94 / 555
王都出立編
カタリナからの贈りもの
しおりを挟む
ブルームを見送った後、俺は椅子に腰かけて考えた。
この状況ではまだバラムに帰ることは難しいだろう。
誰かに頼めば馬車を出してもらうことは可能かもしれないが、暗殺機構の者がどこをうろついているのか分からない状況では危険が伴う行動だと思われた。
「……ジェイクに任せた店は大丈夫で、他に気がかりはないか」
自分一人では対処しきれない状況なので、城の人たちの状況が落ちつくのを待つことにした。
城への侵入者の件がきっかけで、客間で生活する日々が続くことになった。
活動範囲が限られる間、城内を歩いたり、外庭を散歩したりしてすごした。
そのうちに王都へも出られるようになり、市場を散策することで気分転換を図った。
朝食と夕食は城内で食べて、昼食は王都の飲食店で済ませることが多かった。
市場で食材を買い揃えれば焼肉を作ることは可能だったが、状況が状況だけにそうしようという気持ちにはならなかった。
そんな日々が続いたある日、一人の兵士が客間を訪れた。
カタリナから本人のところへ案内するように指示を受けたと伝達があった。
俺は城外で昼食を終えて、部屋で休んでいるところだった。
「カタリナ様は先日のお礼がしたいとのことでした」
「ああっ、焼肉のことかな」
俺は椅子から立ち上がり、扉のところにいる兵士に近づいた。
威圧感はなく、使用人のように丁寧な物腰だった。
「それでは、ご案内します」
「はい、お願いします」
兵士はこちらを先導するように歩き出した。
城内の構造はだいたい記憶しているが、カタリナの部屋には用事がなかったので、道順を覚えていなかった。
二人で廊下を歩くうちに、一つの部屋の前で兵士が立ち止まった。
そこは城に来た最初の頃に訪れた部屋であることを思い出した。
「(コンコン)――失礼します。マルク様をお連れしました」
ゆっくりと扉が開いて、扉の向こうから一人のメイドが顔を出した。
彼女はこちらに一礼した後、部屋に入るように促した。
俺はメイドにペコリと頭を下げて、部屋の中に足を運んだ。
正面を見ると、カタリナがきれいな装飾の施された椅子に座っていた。
「マルク、久しぶりじゃな」
「けっこう経った気がします。何日ぶりですかね」
俺が立ったまま話していると、先ほどのメイドがさりげなく椅子を運んでくれた。
気遣いに感謝しつつ、その椅子に腰を下ろした。
「侵入者の件で落ちつかぬ状況だったからのう。元気にしておったか?」
「俺は元気です。そちらは?」
「余も問題ない。戦闘で負傷した者たちの治療も順調だと聞いている。城内も普段の様子に近づいてきた」
カタリナの言うように、騒乱直後の城内の様子は物々しい感じもあった。
しかし、最近では元通りに戻った感じがしている。
「兵士の人からお礼と聞いたんですけど、焼肉の件でしたか?」
「うむ、そうじゃ。バラムから王都まで遠路はるばるやってきて、料理の腕を振るってくれたからのう。余からの感謝の気持ちなのだ」
カタリナはメイドに指示を出して、何かをこの部屋に運ばせた。
メイドは布に包まれたものをカタリナに手渡した。
「余の所持品の中ではそれなりに価値があるものじゃ。遠慮せずに受け取ってほしい」
カタリナが布を解くと、黄金の腕輪が現れた。
その輝きにたじろいでしまいそうだった。
「わりと高そうですけど、本当にもらっちゃっていいんですか?」
「焼肉のこともそうなのだが、衛兵でもないのに命がけで戦ってくれたこともあるからのう。それに見合った働きはしたと思うのだ」
カタリナは椅子から立ち上がって、こちらに近づいてきた。
すると、俺の腕を持ち上げて腕輪をつけてくれた。
「……ありがとうございます」
黄金の腕輪は細い幅で、見栄えがよくなるような加工が施されていた。
この世界では純金製の加工品を見ることが少ないので、この腕輪も希少価値が高いと思った。
カタリナは椅子に戻ると、再び口を開いた。
「どうじゃ、気に入ったかのう?」
「それはもちろん。大事にします」
「そうか、それはよかった」
カタリナはうれしそうに笑みを浮かべた。
彼女の様子を見て、温かい気持ちになった。
「ところで、ブルームがそなたを呼び寄せたことで城に留めすぎてしまったが、近いうちにバラムへ帰れるようになるらしい」
「えつ、本当ですか?」
急な朗報に驚きを隠せなかった。
俺のために手配を進めてくれていたのかもしれない。
「具体的にはブルームから話があると思うが、この調子で状況が落ちつけばバラムへの馬車も出せるはずじゃ」
「そういえば、王都に来る途中で大岩が街道をふさいだことがあって、暗殺機構の仕業だったかもしれません。今は通れるようになったのかな」
「ふむ、そうか。暗殺機構の包囲は進んでいるようだから、今後はそういったこともなくなる気がするのう」
初めて聞いた話だが、カタリナのところには新しい情報が届いているのだろう。
バラムに向けて出発できるかどうかは戦況に左右されるはずで、リリアたちの作戦が成功することを願うばかりだ。
この状況ではまだバラムに帰ることは難しいだろう。
誰かに頼めば馬車を出してもらうことは可能かもしれないが、暗殺機構の者がどこをうろついているのか分からない状況では危険が伴う行動だと思われた。
「……ジェイクに任せた店は大丈夫で、他に気がかりはないか」
