ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問6 等速で進む線と線の交点をさぐれ

答6-3

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「あんた、面白いね」

 レミングスは、顔に似合わぬ大人びた雰囲気を漂わせ笑う。
 まぁ、アバターが田舎娘でも中身が似た存在とは限らんからな。

「アリガトゴザマス。オネーサンモツヨイネー」
「何だよさっきから!? 外人さんか?」
「違いますよ、純日本人です」
「うっとおしいな……」

 目測で距離を一定に保ちながら相手の出方を窺う。
 水流によって武器は流されたようだ。一応武装解除も【濁流の垂下】の役割なので、上手く行っている。
 少し苛ついたようなレミングスは、まだ大きなアクションをする気配は見えない。

 なら、俺から仕掛けた方がいいか。
 時間を使うのが相手の戦略なら、乗ってやる必要は無いだろう。

「ごめんなさい。それじゃ、また後で」

 俺はくるり、と振り返ると、先程の彼女のように全力で駆け出した。

「はぁっ!? おい、なんだそれ!」

 思わず追ってくれてるか? 彼女の声が少し近づく気配を背後から感じながら、俺は曲がり角の壁に突っ込むようなスピードで直進する。
 壁の直前でジャンプ。勢いのまま両足での飛び蹴りの要領で壁に足を付ける。
 もちっとした独特の感触で壁に吸い付き、バネのように足を縮ませた。反動を力に変え、地面と水平に跳ねる。そのまま彼女に向かって【空中跳躍】で一気に体当たりを狙う。
 意表を付けたと思ったが、彼女は慌てず手の平を俺に向けるのが見えた。

「おっと!」

 俺ももう1枚の【空中跳躍】でレミングスの頭上を越えるように方向転換した。
 ギリギリで【債権者の穿ち】が体をかすめる。あと1発。
 彼女を飛び越え背後へ。

 手札を使って減らしていれば【債権者の穿ち】はそれほど怖くはないが、何かを狙ってる雰囲気がある。
 それを見てみたい気もするが、勝利への貪欲さは忘れちゃ駄目だ。

「ぴょんぴょんぴょんぴょんと、アクロバティックだね、あんた。ちょっと止まってくれない?」

 めんどくさそうにそんな事言われても困る。俺は返事の代わりに手札をアクティブ化させた。
 【さざなみの調べ】の波動がすぅ、と広がり、バックステップしたもののわずかに反応が遅れた彼女になんとか届いた。
 彼女を中心に青白い輝きが立ち昇る。
 このエフェクトは対戦相手の体全体を包んでくれるので、一瞬だが目くらましの効果がある。今日たまたま別の試合で気付いた微妙なテクニックだが、そのタイミングを見計らって俺は誰も居ない右手方向に素早く【光弾:小】を放った。

 ぱぱん、と着弾音が響き、反射的に彼女はそちらに顔を向ける。
 一瞬だったはずの隙が、数秒の隙に変わる。

 俺は【脚火】で一気に距離を詰める。すぐに俺に目を向けた彼女はアクションの動作をしたが、その攻撃は俺の急停止でタイミングをずらされ、俺と彼女の間に黒い竜巻が急に吹き荒れた。

 あー、何だっけ? 【四肢舞ししまい】か【雲上へのいざない】だったはず。竜巻の色が微妙に違うだけだからちょっと自信が無い。

 急停止は壁のように配置した【空画整理】だ。これまた飛び蹴りに見せかけて足をくっつけただけ。【脚火】は無駄撃ちになるが仕方ない。
 俺は見えない壁に足を付けながら、手だけを地面に伸ばしてドローしたばかりの【激痛電】を流す。
 相手のライフが減るのが視界ディスプレイで確認出来る。ようやく同ライフまで削った。

 残った使えそうな手札は【鳴神:玖】が1枚のみ。
 定石なら距離をとって【玖】を溜めるべきだが、俺はあえて近づく。
 壁から下り彼女に向かって反転すると、未だ荒ぶる竜巻の脇を抜け、近接戦闘へ移行するべく躍りかかった。

「へっ!? やだっ!!」

 足元の水を跳ね飛ばしながら、彼女が美しいフォームで上段蹴りを繰り出す。
 現実の身体能力もある程度反映されるこの手のリアル武術は反則級だ。俺の超我流武術なんかじゃ相手にならない。

 見誤った!

