ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問5 面の表裏を同時に照らせ

問5-5

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「つまり、僕にとっての強さの象徴が『これ』なんです!」

 孤狼丸がババン! と効果音を背に胸を張った。

「それ、かぁ……」
「それですか……」
「えー、いいじゃん。私は好きだよ?」
「だってさ。良かったなコロちゃん」

 要するに、男性型の獣人、荒くれ者の格好、ヤンキー風の言葉遣い、全てが彼――いや、彼女にとっての「強いイメージ」だったようだ。
 しょぼいイメージ……失礼、貧困な……失礼、底の浅い……駄目だ、どう言っても悪口になる。

「でも、シトラスさんの戦いを見てようやく分かりました! 強さって、外面的なものじゃなくて、もっと本質的なものなんだって!」
「へぇー……」

 イメージはともかく、言葉はめちゃくちゃ良いボキャブラリー持ってるじゃん、孤狼丸。
 ボキャブラリーモンスター、略してボキャモンと名付けよう。
 コミュモン2匹とボキャモン1匹、あと……超絶テクニックのテクモンも1匹いるな。
 
 なんの話だ。

「でもコロちゃん、こいつすぐカッコつけるぜ? 勝手に輝く俺と違って、輝こうと必死なヤツに弟子入りってのもどうかと思うよ?」

 だから俺の弟子に……と続けようとしたチョッキの言葉を、孤狼丸はかぶせ気味に遮る。

「だからです。自分で輝けない僕は、輝こうとする姿にあこがれて、教えを請うんです」
「ぐふぅ!」

 やめろ! それは正面から食らったチョッキより横にいる俺に効く!

「だから、お願いします、シトラスさん……いや師匠! あなたのテクニックと心構えを僕に教えて下さい!」
「いや、うーん……どうしよう……。まぁー、駄目……じゃないような、良いような……」

 正直戦った上で感じた彼女という人は、真っ直ぐだけどどこか抜けた会話の様子とは違い、知識と経験に裏付けされた堅実なものだった。
 デッキも既存の物を使い込み、自身の戦略に合わせて最適化され、更にオリジナリティを加えた研鑽の跡が見える良いデッキだった。

 いつも戦うみずちのストレートな凶暴さや、チョッキの頑なな慎重さとも違う。
 彼女の相手を「追い込む」冷静な戦い方は、俺の作る多くのデッキ戦略とも噛み合う。
 悪くないような気がしてきたぞ。

「本当ですか!?」

 キラキラと目を輝かせる孤狼丸。そう、そしてご存知の通り、俺は押しに弱い。
 心が揺らいだ俺に、横から声が差し込まれた。

「シトラスさん、一応言っておきますけど、駄目ですよ? 私達には時間が無いんです」
「で、ですよね」

 俺は音速で日和った。ミューミューの目は全く笑っていない。

 そうだ。何を馬鹿な事を考えているんだ橘良寛。
 俺たちには目的がある。約束がある。
 切羽詰まってるんだ。他に割く時間は無い。

「そうだよ。俺、まだ今日も10戦しか出来てないんだ。ランク上げの時間が全く足りない。孤狼丸……さん? 悪いけど、やっぱり駄目だ。ごめん。君の言葉は色々と嬉しかった。それに関してはありがとう。励みにするよ」
「励みにしてくれなくていいですから、弟子にして下さい!」
「いや、ごめん、本当に……っていうか、マジでそもそも間に合うのこれ?」

 ミューミューとの約束を守って「名高き術アルス・ノトリア」参戦を承諾してしまったが、よくよく考えるとキツイ気がする。
 一戦の試合時間の平均は、今回の速攻デッキをもってしても10~15分はかかっていた。
 そもそも接敵に時間がかかるのだ。こればっかりは如何ともし難い。
 そして一勝で手に入るランクポイントは10ポイントだそうだ。上位陣は既に何千ポイントと持っているらしい。
 使える時間を全部突っ込んでも間に合わない。っていうか、上位陣のポイントが異次元すぎる。一体何連勝すればそんなポイントになるのだ。

「そういえば今何ポイントですか? シトラスさん」
「10勝だから、100ポイントのはず」
「いえ、違うんです、ポイントには――」
名誉点オナーポイントがあるからもっと行ってるかもね!」

 みずちがもうランク画面を呼び出し、みんなに見える位置に画面を出していた。

「オナーポイント?」
「難しい条件を達成した上で勝つと、勝利点に上乗せされるボーナスのことです」
「え? そんなんあるの?」
「師匠、確かもう3万位台前半ですよ。僕さっき見ました」

 一瞬の静寂。

 時が動き出すと、彼らはずいっと孤狼丸に詰め寄った。

「「「3万位台!?」」」

 おおう……。3人が驚いている。
 俺も1日でそこまで来たのはでかいなぁと思ったが、みんなとの驚きの質が違う気がする。

「りょーちん……もう720ポイントある……」

 画面を操作し、俺の戦歴を確認したみずちが愕然とした表情で俺の方を向く。

「な、720? 10戦でか? おいおい勘弁してくれよパイセン。いきなりそれは……すげー爆発してんなぁ」
「どういう計算になってんだそれ、オナーポイントってそんなに付くの?」

 想像のおよそ7倍だ。どうなってるんだ、ポイントの公平性ってのは。

「接敵さえ出来れば早いデッキになったので、『駈歩キャンター』は安定して取れると思っていましたが、よもやそこまでとは……」

 ミューミューがちょっとだけ説明してくれるが、キャンターって言われても分からん。
 ――よし、後で調べよう。いくらなんでも情報不足過ぎる。

「今項目出したから、自分で見てみな?」

 みずちに促され、少し高い位置に表示された画面を見上げる。
 対戦相手と試合時間が表示された俺の戦績プレビューだ。各試合の横に獲得ポイントの表示がある。
 獲得ポイント内訳が更に右側に細かく表示されていた。
 ずらずらと並ぶ文字列に、5P、10Pとポイントが割り振られている。

「これが、俺の達成した『何か』への報奨ってことか」
「そうです。例えば今言った『駈歩キャンター』は、ゲーム時間が10分以内だった場合に手に入る名誉点項目です」
「オッケー把握した。名前でなんとなく想像が付くのが多いな。……これ、どっかに一覧ある?」
「後で送っておきます」
「助かります」

 なるほどなぁ。勝利することに付随する価値が大きい。
 負けたら名誉点も剥奪だそうなので、一層勝つことが重要になってくる。これのおかげで上位陣はポイントが大きかったのか。

「っていうことは、このペースで勝ち続けていただければ、僕を弟子にする時間があるってことですね!」

 ここで孤狼丸が主導権を取り返そうと話に突っ込んでくる。

「いや、まだ分からんし……」

 言葉を濁した俺に、誰かからの着信コールが響く。
 着信元プレイヤーは……「モモノヒ」……? どっかで聞いた事があるような。
 っていうか、通話ってフレンド登録済みのプレイヤーとしか出来ないはずなんだが。

「ごめん、一旦その話ストップ。モモノヒ……って人から着信あるんだけど、フレンドじゃないのに通話ってどういう事か誰か分かる?」
「それって……」
「ほら、あのいつも放送してる……えーっと……なんだっけ?」
「モモノヒちゃん!? 『書物の欲求デザイア』のリポーターの人じゃねぇか!」

 げげ、デザイア。
 すっかり返信忘れてた。

 ぴるるるる、と俺の耳に不吉に着信音が鳴り続ける。
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