ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問6 等速で進む線と線の交点をさぐれ

問6-2

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 ……これも違った。
 うーむ。分からん。
 次はどれだ?

 手札を見る。この手札は既に試した組み合わせだけだ。そろそろ潮時かな。
 俺は茂みを掻き分け、深い森から飛び出した。

 それを待っていたかのように、音もなく俺の正面に幾千もの刃が等間隔に浮かび上がり、駆け出そうとした俺の行く手を塞ぐ。
 視界いっぱいに埋め尽くされた【飛空剣の護り】は、俺が自決すべく突進でもしない限りは何の役にも立たない一時しのぎの防壁だ。
 俺は小首をかしげる。

「まさか、まんまじゃないよなぁ」

 一応手札から対処を考えてアクティブ化しておく。
 残念、まんまだった。

 現れた剣の壁は、何かに押されるように動き初め、全ての剣が正面へ……一本一本は「点」での攻撃でも、これだけあれば俺がどう動こうと避けようのない「面」での攻撃になる。
 俺は慌てず手近な場所に攻撃で穴を穿ち、自らの体をひょいと放り込んだ。

 無数の剣がそのまま穴の上を通り過ぎたのを確認し、俺は斬撃による暴威の通り過ぎた大地に再び降り立つ。
 対処は簡単。どれだけ広く面を作った攻撃でも、その範囲外に出れば問題はない。
 上と左右は駄目。前後も駄目。下はセーフ。馬鹿でも分かる。

 【サイコキネシス:ウォール】は壁の属性を持つカードのエフェクトを直線的ではあるが動かせるユーティリティカードだ。
 攻撃にもなりうる壁なら、これで2枚コンボだ! とは誰もが思うだろう。
 そう、誰にでも思いつく、初歩の初歩。そしてそれが使われていないのは、当然弱いからだ。

 俺は攻撃の主を探す。――いた。

「あれ撃つなら、視認出来るのこの辺だけだからなぁ」

 ぬっ、と俺は木陰に隠れた臆病者の前に姿を晒す。

「何で音速で見つけて来るんですかぁ……」

 また泣きそうな顔をしている。

「一旦ケリつけよう」
「はいぃ……」

 俺の攻撃が、わずかに残った孤狼丸のライフを削り取った。







「おつかれさん! 孤狼丸氏、どうだったかな? ……その顔は、駄目だったんでしょうな!」

 すまぬ事を聞いた! と勝手に盛り上がる男は、例の四天王のうちの一人だ。
 筋肉オブ筋肉。アバターのデータ容量を筋肉に全振りしたビューティフルボディ(とは本人談)の持ち主の名前は「前田さん」。
 前田さん、までがアバターネームなので、継承を付けると前田さんさんだ。
 一応あいさつをした時に冗談交じりで聞いたら、本名だとあっさり教えてくれた。ネットリテラシーに真っ向から異を唱える男だ。
 ちなみに四天王としての役職名は「OB」。よく卒業生などに使う「OldBoy」の略ではなく、「おじさん部隊」の略だそうだ。大して意味が変わらない事に謎のこだわりを見せるあたり、さすが玻璃猫組だと俺は妙に納得した。

「前田さん、ミューミューさんが来るまでもう少し時間ありますし、次は孤狼丸に代わって付き合ってもらっていいですか?」
「モチのロンだよ! 古いか! がはははは!」

 しかし、この人はまごうことなきおっさんだ。若いプレイヤーが多い中、ある意味新鮮ではある。

「その前に僕の駄目なところ、教えて下さい……」

 うなだれていた孤狼丸だったが、ぐい、と無理矢理頭を持ち上げて俺に詰め寄った。

「おっと、そうだな。ちょっと座るか」

 玻璃猫組上層部のみが使用を許される選ばれしフィールド、それが「にゃんにゃんすたじあむ」とのことだ。
 普通は1グループに1つプライベートフィールドを持っていれば良い方だが、玻璃猫組はデカいだけあって複数持っているらしい。ここはその中でも最上位。そもそも200人程度しか入れないフィールドだったとの事だ。
 今のところ、俺達がここを使って練習している事を知っている玻璃猫組所属プレイヤーは5人。
 その座を降ろされた孤狼丸は数に含んでいないので、リーダーも除けばマジで四天王の名にふさわしい4人という事だ。良かった良かった。これで彼らも堂々と名乗れる。

 選ばれし4人のメンツのうち、1人はもちろんぴょん吉。もう1人は前田さん。後はまだ会っていない。
 BUPPA! の5人と玻璃猫組の5人。全員合わせても10人というメンツで、この広いプライベートフィールドは正直持て余してた。
 なので、広さはあっても自然と中央の猫の像の前の広間に俺達は集まってきていた。
 このフィールドでのスポーン地点はここなので、誰かを待つのにも丁度いい。

 広間に置かれた猫を模した椅子に腰をかけると、俺は孤狼丸にビシッと言ってやった。

「笑え!!!」
「はい!!!!」

 ニカッと、孤狼丸は無理矢理笑い顔を作った。

「よーし!! いい笑顔だ。それをキープしろ。……今日の講義はここまで! 解散!」
「はやい」

 孤狼丸がぷるぷると首を横に振った。
 不満か? わがままだなぁ。

「じゃあ、とりあえず2つアドバイス。笑顔は冗談だけど、とにかく孤狼丸は顔に出やすい。見えていない時はともかく、相手の前ではポーカーフェイスを心がけて」
「なるほど」
「もう1つは、さっきみたいな『デザイナーズコンボ』に頼らない」
「デザイナーズコンボ……ってなんですか?」
「ゲーム開発者が、意図して組み込んだコンボだよ。壁を動かすって書いてあって、さっきの使い方をしたら『まんま』だろ? でもあえてわかりやすいそういうカードを作って、初心者に自分は強いと思い込んでもらうには最適だけどな」
「うーん、難しいです」
「例えば、【飛空剣の護り】を先起きして、対戦相手をそこに誘い込む。そうなったら相手は当然『飛空剣の護り』が襲いかかってくる! って考えそうでしょ?」
「たしかに、ただ壁として置いただけな訳がないから、そう思っちゃうかも知れません」
「だから、そこからもう1歩先に進む。予め飛空剣の反対側に風景に溶け込んだ壁を生成しておいて、そっちを動かす」
「ほう!?」
「で、そのまま相手ごと飛空剣にぐさり。意識は飛空剣に向くから、意外と当たるかもな。これが上手くいけば『プチロマン砲』だ」
「おぉー!」
「こんなの全く実用的じゃないという意味で、ロマンがある。でもリターンが少ないから、プチロマン砲。自己満足の産物だな」
「でも、考え方はそういう方向ですね?」
「その通り。出来るだけ相手の予想を上回れるようにすると、相手はどんどん戦いづらく感じてくる。そうなると、更に動きが予測出来るようになる。そしてその先の結果は……まあ実際に体感出来たと思うけど」
「……もう1回考え直してきます!」

 数瞬前のうなだれていた姿はどこかへ消え、また元気になった孤狼丸は一人でデッキを見直し始めた。

 よっしゃ、じゃあ次の模擬戦行きますか、と俺がウォームアップを始めたところで、広間の中央に光が集まる。
 そろそろ来たかな? と俺はミューミューを期待して目を向けた。

 現れたのは、昨日よりもラフな格好でにこやかに笑うリーダーだった。

「前田さん、行きましょう!」
「応!」

 設定を「バトルモード」に変え、俺たちは山へと向かった。
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