヨイは空挺部隊指揮官として敵地に降下する。ヤヨイを密かに慕い陰ながら支えるリヨンは一人敵地に潜入し機甲師団の進軍を援け、孤立した空挺部隊を救おうとするのだが・・・。

処理中です...