つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

宝月 蓮

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ルートヴィヒに関する噂

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 ダンスを一曲終えた後、ローザリンデとルートヴィヒは壁際で休憩していた。やはり二人の間には沈黙が流れている。
 ローザリンデは暗い表情である。
(やってしまいましたわ……)
 ローザリンデは先程ダンスの途中で転びそうになったことを引きずっていた。チラリとルートヴィヒを見ると、彼はノンアルコールのりんごのスパークリングカクテルを飲んでいた。
(わたくしはランツベルク家の恥でございますわ。やはり嫁ぎ先にもご迷惑をおかけする前に修道院に入った方が良いかもしれません……)
 心の中で長大息ちょうたいそくを漏らすローザリンデ。
 その時、令嬢がやって来た。令嬢はカーテシーで礼を取る。
(このお方は、マイセン辺境伯家長女で次期当主のジークルーン嬢でございますわね)
 ローザリンデは落ち込んだ気持ちを切り替えて思い出す。
 ちなみに前国王が生前退位し、現国王ルーカスが即位した後、家督・爵位を継ぐのは特別な事情がない限り男女問わず第一子と定められた。よって女性も家督や爵位が継げるようになったのだ。
「楽にしてくれて構わない、マイセン嬢」
 ルートヴィヒがそう言うと、ジークルーンは頭を上げる。二人は顔見知りのようだ。
「お心遣い感謝いたします、オルデンブルク卿」
 そしてジークルーンはローザリンデの方を見る。
「初めまして。マイセン辺境伯家長女、ジークルーン・ヒルデガルト・フォン・マイセンと申します」
 感じの良い笑みのジークルーン。
「お初にお目にかかります。ランツベルク辺境伯家次女、ローザリンデ・エマ・フォン・ランツベルクでございます。お会い出来て光栄でございます、マイセン嬢」
 ローザリンデも少し緊張気味であったが、柔らかな笑みを浮かべる。
 その隣でルートヴィヒはタンザナイトの目を見開きハッとしていたが、ローザリンデは気が付かなかった。
「ところで、オルデンブルク卿、わたくしと一曲いかがでしょうか?」
 少し談笑した後、ルートヴィヒはジークルーンからダンスに誘われた。
「……良いだろうか?」
 ルートヴィヒはローザリンデに許可を求めたので、ローザリンデは頷く。
「ええ、わたくしのことはお気になさらず、マイセン嬢とダンスをなさってください」
「……承知した」
 ルートヴィヒは素っ気なく答え、ジークルーンとダンスを始める。
 ローザリンデは壁の花となり、ルートヴィヒの様子を見ているた。
(そういえば、オルデンブルク卿は確か……)
 ローザリンデはルートヴィヒに関することを思い出した。

 それはかつてローザリンデがオルデンブルク公爵家主催の夜会に参加した時のこと。
『ご覧になって。ルートヴィヒ様とハイデマリー様がダンスをなさっているわ。あのお二人、恋仲らしいわよ』
『ええ!? オルデンブルク筆頭公爵家とエーベルシュタイン男爵家でございますわ、よ!? 上級貴族と下級貴族の結婚は認められておりませんのに!』
『しっ! 声が大きいわ。身分差があるからこそ恋は燃え上がるのよ。ハイデマリー様はもうすぐクレーフェ子爵家の次男イェレミアス様とご結婚なさって男爵家をお継ぎになるみたいだけど、やはり愛しているのはルートヴィヒ様なのかしら?』
『クレーフェ子爵家の本家筋はクレーフェ公爵家でございますわよ。そんなことをなさっていたら、クレーフェ公爵家の方から文句がありそうな気がしますが……』
『でも、きっとハイデマリー様がご結婚した後もこっそりと愛し合うのよ』
 貴族達が話す中、ルートヴィヒはエーベルシュタイン男爵令嬢ハイデマリーと仲睦まじい様子でダンスをしていた。

