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5.隣国の公爵令息
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オスカーやアミーラの一件があって以降、マーヤはエレノアと仲良くなった。
学園ではいつもエレノアと一緒に過ごしている。
「まあ、マーヤ様、その刺繍、素敵ですわ」
「ありがとう、エレノアさん」
現在マーヤとエレノアは授業が空きコマなので、サロンで刺繍をしているのだ。
マーヤは白いハンカチにブルーローズ王国の国花である青い薔薇の刺繍をしていた。
青と紺の艶やかな糸を使い分け、陰影がある豪華な刺繍である。
我ながら上出来だと思ったマーヤは、満足げに口角を上げた。
ふとエレノアの刺繍に目を向けると、ピンク色の可愛らしいチューリップが白いハンカチに咲き誇っていた。
「エレノアさんの刺繍、とても可愛らしいわ」
マーヤは思わず表情を綻ばせていた。
「ありがとうございます、マーヤ様」
マーヤに褒められたことが嬉しかったのか、エレノアは満面の笑みである。まるで刺繍のチューリップに負けないくらいの可愛らしさだ。
「それにしても、この本の図案はもうすぐ最後ね」
マーヤは刺繍の図案本をパラパラとめくる。
大体の図案の刺繍はもう完成させていたのだ。
「そうですわね。でしたら、図書室に新しい刺繍の図案を借りに行くのはどうでしょうか? まだ次の授業まで時間がありますし」
エレノアは少し考える素振りをし、そう提案してくれた。
「妙案ね、エレノアさん。ならば早速図書室へ行きましょうか」
「はい、マーヤ様」
こうしてマーヤはエレノアと共に図書室へ向かった。
◇◇◇◇
(ここが学園の図書館……! 前世の動画とかで見たヨーロッパにある感じの雰囲気……!)
初めて来た図書室に、マーヤは圧倒されていた。
ブルーローズ王国貴族学園の図書室は茶色を基調としたアンティーク風の本棚が並んでいる。
天井高くまである本棚と天井のフレスコ画が重厚な雰囲気を作っていた。
「マーヤ様、確か刺繍の図案はこの辺りにあったはずですわ」
エレノアに案内され、マーヤは刺繍の図案の本がある場所まで辿り着く。
「あ、本当ね。でも……」
刺繍の図案の本を見つけたマーヤだが、本棚を見上げて困惑した表情を浮かべる。
マーヤやエレノアの身長では届かない位置にあるのだ。
試しにマーヤが背伸びをして本棚の上の方に手を伸ばしてみるが、やはり届かない。
「マーヤ様、やはり梯子か台を持って来るしかなさそうですわね」
「そうね」
マーヤがそうため息をついた瞬間、スッとマーヤの頭上に誰かの手が伸びた。
「目的の本はこれだろうか?」
スラリとした長身で、ブルーグレーの髪に穏やかな黄緑色の目。端正な顔立ちの令息だ。
「はい。ありがとうございます」
マーヤは少し緊張しながら刺繍の図案が載った本を令息から受け取った。
すると、本棚の影からひょこっとまた別の令息が現れた。
「お、ベネディクト、どうした? ご令嬢達を誘っているのか?」
ニヤリと白い歯を見せて笑う令息だ。その髪は明るいオレンジ色で、目の色はグレーである。どこか軟派な印象を与えるような顔立ちだ。背丈は先程マーヤに本を渡してくれたベネディクトという令息と同じくらいである。
「ご令嬢方が本を取れずに困っていたから、取っただけだ」
ベネディクトは呆れたような表情を軟派そうな令息に向けていた。
「へえ」
軟派そうな顔立ちの令息はマーヤ達に目を向ける。
「初めまして。俺はデルフィニウム侯爵家が長男ユージンと言います」
ユージンと名乗った軟派そうな令息はニッと白い歯を見せた。
「ウィステリア公爵家が長女マーヤですわ」
