婚約者は無神経な転生悪役令嬢に夢中のようです

宝月 蓮

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7.婚約破棄

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「私と彼らは今はまだ友人なのよ。でも、私がアレクシス様以外の男の人を侍らせていると女の人から悪口を言われるのよ。さっきの授業前だって言われたわ。私、それにとっても傷付いているの」
 相変わらず甲高い声を出すアミーラは涙目である。
(はい……?)
 マーヤはいまだにアミーラが何を言っているのか理解出来ない。
 言葉自体の意味は分かる。しかし、どうしてその発想になったのかが理解不能だった。
「えっと……それはアミーラ様が王太子殿下以外を遠ざけたら良い話なのでは?」
 マーヤは困惑しながらも思っていることを口にした。
「違うわ、私は悪くない。悪いのは婚約者の手綱を握れない貴女達なのよ。私は貴女達のせいで傷付いているの。貴女達と、学園にいる女の人達のせいで。私は誰の悪口も言っていないのに。だから攻略対象のアレクシス様達だけでなく、他のモブ達からも優しくされるべき存在なのに」
 その言葉にマーヤはあんぐりとした。
(とりあえず、攻略対象とかモブという言葉が出たからアミーラ様は転生者で完全に確定。それはそれとして……その考え方ってどうなの? 無神経というか……独りよがりの考えを周囲に押し付けるというか……。ある種自己中心的なんだけど、このタイプは初めてね)
 マーヤにとって、前世も含めて目の前にいるアミーラは出会ったことのない人種だった。
「アミーラ様……貴女は一体何を仰っているのです? 攻略対象……? モブ……?」
 エレノアもマーヤと同じくポカンとしていた。
 その様子から、エレノアは転生者ではないと予想出来る。
 周囲もざわざわと困惑していた。

「何をしている!?」
 その時、凛とした声が響く。
 ハニーブロンドの髪に宝石のような青い目。この世の美しいもの全てをかき集めたような美貌の持ち主。
 王太子アレクシスがやって来たのだ。
「君達、私のアミーラを傷付けたようだね」
 アレクシスの鋭い声に、マーヤとエレノアはビクリと肩を震わせる。
 まさか王太子が来るとは思わなかった。
(王太子殿下……面倒なことになったわね。敵に回したら家族が危ないかしら?)
 マーヤは冷や汗をかいていた。
 アミーラの方がおかしいのだが、王族であるアレクシスはアミーラに夢中なようだ。
 アレクシスがマーヤ達の方を悪と判断したらそうなってしまう。
 チラリとエレノアの方を見ると、マーヤと同じように少し表情が青ざめている。
 すると、そこへオスカー、グレン、サイモンもやって来た。
 どうやら授業が終わったらしい。
「殿下、こんな奴らわざわざ殿下の手を煩わせる程の存在ではありません。マーヤは俺に任せてください」
「エレノアは私とサイモンが対応しますので」
「本当に僕の姉は恥ずかしい存在だ」
 三人はマーヤとエレノアに忌々しげな視線を向けていた。
「そうか。ならばお前達に任せよう」
 アレクシスがマーヤ達に手出しをしないことになり、マーヤとエレノアは少しだけホッと胸を撫で下ろした。
 しかし、間髪入れずオスカーはマーヤに罵声を浴びせる。
「マーヤ! よくもアミーラ嬢を傷付けたな! 彼女は心優しく繊細なんだぞ! そんなお前が俺の婚約者だなんて恥以外何でもない! 今をってお前との婚約を破棄する!」
 耳障りな声だったので、マーヤは思わず顔をしかめてしまった。
(正直、オスカー様との婚約などどうでもいいわ)
 マーヤは内心ため息をついた。
「婚約破棄、承知いたしました。ウィステリア公爵家にも、伝えておきますわ」
 マーヤは淡々とした声だった。
 一方、エレノアの方もグレンから婚約破棄を告げられ、サイモンからは家から追い出すと言われたらしい。
 それに対してエレノアもマーヤ同様冷静に淡々と述べる。
「まず、グレン様との婚約破棄の件、承知いたしました。それからサイモン。わたくしをゼラニウム伯爵家から追い出すですって? お父様とお母様がそれを許すかしら?」
 エレノアは冷ややかな目でグレンとサイモンを見ていた。

 その時、マーヤがよく知っている声が食堂に響き渡った。
「ブルーローズ王国では複数人で令嬢を責め立てる文化があるのかな?」
 ベネディクトである。
 いつもよりも低く鋭い声だ。
「公の場でこのようなこと、王太子殿下や側近候補達とはいえ感心しませんね」
 続いてユージンだ。
 軽薄そうないつもの声とは少し違い、真剣さと怒りを帯びている。
「ベネディクト様……」
「マーヤ嬢、騒ぎが起きていると思ったら、君が巻き込まれているとは。もっと早く気付くことが出来たら……」
 ベネディクトは少し悔しそうな表情である。
「エレノア嬢、大丈夫かい?」
 ユージンはエレノアを安心させるよう、優しい声になっていた。
「ユージン様……」
 ユージンが来たことにより、エレノアの表情は少しだけ安心を含んだものになった。

「さて、アレクシス王太子殿下、そしてマーヤ嬢の婚約者オスカー殿。ブルーローズ王国ではこのような公の場で誰かを責め立てることは普通のことなのですか? リースブラン帝国では個別に書面を送ったり、密かに呼び出して改善点を告げるのが主なのですが。随分と野蛮な文化なのですね」
 マーヤの前に庇うように立ち、アレクシスやオスカーを冷たく睨むベネディクト。その黄緑色の目からは怒りが感じられる。
「俺はこの国にそんな野蛮で教養を感じられない文化があるなんて知らなかったのですが」
 ユージンはベネディクト同様、エレノアを守るように庇い立っている。
「それは……私の婚約者アミーラを傷付けたそちらが悪いからだ。アミーラは素晴らしい女性なのに、悪く言って傷付けるなど言語道断」
 アレクシスはベネディクトとユージンの勢いに若干押され気味になっていた。
「殿下の仰る通りのことだ。それに、そちらはリースブラン帝国からの留学生だろう? この国のことに口出しするとは、国際問題になりかねない」
 オスカーはベネディクトをキッと睨んでいる。
「一人の女性の為に国際問題。アミーラ嬢、殿下達が仰る素晴らしい女性であるのならば、貴女はこの場を穏便に収めるべきではありませんか?」
 ユージンはアミーラに目を向けてそう口にした。
「え……それは……私が傷付いたからで……」
 アミーラはしどろもどろになっている。
「アミーラ嬢と言いましたか。そこまで素晴らしい女性ならば、ユージンの言う通り確かに穏便に済ませるべきですね。でも……出来ないのならばそこまでの女性ということですか」
 ベネディクトは軽くため息をついた。
「貴様、アミーラを侮辱するのか!?」
「アミーラ嬢に何てことを!?」
「アミーラ嬢の才を理解しないとは!?」
「これだから他の国の奴は!」
 アレクシス、オスカー、グレン、サイモンはベネディクトの言葉に激怒する。
「ならばこの場を穏便に収めれば良い話でしょう」
 ベネディクトは完全に呆れ果てていた。
 マーヤはエレノアと共に、この場の行く末を見守っている。
 ベネディクトとユージンが来たことにより、幾分か心強かった。
「……アレクシス様、皆様、もう良いのです。行きましょう」
 アミーラはやや納得がいかないような表情で、アレクシス達四人に声をかけた。
 すると四人はアミーラと共にこの場を立ち去るのであった。
 こうして、この騒ぎは収まったのである。
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