The アフターゲーム 〜色映ゆる恋〜

一 千之助

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 〜執着〜

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「いっぺんやってみたかったんだよ。奴隷じゃない奴にな。ユートピアの奴隷は何でも受け入れるから面白みがないし、うちの可愛い雌犬らにやりたくもないし」

「そういうのであれば、仔犬を御用意しますよ? 自然飼育でまっさらな子を」

「……これ以上の雌犬はいらね。下手に情が移ると困るから」

 ……なるほど?

 無機質な毅の横顔。

 特段、整った顔立ちではないそれ。だが、凡庸であるゆえに、彼の顔はその内面をこれでもかと映し出す。情欲にギラつく冷酷な眼や、無邪気に綻ぶ満面の笑みなど、善しにつけ悪しきにつけ、毅の感情はあからさまで丸わかり。
 そのギャップに心から身悶えて止まらないブギーマンとユートピアの仲間たち。
 
 ……ほんと。どこまでも魅せてくれる。

 うっとり最愛に見惚れるブギーマンを余所に、宴はたけなわ。衆人環視の中、雅裕は七海の腕をずっぷりと呑み込まされていた。

「ひぐうぅぅっ! さ、裂けるっ、うあっ!!」

 ローションでぬらぬらな腕を抜き出し、ぐぷっと拳で呑み込ませる容赦のない雌犬様。

「裂けませんよ? 二本差し出来るのですから。私の拳くらい大丈夫よ。ほら、慣らさないと。御主人様がお待ちかねですもの」

 ごちゅごちゅ腕の中ほどまで捩じ込みつつ、七海の視線が毅らに振られる。
 にっと眉毛だけを上げて応える二人。
 それを虚ろな眼差しで見る雅裕は、ブギーマンの蕩けた笑顔にドキリとした。

 ……そういや。フィストを覚えて……て… うっ! ふっ、この手でも、こんなに痛くて苦しいのに……? 

 あの逞しい柏木の手が挿れられたら、どうなってしまうのか。
 死物狂いで耐える雅裕から手を引き抜き、七海が長い棒のようなモノを仔犬の蕾に充てがった。
 ずくっと詰め込まれる太い棒。それを必死に呑み込みながら、涙目な雅裕の視界でブギーマンが動く。

「さて、ご来場の皆様。可愛らしい仔犬が雌犬になりたがっております。どうぞお手伝いください」

 呆然と見開いた雅裕の眼。涙に濡れて真っ赤なかおの雅裕に近づき、その涙を舐め取ってやりがら、ブギーマンが淫靡に嗤う。

「……わたくしの雌犬になりたいのでしょう? ふふ、感じてましたよ、君が熱い眼差しでこちらを見ていることは。……本気でなりますか? 地獄に堕ちてみます?」

 ……知って?

「せっかく解放されたのに舞い戻ってくるんですもの。情熱的ですねぇ? わたくしも、さすがに我が目を疑いましたよ?」

 二番手でも良いから柏木のモノになりたいと思っていた。雌犬と呼ばれ、侍らされて至福を感じていた。
 撫でられ、貫かれ、柏木が悦んでいると思うと、胸が張り裂けそうなくらい幸せだった。

 それを見抜かれて雅裕は狼狽える。

「ああ、可愛いドギー。責めているのではないのです。……ねえ? 毅君? わたくしが雌犬を飼うことを許してくださいますよね?」

「ああ? 許可なんぞいらないだろ、そんなもん。犬や家畜に嫉妬するほど変態じゃねぇぞ、俺ぁ」

「ですよねぇ? ほら、安心して? ドギー」

 ……どこに安心出来る要素が?