「私は、ゼラニウム伯爵家が長女エレノアでございます」
マーヤとエレノアも自己紹介をした。
「おお、ウィステリア公爵家のご令嬢とゼラニウム伯爵家のご令嬢でしたか。突然のお声がけ失礼しました」
軟派な印象だったユージンだが、紳士的でもあるようだ。
「そして彼はリースブラン帝国からの留学生。ベネディクトです」
ユージンはベネディクトの紹介をした。
するとマーヤは水色の目を見開く。
「まあ、リースブラン帝国から」
「リースブラン帝国と言えば、ブルーローズ王国と同盟を結んでいる友好国ですわね」
エレノアも思い出すかのような素振りである。
「改めて、私はリースブラン帝国スリジエ公爵家が長男ベネディクトだ」
ブルーローズ王国とリースブラン帝国は使用言語が違う。しかしベネディクトは癖のない流暢なブルーローズ王国の言葉を話していた。
「お二人とも、よろしくお願いします。ベネディクト様、先程は本を取っていただきありがとうございました」
マーヤがニコリと笑うと、ベネディクトはほんの少し照れたような表情になる。
「いや、私は別に大したことはしていない」
マーヤから黄緑色の目をやや逸らすベネディクトの頬は、少しだけ赤く染まっているように見えた。
「マーヤ嬢とエレノア嬢のお二人は刺繍をするのですか?」
ユージンに聞かれ、マーヤとエレノアは「ええ」と頷く。
「新しい刺繍の図案が載っている本を探しに、マーヤ様と図書室に来たところだったのです」
「そうでしたか。エレノア嬢の刺繍、是非見てみたいです」
「私のでよろしければ、後程いくつかお持ちいたしますわ」
エレノアとユージンは何やら楽しそうである。
「エレノア様とユージン様……盛り上がっておりますわね」
「ああ」
マーヤとベネディクトは二人を見守るようにクスッと笑った。
「マーヤ嬢。同じ公爵家同士だ。気楽にしてくれて構わない」
「では、そうするわね」
マーヤは肩の力を抜いた。
こうして、マーヤとエレノアはベネディクトとユージンの二人と出会い、交流を開始するのであった。
ベネディクトとユージンには婚約者はいないのだが、マーヤとエレノアには一応まだ婚約者がいる状態である。
よって、異性と二人きりになる状態は避け、四人で行動することが多くなっていた。
学園ではいつもエレノアと一緒に過ごしている。
「まあ、マーヤ様、その刺繍、素敵ですわ」
「ありがとう、エレノアさん」
現在マーヤとエレノアは授業が空きコマなので、サロンで刺繍をしているのだ。
マーヤは白いハンカチにブルーローズ王国の国花である青い薔薇の刺繍をしていた。
青と紺の艶やかな糸を使い分け、陰影がある豪華な刺繍である。
我ながら上出来だと思ったマーヤは、満足げに口角を上げた。
ふとエレノアの刺繍に目を向けると、ピンク色の可愛らしいチューリップが白いハンカチに咲き誇っていた。
「エレノアさんの刺繍、とても可愛らしいわ」
マーヤは思わず表情を綻ばせていた。
「ありがとうございます、マーヤ様」
マーヤに褒められたことが嬉しかったのか、エレノアは満面の笑みである。まるで刺繍のチューリップに負けないくらいの可愛らしさだ。
「それにしても、この本の図案はもうすぐ最後ね」
マーヤは刺繍の図案本をパラパラとめくる。
大体の図案の刺繍はもう完成させていたのだ。
「そうですわね。でしたら、図書室に新しい刺繍の図案を借りに行くのはどうでしょうか? まだ次の授業まで時間がありますし」
エレノアは少し考える素振りをし、そう提案してくれた。
「妙案ね、エレノアさん。ならば早速図書室へ行きましょうか」
「はい、マーヤ様」
こうしてマーヤはエレノアと共に図書室へ向かった。
◇◇◇◇
(ここが学園の図書館……! 前世の動画とかで見たヨーロッパにある感じの雰囲気……!)
