ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問6 等速で進む線と線の交点をさぐれ

答6-1

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 がおん、と轟音が耳の横を通り過ぎた。
 ひゅっ、と一瞬息が止まる。
 間髪入れずに同じ攻撃がもう一発。そちらは気づいていても避けきれずモロにくらった。
 撥ね飛ばされた俺は、地面を数メートル転がって止まる。

 突然の遭遇から攻撃を喰らい、追いかけても姿が見えず、警戒していたのにわずかに気の抜けた瞬間を狙っての奇襲だった。
 練り上げられた戦略の匂いがする。おそらく、1万位台では無い強さのプレイヤーだ。

 倒れたままではいられない。俺は片手で地を叩き無理やり体を跳ね起こすと、追撃の三発目は【脚火】を当てて弾く。
 うまいこと相殺出来たそれは漆黒のエフェクトの残影だけを残して消えた。
 その攻撃がなんなのかと意識を回す前に、反射的に振るった【スタンバトン】を左から襲いかかる「それ」に当てる。

 がいんっ! と二つの武器がぶつかりお互いのエフェクトを散らす。
 衝撃で土煙が上がり、確認しようと目を向けた相手を覆い隠した。

 鍔迫り合いはシステム的には無駄な行為だ。なぜなら力の強さは公平を期す為全く同じ。身体能力で差がつかないなら、後は押し引きのタイミングだけだ。
 見計らってもいないのに、お互いが武器を引いたのはほぼ同時だった。

 ここで体制を整えようとすると、また逃げられる。
 それじゃあずっと相手のペースだ。
 俺は咄嗟の判断に身を委ね突っ込む。
 おおよその位置を予測し【スタンバトン】を振るう。

 手応えなし、なし、なし……ヒットした!

 すかさず【光弾:小】をアクティブ化。目標に撃ち込む。
 土煙が収まった。

「なんぞー?」

 やや面食らったような顔でその場に立っていたのは、左右から編み込んだ毛を垂らした小さめのむぎわら帽子をかぶった少女だった。
 もさいオーバーオールにごてごてとついた謎の人形のストラップ。
 人形を無視すれば田舎の農作業娘のような格好だが、小動物のような可愛らしい容姿がそれを調和し、かえっておしゃれな雰囲気になっている。
 右手に持ったおどろおどろしい刀型のガジェット【朽梛くちな】がえらく不釣り合いだ。

 彼女は訝しげに俺を睨むと、口を開いた。

「ダメージカスじゃん、なーんだびっくりさせんな」

 言葉と同時に、ガッと踏み込んで刀を横一文字から雑に振るう。
 手首のスナップだけで薙いだ一閃は、現実世界なら全く力のこもっていない無意味な技。
 しかしこの世界で型は重要ではない。振るわれさえすれば、攻撃としての判定は問題なく入る。ならば最低限の力で振るうことこそが正解だ。

 彼女の鋭い攻撃は、俺の頬を掠めるに留まった。

「んな!?」

 【朽梛】は使ったことがあるので、武器の長さは把握済み。読み切った上で、お返しにバトンを彼女に打ち据える。
 手に伝わる衝撃に合わせ【激痛電】を流して麻痺コンボ完成だ。
 バトンそのものを当てた時のボーナスは2秒の硬直だが、電撃と組み合わせて6秒まで延長されている。ついでにダメージも1.5倍だ。

「ひゃぅっ!」

 彼女が苦悶に喘ぐ声を上げた。
 そのまま麻痺状態の彼女を【鳴神:玖】で大きく削ろうと溜め始めた俺に、状態異常で動けなくなったハズの彼女から反撃の刃が煌めく。

「うぉっ!」

 今度は俺が驚きで声を上げる。
 ギリギリでかわすが、腕全体ではなく手首を使って奇妙な軌跡で攻撃し続ける彼女に防戦一方になる。

「チャンバラガール、どして麻痺抜け?」

 避けながらなので変な日本語になった。片言の外国人みたいだ。

「ノーチャンバラガール、麻痺抜けイズ【キュアオーダー】」
「日本語で大丈夫です」
「あぁ!? 騙したな!?」

 知らん。騙す範囲恐ろしく狭いな。

 彼女はなかなか当たらない刀での攻撃を諦め、一旦距離を取ると、俺に細い指を向けた。
 おっと、それは良く知ってる。
 その指を素早く引き、俺に向かって刺すようなアクションをとった彼女の視線を良く観察し、三歩右に避ける。
 【刀身の苦無】のエフェクトがたった今俺が立っていた場所を貫いた。

 俺は溜まった【鳴神:玖】を彼女に向かって振り下ろし、膨れ上がった雲を飛ばす。
 ゆるいホーミングで追いかけ始めた雲から逃れるように、彼女は身を翻し、脱兎のごとく駆け出した。

 その逃走フォームは美しく、100mを自らの鍛えた肉体で駆け抜ける選手のように長いストライドが俺の意識を数瞬奪う。
 戦闘中という事を忘れ、彼女の背中をぽかんと見つめてしまった。
 はっと気づいたころにはすでに背中は小さく、その後ろをふよふよと雲が追うのが見える。

「ちょ、待てー!!」

 慌てて追いかけるが、振り向きもせず彼女は狭い屋内を走り抜ける。
 しかし、それは【鳴神:玖】への正しい対処方法だ。エフェクトが効果を失うまで走れば、追いつけない雷雲はやがて消える。
 だからこそ普段は足止めとのコンボにしているのだ。

「全く、なんだよこの娘は……」

 俺はそうひとりごちると、視界ディスプレイの右上に意識を向ける。
 プレイヤーネームは「レミングス」だ。
 無謀な突進で儚く命を散らしそうな名前だが、彼女のデッキはおそらく真逆だ。

 使われたカードは相手にヒットしたダメージから数%のライフを吸い上げる武器【朽梛】と、自らの状態異常を回復させる【キュアオーダー】。ばっちり食らった攻撃は相手の手札のコスト分ダメージが増える【債権者の穿ち】だ。
 さっきのヒットアンドアウェイの戦法とそのカード達から鑑みて、長期戦を目指しながら一方的に削るつもりのゲリラ戦術だ。
 自分はダメージを軽減し、身を隠しながら要所で仕掛ける。
 「忍者スタイル」に良く似ているが、身を隠す手段の代わりに回復手段が豊富なためゾンビアタックで削ってくることもある分やっかいだ。
 俺のデッキにあるいくつかの異常状態付与系のカードも通用しにくくなるだろう。

 さて、どうやって攻めていこうか。

 俺は朽ち果て、砂に侵食された医療施設を走り抜けながら、戦略思考の海に沈む。
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