拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ

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#5 天然ユージ

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 突然視界のほとんどがユージの顔で埋め尽くされ、体が固まるユア。

コツン

「!!!???」

 ユージはユアのおでこに自分のおでこを当てた。
 何が起きているのかがわからないユアは、目線を下げ、なんとか平静を保とうとしている。

「うーーーん……わからないなぁ…………」

 おでこが離れたと思ったら、今度は大きく逞しい手がユアのおでこを覆いつくす。
 彼女はぎゅっと目を閉じた。時間の流れがゆっくりに感じるユア。

「んーーー…………熱はないと思うんだけど……いや、少し熱い気もする……。頭は痛くないかい? 体もだるくないかい?」

 その言葉に、ユージが自分の熱を測っていたことにようやく気づいたユア。

「……あのっ……どこも具合は悪くございませんっ……本当に大丈夫でございます! ご心配くださりありがとうございます……っ!」

「本当?」

「はいっ!」

 大きく頷くユア。

「僕に心配かけないように、我慢していないよね?」

 うんうん、と大丈夫なことを伝えようと元気に頷く。

「そっか……そうなら安心なんだけど……。もし、本当に気分が悪くなったらすぐに言うんだよ? 我慢しちゃダメだからね」

「承知いたしました」

「約束してくれるかい?」

「はい。約束いたします」

 ユアが返事をすると、ユージは手の甲をユアに向けた。

「……?」

 それが何を意味するのかがわからず、戸惑った顔でユージを見るユア。

「……あれ? ひょっとしてユアは知らない?」

「……えっと…………」

 急いで頭を回転させるユアだが、何もわからない。

「約束を交わす時は、互いの手の甲に口づけするんだよ」

「……えっ!?」

 思わず声が大きくなるユア。

「ははは。やっぱり知らなかったんだね。ユアが僕に約束をする側だから、ユアから口づけするんだよ」

「っ……! そ そうなのですね……!」

(そういう決まりがあったなんて……! 全く知らなかった……)

 ユアはユージの手の甲に向かって顔を近づけ、チュっと唇をくっつけた。ユアの顔は真っ赤になっている。

 ユアの口づけが終わると、今度はユージが彼女の手をそっと掴み、優しくゆっくりと唇をつける。またもや時間の流れがゆったりに感じるユア。彼女の心臓はおそらく人生の中で最も激しく高鳴っている。

 ユアの手からそっと手を離すユージ。

「これでユアは約束をやぶっちゃダメだからね。もしもやぶったら……」

「ど どうなってしまうのでしょうか……?」

 ペナルティがあるということを考えていなかったユアは、突如不安になった。

「ユアは僕のお願い事を一つ、必ず聞かなきゃいけないんだよ」

「…………あっ…………そうなのですね…………!」

 もっと恐ろしい言葉が出てくるのではと身構えていたユアだが、ユージの可愛らしい言葉に一気に肩の力が抜けた。先ほどから緊張で強張っていた体も少しほぐれていく。その様子が表情から伝わったのか、ユージはあははは、と笑った。

「その様子だと、何かこわい罰があるとでも思ったのかい?」

 何でもお見通しのようなユージに驚くユア。

「そっ そのようなことはっ……はい……少し思っていました……」

「はははは! そんなこわい意味を持つようなことはしないよ。だって、これを考えたのは僕の母上なんだから」

「……えっ??」

 予想外の言葉にきょとんとするユア。そんな彼女とは裏腹に楽しそうなユージ。

(そ…………それは…………)

 ユアの口が開くより先に、ユージの口が開いた。

「! あぁそうか! 僕の家ではこれが当たり前だから他の家でもそうかと思ってたんだけど、よく考えたらユアが知らなくて当然だよね。母上が考えたことだもんね……そうかぁ~! あははは」

 楽しそうなユージに、なんだかユアもつられて微笑んでしまう。

「ふふふふっ」

(ユージ様って天然なのかしら……!)
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