異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
66 / 555
王都出立編

漁業の再開

しおりを挟む
 俺とリリアは領主と三人で、レアレス島の港がある方へ移動した。
 まずはブルームやランパードと合流しなければならない。

 定期船が停まった辺りまで向かうと、ブルームとランパードが路地に置かれた椅子に腰かけていた。
 こちらの様子に気づいたランパードが勢いよく立ち上がった。

「おおっ、領主様!」

「すまんな、ランパード。おらのことで心配かけてまったな」

 二人はまるで親子のように再会を喜んでいた。

「おらは島の悪魔に操られて、漁業禁止令なんてものを出しちまった。そんなものはすぐに解除せねば。ランパード、島の漁師たちに漁に出ていいと伝えてくれるか?」

「そりゃあ、もちろん! すぐに行きます」

 ランパードは足早にこの場を離れた。

「お初にお目にかかる。わしは王都の城勤めのブルームと申す」

「あんたさんがブルームさんか。さっき、リリアさんから聞いたけれども、王都から魔法使いを派遣してほしい」

「んっ? 魔法使いが何か」

 領主が話を急ぎすぎていたので、リリアがブルームに経緯を説明した。

「――ほう、そんなことが。たしかに彼女の言うように、王都を探せば高位の魔法使いを連れてくることは可能だろう。そのジャレスという悪魔は捨て置けぬようだから、わしも協力させてもらおう」

「本当に助かります。おらたちには何ともできねえこって」

 領主は深々とブルームに頭を下げた。

「頭を上げてくだされ。困っている国民がいれば力になるようにと、国王や大臣がお話しになられていた。それを守っているだけのこと」

「それに、レアレス島の魚介類が食べられなくなるのも困りますものね」

「ははっ、リリアの言う通りだ」

 レアレス島で漁業禁止令の話になってから、何となく重たい空気を感じていたが、明るい雰囲気が戻ってきた気がした。    

「本当に皆さんには感謝してます。そのうち、ランパードや他の漁師たちが海に出るので、お礼に魚料理を食べていってくだせえ」

「おおっ、それはありがたい」

「それが目当てだったわけではないのですが、ご厚意をお断りするのも気が引けます」

「リリアは魚が好きなんだから、遠慮しなくてもいいんじゃないですか」

 領主の話は渡りに船なのだが、リリアは慎み深い性格のようだ。
 人助けをした時、何も受け取らないと相手を不安にさせることもあるので、ここは招待を受けていいだろう。

「手持ち無沙汰で待たせてしまうのは申し訳ねえですから、近くのカフェでお待ちください。今から案内しますんで」

 領主はどこかに向かって歩き出した。
 俺たち互いの顔を見合わせた後、先を行く領主に続いた。

 定期船が停泊する場所から少し移動すると、脇道に入ったところにカフェがあった。
 落ちついた場所にあり、素朴な外観だった。

「わぁ、素敵な雰囲気ですね」

「ここは島に移住した夫婦がやってますんで」 

 領主はリリアに説明した後、店の扉を開いた。

「こんちは。この人たちの支払いは後でおらに請求してくれるか」

「はい、かしこまりました」

 店の中に入ると、この店の主人と思われる男と領主が話していた。

「カフェ・ルトロンへようこそ。今は空いている時間なので、お好きな席にどうぞ」
 
 俺とブルーム、リリアが店に入って立ち止まっていると、女の店員が出てきた。
 領主が夫婦でやっている店だと話していたので、彼女が妻だと思った。

 俺たちは店の奥のテーブル席に向かい、それぞれ椅子に腰かけた。

「昼食の時間は終わってしまって、今は飲みものだけになってしまいます」

 女の店員はメニュー表をテーブルに置くと、大まかな説明をした。

「少し空腹ですけど、この後のために我慢します」

「わしも空腹だが、問題ない」

「そうですね。ここは耐え時です」

「あの……、皆さんは昼食がまだでしたか?」

「ええ、まあ。ちょっと立てこんでいたので」

 女の店員は俺たちを気遣うような様子だった。

「そうでしたか。軽食程度でよろしければ出せますよ」

「それはありがたい。マルク、リリアよ、それで構わんな」

「ええ、どうぞ」

「私も問題ありません」 

 ブルームの反応がよかった。
 想像以上に空腹だったみたいだ。

「少々お待ちくださいね。飲みもののご注文は後ほど」

 女の店員は調理場の方に入っていった。
 
「後で魚が食べられるなら、ほどほどにした方がいいですね」

「そうだな。ここで満腹になっては本末転倒だ」

 それから、俺たちはカフェで簡単な食事をして、飲みものを飲んですごした後、領主に呼びかけられて港の方に向かった。



 しばらくして港に戻ると、先ほどまでにはなかったような活気があった。
 何隻かの漁船から魚が入った木箱が下ろされて、陸に水揚げされている。
 比較的短い時間で漁に出たみたいなので、近海が漁場なのだろう。

 俺たちがその様子を眺めていると、一隻の船からランパードがやってきた。

「ホントにありがとう! おれたちは漁業がないとダメだ。漁師仲間も元気になった!」

「いえいえ、当然のことをしたまでです」

「マルクとリリアは見事な活躍だったな」

「ほとんど、リリアの活躍でしたよ」

「おぬしも危険を顧みずに追跡したならば、それだけで十分ではないか」

 ブルームは俺の働きを評価してくれているようだ。
 彼の気遣いが理解できると、少し照れくさい気持ちだった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...