(エーベルシュタイン嬢……いえ、確かもうご結婚なさり家督をお継ぎになったとお聞きしたから、エーベルシュタイン女男爵閣下ですわね。オルデンブルク卿はエーベルシュタイン女男爵閣下をお慕いしておりますのね。だから、わたくしといる時はいつも不機嫌そうな表情をなさっておりましたのね。きっとオルデンブルク卿はお飾りの妻をお探しなのでしょう。お父様も、オルデンブルク卿にそう言ったお話があったとしても、オルデンブルク公爵家は筆頭公爵家ですし、総合的に見て一番だと判断されたのでしょう)
 ルートヴィヒとハイデマリーの仲に関する噂を思い出したローザリンデは、ルートヴィヒの今までの態度が腑に落ちたのである。
「おやおや? ローザリンデ嬢ではありませんか~」
 その時、どことなく呂律ろれつが回っておらず情けない声の男に話しかけられた。
(このお方は、アンハルト伯爵家ご長男のモーリッツ様でしたわね。……もしかして、お酒を飲んで酔っていらっしゃる?)
 ローザリンデの予想通り、モーリッツの顔は赤く染まりフラフラとしている。
「ローザリンデ嬢は中々夜会に現れませんから、ようやく会えて嬉しいですよ~」
 モーリッツは前のめりで迫るので、ローザリンデは少し後退りをした。
「ご機嫌よう、アンハルト卿。……少しお酒飲み過ぎてはございませんか?」
「そんなことはありませんよ~。それより、僕と一曲いかがですか?」
「申し訳ないのですか、今回は遠慮しておきます」
 やんわりと断るローザリンデ。しかし、モーリッツの方は引く気配がなかった。
「そんなつれないこと仰らずに~」
 ローザリンデに触れようと手を伸ばして来た。その時、ローザリンデが予想していなかった人物がやって来る。
「アンハルト卿、失礼する。このお方は並大抵の男が気安く触れていいお方ではない。お引き取り願おう」
 ルートヴィヒである。ジークルーンとのダンスを終えたようだ。ルートヴィヒはローザリンデを守るように前に立つ。
(オルデンブルク卿? どうして?)
 ローザリンデはアンバーの目を見開く。ルートヴィヒの行動が予想外だったのだ。
「貴様、僕の邪魔をするな~!」
 モーリッツはルートヴィヒに殴りかかろうとする。
(わたくしのせいでオルデンブルク卿が怪我をするなんて絶対に駄目ですわ!)
 ローザリンデはルートヴィヒとモーリッツの間に割って入ろうとするが、それには及ばなかった。
 ルートヴィヒは目つきは悪いが涼しい顔でモーリッツの拳を止めていた。
「……君は大丈夫か?」
 ルートヴィヒはモーリッツを止めながらローザリンデの方を見る。
「はい……。助けていただきありがとうございます。お手数おかけして申し訳ございません」
 ローザリンデは少し肩を落とす。
(オルデンブルク卿にご迷惑をおかけしてしまいました……)
「……問題ない」
 ルートヴィヒはローザリンデから目を逸らす。
 その時、ローザリンデにとってよく聞き覚えのある声が聞こえた。
「アンハルト伯爵家の人間は酒に関してだらしがないのかな?」
 低く、絶対零度よりも冷たい声だ。
「ユリウスお兄様……」
「ローザリンデ、大丈夫かい?」
 先程とは打って変わって優しい声のユリウス。
「はい……」
 ローザリンデは俯く。
(お母様なら、厄介な方も簡単にかわすことが出来ますのに……)
 自分の不甲斐なさに落ち込むローザリンデ。
 その後、モーリッツはビスマルク家の護衛に引き渡され、事態は無事に収束した。
「オルデンブルク卿、ユリウスお兄様、この度は本当に申し」
「ローザリンデ、申し訳なく思う必要はないよ。君は必要以上に萎縮し過ぎている。父上と母上もそう言っていただろう?」
 謝ろうとするローザリンデをユリウスが遮った。
「ですが」
「ローザリンデ? それ以上自分を卑下するのは、君のことを大切に想っている人達に対して失礼に当たるよ」
 穏やかな声だが、ユリウスのアンバーの目からはほんのりと怒りが感じられた。
「……はい」
 ローザリンデは少し怯えたように頷く。
 その答えに満足したユリウスは、ルートヴィヒの方を向く。
「緊急時だったとはいえ、礼も取らずにお声がけして申し訳ございません」
「気にする必要はない」
「寛大なお心感謝いたします。改めまして、ランツベルク辺境伯家長男、ユリウス・パトリック・フォン・ランツベルクと申します。妹のローザリンデを助けていただきありがとうございます」
「大したことではない。オルデンブルク公爵家長男、ルートヴィヒ・ゲーアハルト・フォン・オルデンブルクだ」
 ルートヴィヒはユリウスの目をしっかりと見ていた。
「それと、ルートヴィヒと呼んでくれて構わない。堅苦しい言葉遣いも不用だ」
「承知したよ、ルートヴィヒ卿。私のことも、是非ユリウスと呼んで欲しい」
 ユリウスはフッと微笑んだ。
「よろしく頼む、ユリウス卿」
 ルートヴィヒとユリウスは握手を交わす。
 その後、ルートヴィヒとユリウスはお互いの領地のことなど、ビジネスのような会話をしていた。その時のルートヴィヒも相変わらず目つきが悪く無愛想に見えるが、ローザリンデの時とは違い沈黙や不機嫌そうな表情になることはなかった。
(オルデンブルク卿、マイセン嬢やユリウスお兄様とお仕事の話はきちんと出来ますのね……。やはりわたくしはエーベルシュタイン女男爵閣下ではございませんし、上手に話題を選ぶことも出来ておりませんわ)
 ローザリンデは少し落ち込んでいた。
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