 ユートピアの基準でいえば、戦闘訓練経験のない奴隷は塵屑。まがりなりにも生き物と認めているのは、愛でる犬や家畜のみ。つまり、どうでも良い塵屑になるか、このままブギーマンの可愛い雌犬となるか。二人は、そう雅裕に問いかけているのだ。

「おまえ、理解してないかもしれないけどな? ユートピアはバイトなんぞ雇わないぞ? 奴隷で事足りることに金を払うなんて酔狂、このバカしかやらねーわ」

「バカとはなんですか、バカとは。……まあ、ドギーが望んだからですが。毅君達と同じ待遇で雇いました。微々たる金額ですしね」

 つまり、レースへの参加も、ブギーマンのペットのお遊びだと思われていたのである。周りがちやほやしてくれたのも、ブギーマンのペットに興味津々だったから。
 思わぬ裏事情を聞き、雅裕の表情が痛みも忘れて抜け落ちる。
 それに苦笑し、ブギーマンは殊更優しく仔犬を撫でた。

「今なら間に合います。穏やかな世界に戻りますか? 君のファンも、わたくしの頼みなら聞いてくれるでしょう。普通の暮らしに戻れますよ?」

 大切にされていることは、毅の調教から気づいていた。酷いことをされたら抗議してもくれていた。今だって、この無惨な縛りをやめてくれと毅に言っていた。

 恋は盲目、痘痕もエクボ。

 ブギーマンの見てくれに騙され、仔犬は己の人生を選択する。いくら抗議しておようが、させてる段階で優しいわけがない。本気でさせたくないなら、最初からやらせない。
 結局、ブギーマンもユートピアの人間なのである。
 だが、柏木に恋する雅裕には些細なことだった。

「あなたのモノに…… なりたいです。いえ、してくださいっ!」

 おおっ! と、周りの観客が感嘆の溜息を漏らす。

「喜んで……っ! これから、ずっと一緒だよ、ドギー♪」

 大興奮なお客様らに見守られ、仔犬は御主人様の手で雌犬に堕ちた。これから《待て》も覚えて、従順な雌犬になると誓わされる。



「ふ…っ! んんんんっ!! あっ!」

「ふふ、相変わらずの感度ですねぇ、ドギー。乳首を貫かれてイってしまいましたか?」

 ちゃりちゃりと音をたてるのは小ぶりなリングのピアス。
 無事に柏木の腕を呑み込んだご褒美に、雅裕は深々とブギーマンのモノで串刺しにされたまま、乳首にニードルを突き立てられたのだ。
 そしてゆっくり開通させ、空いたばかりな穴にピアスをつけられる。激痛に震えて泣く仔犬を撫で回し、満足げな御主人様。
 
「これで本当に、わたくしのペットです。これから、しっかりと躾けてあげますからね? ああ、可愛らしい。……夢にまで見ていました。コレをつけた君を」

 ………? 

 泣きすぎて視界のぼやけた雅裕は気づかない。他の客らの連れた雌犬達にも同じようなピアスがつけられていることに。
 自分のつけているモノがイヤリングだったため、それと同じだろうと思っていたのだ。
 雌犬にとって、乳首のピアスは首輪にも優る従属の証。必ず御主人様が自らつけてくれるソレを、雌犬達は心より待ち望む。

 満願成就。片恋から全てを手に入れて、大満足なブギーマン。

「首輪も替えましょう。それも悪い物ではないけど、汎用なので。……こちらを」

 長く使い慣れた首輪を外され、一瞬、雅裕は妙な寂しさを感じる。ユートピアでは常につけっぱなしだったので、なぜか首が寒い。
 そこにブギーマンが新たな首輪をつけた。
 よく鞣した青い革と裏側が心地好いボア仕様の物。そして一つ穴な鍵のチャームは銀のカウベル。ちりんと鳴るソレに触れ、雅裕は、ばっと毅を振り返った。

 毅の横に並ぶ雌犬達と色違いな首輪。

 思わずブギーマンを見上げた雅裕は、そこにあり得ないモノを見る。
 
 淡く蕩けきった甘い瞳を。

「わたくし達にとって、愛でる者は全て等しく可愛いのです。もちろん優先順位はありますよ? だからといって、注ぐ愛情に変わりはありません。ドギー? 君は、わたくしの宝物です」

 ちうっと頬を啄まれ、仔犬の全身が真っ赤に染まる。

 雅裕は知っていた。毅にとって円香は別格だが、他の二人にも余りある愛情が注がれていることを。他の奴隷らには冷たい一瞥しかくれない彼が、雌犬らの前でだけ表情を和らがせ、微笑むことを。
 彼らの間に流れる信頼と親愛。

 ……僕が、その位置に? 柏木さんの?