初めて来た図書室に、マーヤは圧倒されていた。
ブルーローズ王国貴族学園の図書室は茶色を基調としたアンティーク風の本棚が並んでいる。
天井高くまである本棚と天井のフレスコ画が重厚な雰囲気を作っていた。
「マーヤ様、確か刺繍の図案はこの辺りにあったはずですわ」
エレノアに案内され、マーヤは刺繍の図案の本がある場所まで辿り着く。
「あ、本当ね。でも……」
刺繍の図案の本を見つけたマーヤだが、本棚を見上げて困惑した表情を浮かべる。
マーヤやエレノアの身長では届かない位置にあるのだ。
試しにマーヤが背伸びをして本棚の上の方に手を伸ばしてみるが、やはり届かない。
「マーヤ様、やはり梯子か台を持って来るしかなさそうですわね」
「そうね」
マーヤがそうため息をついた瞬間、スッとマーヤの頭上に誰かの手が伸びた。
「目的の本はこれだろうか?」
スラリとした長身で、ブルーグレーの髪に穏やかな黄緑色の目。端正な顔立ちの令息だ。
「はい。ありがとうございます」
マーヤは少し緊張しながら刺繍の図案が載った本を令息から受け取った。
すると、本棚の影からひょこっとまた別の令息が現れた。
「お、ベネディクト、どうした? ご令嬢達を誘っているのか?」
ニヤリと白い歯を見せて笑う令息だ。その髪は明るいオレンジ色で、目の色はグレーである。どこか軟派な印象を与えるような顔立ちだ。背丈は先程マーヤに本を渡してくれたベネディクトという令息と同じくらいである。
「ご令嬢方が本を取れずに困っていたから、取っただけだ」
ベネディクトは呆れたような表情を軟派そうな令息に向けていた。
「へえ」
軟派そうな顔立ちの令息はマーヤ達に目を向ける。
「初めまして。俺はデルフィニウム侯爵家が長男ユージンと言います」
ユージンと名乗った軟派そうな令息はニッと白い歯を見せた。
「ウィステリア公爵家が長女マーヤですわ」
「私は、ゼラニウム伯爵家が長女エレノアでございます」
マーヤとエレノアも自己紹介をした。
「おお、ウィステリア公爵家のご令嬢とゼラニウム伯爵家のご令嬢でしたか。突然のお声がけ失礼しました」
軟派な印象だったユージンだが、紳士的でもあるようだ。
「そして彼はリースブラン帝国からの留学生。ベネディクトです」
ユージンはベネディクトの紹介をした。
するとマーヤは水色の目を見開く。
「まあ、リースブラン帝国から」
「リースブラン帝国と言えば、ブルーローズ王国と同盟を結んでいる友好国ですわね」
エレノアも思い出すかのような素振りである。
「改めて、私はリースブラン帝国スリジエ公爵家が長男ベネディクトだ」
ブルーローズ王国とリースブラン帝国は使用言語が違う。しかしベネディクトは癖のない流暢なブルーローズ王国の言葉を話していた。
「お二人とも、よろしくお願いします。ベネディクト様、先程は本を取っていただきありがとうございました」
マーヤがニコリと笑うと、ベネディクトはほんの少し照れたような表情になる。
「いや、私は別に大したことはしていない」
マーヤから黄緑色の目をやや逸らすベネディクトの頬は、少しだけ赤く染まっているように見えた。
「マーヤ嬢とエレノア嬢のお二人は刺繍をするのですか?」
ユージンに聞かれ、マーヤとエレノアは「ええ」と頷く。
「新しい刺繍の図案が載っている本を探しに、マーヤ様と図書室に来たところだったのです」
「そうでしたか。エレノア嬢の刺繍、是非見てみたいです」
「私のでよろしければ、後程いくつかお持ちいたしますわ」
エレノアとユージンは何やら楽しそうである。
「エレノア様とユージン様……盛り上がっておりますわね」
「ああ」
マーヤとベネディクトは二人を見守るようにクスッと笑った。
「マーヤ嬢。同じ公爵家同士だ。気楽にしてくれて構わない」
「では、そうするわね」
マーヤは肩の力を抜いた。
こうして、マーヤとエレノアはベネディクトとユージンの二人と出会い、交流を開始するのであった。
ベネディクトとユージンには婚約者はいないのだが、マーヤとエレノアには一応まだ婚約者がいる状態である。
よって、異性と二人きりになる状態は避け、四人で行動することが多くなっていた。
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