 俺はやすやすと蹴り飛ばされると、その攻撃の先に呼び出された彼女の2つ目の竜巻に放り込まれた。

 まさか剣術だけじゃないとは。しかも竜巻も2発目。またも「だろう」で酷い目にあった。
 すぐに頭を切り替えて脳の容量を分析に回す。ダメージは無い。ならば【雲上への誘い】だ。
 
 俺は巻き上げられ、高く飛ばされる。【地獄釜】と違い、相手を打ち上げることだけに集中したバレットカードだ。おそらく、ここからは彼女の土俵だ。

 反撃を祈り、ドロータイムが明けてスロットに入って来たカードはまたも【光弾:小】だった。

 なんでこんなもん3枚フル投入したんだよぉ!

 まずい。俺のライフは連続で大技を喰らえば最悪消し飛んでしまう。

 彼女の狙いは、まず竜巻。次に空中から地上への叩き落とし。ダメージでライフが半分を切る。
 俺が立ち上がりぎわ、重心の位置まで計算ずくでそれを崩すように小さな爆発を起こされた。立ち上がれず倒れ込んだ俺に、すかさず【債権者の穿ち】で大きく削られた。

 やばい、跳ね上がれ、と思った瞬間にはいつの間にかまた手に刀を持った彼女が、俺の心臓――急所判定のある部位を貫くべく刃を伸ばし、ぎりぎりで俺は肩を前に出して防ぐ。
 左肩に食い込む【朽梛】がダメージ判定の痛みを継続的に伝える。

 彼女と目が合った。
 笑っている。蔑みではない、単なる喜悦。

 そうだよな、自前のコンボが決まると楽しいよな。
 俺は今、超悔しい。

 彼女が押し込むように【朽梛】を蹴る。
 俺は倒れ込み、【朽梛】というくさびで地面に穿たれた。

 手札は今更な【玖】と使用回数が余った【空画整理】。今出てきても何の意味もない【スタンバトン】と哀しみの【光弾:小】だ。
 この試合は軒並み「駄目な砲」だった。

 彼女はぼそっと何かを呟くと、【朽梛】に何らかのステータスを付与し、俺のそばを離れ詠唱を始める。【朽梛】は俺が身じろぎをしても動かなくなった。

 詰んだ。

 俺がいつぞや【鳴神:萬】のロマン砲を決めた時と逆の状況だ。俺は足止めされ、彼女の「必殺技」を待つだけ。

 詠唱により、彼女の足元に表示された魔法円がどんどんと複雑な文様を増やす。よく観察出来ればその円からカードのヒントを読み取れるが、あいにく俺は冷たい廊下に縫い付けられている。何が来るかは分からない。

 思えば、今までが順調過ぎたんだ。デッキも悪かったし、ドローがダメならそりゃこういう事になるさ。
 万全な状態なら何とかなったかも知れないが、今更言っても後の祭りだ。

 せめて最後は派手に散るか?
 いいや、駄目だね。ダサくても、ギリギリまで足掻こう。
 俺は彼女の詠唱が終わる直前、一番気が抜ける瞬間を見計らい、なけなしの【光弾:小】を彼女に飛ばした。

 それは、少し動けば避けられたような、脅威とはとても言えない一発。
 彼女は余裕からか、それともやはり気の緩みからか、その攻撃を甘んじて受ける。
 何事も起こらないはずの、ただの無駄な足掻きのはずだった。
 だが、その小さな煌めく光弾ライトバレットは彼女に当たるとひときわ大きく光を放った。

 それは、隠され続けてきた【光弾:小】のもうひとつの役割。

 彼女の描いた魔法円が綺麗に消え、「必殺技」は日の目を見る事無く霧散した。


「「……は?」」


 音の消えた空間に、二人の声がこだました。

 強制的な詠唱キャンセル。
 シンプルだが、未だ発見されていない、どこかにあるはずだと言われていた効果が、ついに発揮された瞬間だった。
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