 無意識に撫でる首輪が、その気持ちを代弁していた。

「幸せに暮らしましょう? それには君が必要なんです」

 毅との絆を結んでくれた雅裕。

 解放して放したにもかかわらず舞い戻り、何かバイトをさせてくれと頼み込んできた可愛い仔犬。
 ならば会社でそのまま勤めるかと尋ねれば、少しむくれて、ユートピア関係にかかわりたいと言っていた。

 ……どうして?

 わけがわからず唖然としたブギーマンだが、ユートピア関係は危険が伴う。どの催しも勝者が得られるのは身の安全だけ。負けようものなら酒池肉林の餌食だ。
 かといって、清掃関係まで戦闘奴隷で溢れている裏方に回すことも出来ない。下手をやらかしたら、即殺される。特に黒服は躊躇もしない。

 う~んと考え込み、ブギーマンが思いついたのが雌犬レースだった。
 あれなら観客も比較的ソフトだし、酒池肉林での遊ばれようもしれていた。命を落とすとこまでやりはしないだろう。
 なぜに雅裕が戻ってきたかは分からないが、時々侍らせて可愛がるのも愉しそうだと、ブギーマンは仔犬を懐に入れたのだ。

 そしてその仔犬は、予想外の展開を見せる。

 常に首位争いに食い込み、熟練の雌犬ランナー達が舌を巻く有り様。しかもリクエストにも積極的に応え、太客への接待として淫らな一夜を与える鷹揚さ。
 ブギーマンに暴かれて泣き喚いていたころの片鱗は全くない。毅に嬲られ、妖しく花開した仔犬は、いつの間にか一端の奴隷に変貌していた。

 ……なんとまあ。

 ブギーマンの後見もあり、雅裕は順風満帆でユートピアに馴染んでいく。そんな仔犬だが、ブギーマンが呼べば、一も二もなく駆けつけ尻尾を振った。
 それこそ玩具の尻尾よりも明らかに分かる、目に見えない尻尾を。そこに込められた情に、百戦錬磨なブギーマンが気づかないわけはない。
 
 そして、仔犬を狙う観客達の淫猥な視線に気づいた時。ブギーマンは珍しく逡巡する己に驚いた。
 無邪気で控えめ。それに反して淫らな身体を持つ雌犬を、本気で見受けしたいとの打診が相次いだのだ。
 いつもなら、さっくりお金に変えてしまうはずなのにと、気づいて良い気持ちに気づかなかった彼。

 それを自覚した途端、芽生えた執着。

 ……そういう。どうしましょうねぇ?

 困った風で、ブギーマンは雅裕を侍らせた。

 毎回撫で回し、挿れてイかせて、泣かせて失神。

 どんなに嬲られようと離れず、むしろ悦んで腰を振る可愛い仔犬。その一身で全力な恋心を無下に出来ようか。
 毅に似ていると思い、少なくない愛情を雅裕に持っていたブギーマンは賭けてみることにした。
 この凄惨な宴を乗り越えてでも、仔犬が宵闇の世界に戻ってこられるか。壊される寸前になっても、雅裕はブギーマンと共にあることを願うだろうか。

 自分は、どうあってもユートピアを捨てることは出来ない。共にあるというのは、共に堕ちるということ。
 
 そこはかとない期待を込めて、ブギーマンは仔犬に選ばせた。

 今なら、放してやれる。あどけない仔犬の向ける素直な恋情に沼った自覚はあるが、まだ今なら。

 毅に捧げたモノとは違う種類の深い慈愛。

 ……ああ、毅君が千鶴ちゃんや七海ちゃんに感じてるのは、これですか。離れてしまうと思うと、酷く寂しいものですねえ。

 一抹の期待を胸に、宴を開いたブギーマン。

 だが、斜め上半捻りな連中に恋する少年も、斜め上半捻りな類友だった。

 するりと堕ちてきた仔犬を受け止め、感無量のブギーマン。雅裕も大学を中退して、思い切りよくユートピアに嫁いでくる。
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