自分一人では対処しきれない状況なので、城の人たちの状況が落ちつくのを待つことにした。
城への侵入者の件がきっかけで、客間で生活する日々が続くことになった。
活動範囲が限られる間、城内を歩いたり、外庭を散歩したりしてすごした。
そのうちに王都へも出られるようになり、市場を散策することで気分転換を図った。
朝食と夕食は城内で食べて、昼食は王都の飲食店で済ませることが多かった。
市場で食材を買い揃えれば焼肉を作ることは可能だったが、状況が状況だけにそうしようという気持ちにはならなかった。
そんな日々が続いたある日、一人の兵士が客間を訪れた。
カタリナから本人のところへ案内するように指示を受けたと伝達があった。
俺は城外で昼食を終えて、部屋で休んでいるところだった。
「カタリナ様は先日のお礼がしたいとのことでした」
「ああっ、焼肉のことかな」
俺は椅子から立ち上がり、扉のところにいる兵士に近づいた。
威圧感はなく、使用人のように丁寧な物腰だった。
「それでは、ご案内します」
「はい、お願いします」
兵士はこちらを先導するように歩き出した。
城内の構造はだいたい記憶しているが、カタリナの部屋には用事がなかったので、道順を覚えていなかった。
二人で廊下を歩くうちに、一つの部屋の前で兵士が立ち止まった。
そこは城に来た最初の頃に訪れた部屋であることを思い出した。
「(コンコン)――失礼します。マルク様をお連れしました」
ゆっくりと扉が開いて、扉の向こうから一人のメイドが顔を出した。
彼女はこちらに一礼した後、部屋に入るように促した。
俺はメイドにペコリと頭を下げて、部屋の中に足を運んだ。
正面を見ると、カタリナがきれいな装飾の施された椅子に座っていた。
「マルク、久しぶりじゃな」
「けっこう経った気がします。何日ぶりですかね」
俺が立ったまま話していると、先ほどのメイドがさりげなく椅子を運んでくれた。
気遣いに感謝しつつ、その椅子に腰を下ろした。
「侵入者の件で落ちつかぬ状況だったからのう。元気にしておったか?」
「俺は元気です。そちらは?」
「余も問題ない。戦闘で負傷した者たちの治療も順調だと聞いている。城内も普段の様子に近づいてきた」
カタリナの言うように、騒乱直後の城内の様子は物々しい感じもあった。
しかし、最近では元通りに戻った感じがしている。
「兵士の人からお礼と聞いたんですけど、焼肉の件でしたか?」
「うむ、そうじゃ。バラムから王都まで遠路はるばるやってきて、料理の腕を振るってくれたからのう。余からの感謝の気持ちなのだ」
カタリナはメイドに指示を出して、何かをこの部屋に運ばせた。
メイドは布に包まれたものをカタリナに手渡した。
「余の所持品の中ではそれなりに価値があるものじゃ。遠慮せずに受け取ってほしい」
カタリナが布を解くと、黄金の腕輪が現れた。
その輝きにたじろいでしまいそうだった。
「わりと高そうですけど、本当にもらっちゃっていいんですか?」
「焼肉のこともそうなのだが、衛兵でもないのに命がけで戦ってくれたこともあるからのう。それに見合った働きはしたと思うのだ」
カタリナは椅子から立ち上がって、こちらに近づいてきた。
すると、俺の腕を持ち上げて腕輪をつけてくれた。
「……ありがとうございます」
黄金の腕輪は細い幅で、見栄えがよくなるような加工が施されていた。
この世界では純金製の加工品を見ることが少ないので、この腕輪も希少価値が高いと思った。
カタリナは椅子に戻ると、再び口を開いた。
「どうじゃ、気に入ったかのう?」
「それはもちろん。大事にします」
「そうか、それはよかった」
カタリナはうれしそうに笑みを浮かべた。
彼女の様子を見て、温かい気持ちになった。
「ところで、ブルームがそなたを呼び寄せたことで城に留めすぎてしまったが、近いうちにバラムへ帰れるようになるらしい」
「えつ、本当ですか?」
急な朗報に驚きを隠せなかった。
俺のために手配を進めてくれていたのかもしれない。
「具体的にはブルームから話があると思うが、この調子で状況が落ちつけばバラムへの馬車も出せるはずじゃ」
「そういえば、王都に来る途中で大岩が街道をふさいだことがあって、暗殺機構の仕業だったかもしれません。今は通れるようになったのかな」
「ふむ、そうか。暗殺機構の包囲は進んでいるようだから、今後はそういったこともなくなる気がするのう」
初めて聞いた話だが、カタリナのところには新しい情報が届いているのだろう。
バラムに向けて出発できるかどうかは戦況に左右されるはずで、リリアたちの作戦が成功することを願うばかりだ。
59
あなたにおすすめの小説
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました
黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。
これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!
さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語
会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる