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ep14 あかい気持ち(1)
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ずいぶんと長く眠ってしまったようだった。
聞けば一日半も眠っていたという。一瞬、今度は時空でも越えたのかと思った。
「どうかお願いでございます、もうあまりご無理をなさらないでくださいませ。」
悲しい顔をするミレナに申し訳ない気持ちが湧いた。
「ごめんね……思ったより、集中しすぎちゃって……。」
正直なところ、何をどうしていたかの記憶は曖昧だ。読んだ資料のことは不思議と覚えているが、自分の行動がすっぽり抜けている。
「セリアス様も、じきにお戻りになられます。――このところ、ずっと付きっきりでらっしゃったのですよ。
今はどうしても陛下とのお話し合いがあるので外されているだけで、渋々と出ていかれました。」
「それは渋々じゃない方がいいと思う。」
思わず真面目に言った。
そんな態度だと、『セリアスを誑かした!打首だ!』なんて言われないだろうかと、ちょっとそわそわする。
今更そんな死に方はしたくないし、セリアスとも離されたくない。
『どうしてもの話し合い』は、なにか悪いことだったりしないだろうかと心配しつつ、お風呂から上がったところで当のセリアスが顔を出した。
あ、と思ったと同時、セリアスの顔がぱあっと明るくなった。しっぽが見える。
ほっと安堵した。
この雰囲気なら大丈夫だ。多分追放は免れた。
「ヒナタ。結婚の許しを得た。結婚しよう。」
「待って。」
追放の二文字が舞い戻ってきた。なんでそうなった。
長い眠りで鈍りきった頭でも分かる。
起きたのか、とか、心配した、とか。いかにもセリアスが言いそうな事をすべてすっ飛ばしての、その発言には危険な香りしかしない。
「正しく言えば、結婚というより“誓約”だが――」
「詳しい説明を求めます。」
間髪入れずに挙手した。
――矢先、腹の虫が鳴る。空気を読めない身体が恨めしい。
少し恥ずかしさを覚えたのに、それすらもセリアスは愛おしそうにして頬を緩めた。
「ヒナタがご飯を食べてくれるだけで、私は嬉しい。」
――なんてこった。嬉しいレベルがすごく下がっている。
もしかしたら記憶が曖昧な間、とても心配をかけたのかもしれない。
そういえば高校受験の時も、しばらく周囲の様子が変になったことを思い出して、同じような事をしたのかもしれないと少し後悔した。
申し訳なさ半分、それでもこんなふうに愛をもって見つめてくれる人が居るのは――やっぱり、嬉しい。
ミレナが用意してくれた遅めの昼餉を食べながらセリアスと向き合う。
記憶の曖昧な期間がある上に長く寝ていたせいで、いまいち現状についていけない気持ちのままだった。
「そういえば、夢じゃなければだけど。――浄化って、成功……したよね?」
「成功だ。」
きっぱりと言い切る深い頷きに安堵する。あれで夢だったら目も当てられない。
「よかった……。でも、まだ何回か試さないとだよね。」
「そうだな。それについては、ヒナタの体調次第で再開しようと思うが、この部屋で実施になるだろうな。」
「学習室じゃなくて?」
「……成功した事が城に知れ渡っている。見物客が来ると面倒だ。しばらくは室内で大人しくしていた方がいいだろう。」
なんて厄介な。咄嗟に感じた気持ちは口にしなかった。きっと色々な事情がある。
「そのあたりは任せるけど……それで、“誓約”って?」
セリアスの顔が輝く。 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの顔だ。
「王族と神子の生涯の誓いだ。父祖が定めた聖なる掟らしい。
結んだ王族は王位継承権を失い、神子のために生きる。神子もまた、その王族のためだけに生きる。
そういった誓約だが、父上にも承認いただいたので問題ない。」
「……なるほど?」
それは、おおごとでは。
色んな事があった後の、それも寝起きの食事時に飲み込むには重たい内容だった。
本当に問題はないのだろうか。セリアスの勢いに押されて、つっこむ内容が見つからない。
どこかセリアスの箍が外れている気がする。
「――セリアスはそうしたいって事だよね?」
かろうじて、それだけ問いかければ、深く頷かれる。
「もちろんだ。元より王権に未練などない。
神官になるようにねじ伏せたのもそのせいなのだから、今更だ。
なに。万一、何かがあったとて、私が居なくても即妃の子は多くいるから問題ない。」
いいのかそれで。そう思わないでもなかったが、きっぱりと言い切る姿に思考を放棄する。
王と王子がいいのなら、自分が考えても仕方がない。
セリアスと共に人生を過ごす事に異論はない。あまり頭がついていっていない感はあれど、お互いがそれでいいのであれば、問題もないだろう。
「一緒にいられるなら、何でもいいよ。」
飾らず正直な気持ちを伝えることにした。
有り体に言いすぎて、もしかすると多少顔が赤くなっているかもしれなかった。
「早急に事を進めてすまない。」
少しだけ申し訳なさそうに、だけど彼は嬉しそうに笑う。
「……私は、そなたを誰にも渡したくないのだ。」
あまりにもストレートな言葉に返す言葉がない。
きっと、今度はあからさまに赤くなったこの顔の熱も、彼なら受け入れてくれるに違いなかった。
聞けば一日半も眠っていたという。一瞬、今度は時空でも越えたのかと思った。
「どうかお願いでございます、もうあまりご無理をなさらないでくださいませ。」
悲しい顔をするミレナに申し訳ない気持ちが湧いた。
「ごめんね……思ったより、集中しすぎちゃって……。」
正直なところ、何をどうしていたかの記憶は曖昧だ。読んだ資料のことは不思議と覚えているが、自分の行動がすっぽり抜けている。
「セリアス様も、じきにお戻りになられます。――このところ、ずっと付きっきりでらっしゃったのですよ。
今はどうしても陛下とのお話し合いがあるので外されているだけで、渋々と出ていかれました。」
「それは渋々じゃない方がいいと思う。」
思わず真面目に言った。
そんな態度だと、『セリアスを誑かした!打首だ!』なんて言われないだろうかと、ちょっとそわそわする。
今更そんな死に方はしたくないし、セリアスとも離されたくない。
『どうしてもの話し合い』は、なにか悪いことだったりしないだろうかと心配しつつ、お風呂から上がったところで当のセリアスが顔を出した。
あ、と思ったと同時、セリアスの顔がぱあっと明るくなった。しっぽが見える。
ほっと安堵した。
この雰囲気なら大丈夫だ。多分追放は免れた。
「ヒナタ。結婚の許しを得た。結婚しよう。」
「待って。」
追放の二文字が舞い戻ってきた。なんでそうなった。
長い眠りで鈍りきった頭でも分かる。
起きたのか、とか、心配した、とか。いかにもセリアスが言いそうな事をすべてすっ飛ばしての、その発言には危険な香りしかしない。
「正しく言えば、結婚というより“誓約”だが――」
「詳しい説明を求めます。」
間髪入れずに挙手した。
――矢先、腹の虫が鳴る。空気を読めない身体が恨めしい。
少し恥ずかしさを覚えたのに、それすらもセリアスは愛おしそうにして頬を緩めた。
「ヒナタがご飯を食べてくれるだけで、私は嬉しい。」
――なんてこった。嬉しいレベルがすごく下がっている。
もしかしたら記憶が曖昧な間、とても心配をかけたのかもしれない。
そういえば高校受験の時も、しばらく周囲の様子が変になったことを思い出して、同じような事をしたのかもしれないと少し後悔した。
申し訳なさ半分、それでもこんなふうに愛をもって見つめてくれる人が居るのは――やっぱり、嬉しい。
ミレナが用意してくれた遅めの昼餉を食べながらセリアスと向き合う。
記憶の曖昧な期間がある上に長く寝ていたせいで、いまいち現状についていけない気持ちのままだった。
「そういえば、夢じゃなければだけど。――浄化って、成功……したよね?」
「成功だ。」
きっぱりと言い切る深い頷きに安堵する。あれで夢だったら目も当てられない。
「よかった……。でも、まだ何回か試さないとだよね。」
「そうだな。それについては、ヒナタの体調次第で再開しようと思うが、この部屋で実施になるだろうな。」
「学習室じゃなくて?」
「……成功した事が城に知れ渡っている。見物客が来ると面倒だ。しばらくは室内で大人しくしていた方がいいだろう。」
なんて厄介な。咄嗟に感じた気持ちは口にしなかった。きっと色々な事情がある。
「そのあたりは任せるけど……それで、“誓約”って?」
セリアスの顔が輝く。 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの顔だ。
「王族と神子の生涯の誓いだ。父祖が定めた聖なる掟らしい。
結んだ王族は王位継承権を失い、神子のために生きる。神子もまた、その王族のためだけに生きる。
そういった誓約だが、父上にも承認いただいたので問題ない。」
「……なるほど?」
それは、おおごとでは。
色んな事があった後の、それも寝起きの食事時に飲み込むには重たい内容だった。
本当に問題はないのだろうか。セリアスの勢いに押されて、つっこむ内容が見つからない。
どこかセリアスの箍が外れている気がする。
「――セリアスはそうしたいって事だよね?」
かろうじて、それだけ問いかければ、深く頷かれる。
「もちろんだ。元より王権に未練などない。
神官になるようにねじ伏せたのもそのせいなのだから、今更だ。
なに。万一、何かがあったとて、私が居なくても即妃の子は多くいるから問題ない。」
いいのかそれで。そう思わないでもなかったが、きっぱりと言い切る姿に思考を放棄する。
王と王子がいいのなら、自分が考えても仕方がない。
セリアスと共に人生を過ごす事に異論はない。あまり頭がついていっていない感はあれど、お互いがそれでいいのであれば、問題もないだろう。
「一緒にいられるなら、何でもいいよ。」
飾らず正直な気持ちを伝えることにした。
有り体に言いすぎて、もしかすると多少顔が赤くなっているかもしれなかった。
「早急に事を進めてすまない。」
少しだけ申し訳なさそうに、だけど彼は嬉しそうに笑う。
「……私は、そなたを誰にも渡したくないのだ。」
あまりにもストレートな言葉に返す言葉がない。
きっと、今度はあからさまに赤くなったこの顔の熱も、彼なら受け入れてくれるに違いなかった。
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