異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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王都出立編

見知らぬエルフと出会う

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 馬車の上で揺られながら、エドワルドとの会話が続いている。
 彼は人当たりがよいので、今日が初対面でも話しやすく感じた。

「エドワルドさんはどうして、兵士になったんですか?」

「身体を動かすのが好きでしたから、冒険者という選択肢もありました。身近に城に勤めている人が何人かいたことが特に大きかったかと。冒険者も社会的な意義のある役割ですが、兵士の方が安定した身分というのもあります」

「ああっ、なるほど。それは分かります」

 兵士はおそらく給料制だと思うが、冒険者は出来高制なので、その月々で収入に振れ幅が出やすい側面がある。
 安定感を引き合いに出すのなら、雇われた身である兵士の方が優位であることは間違いない。

「マルク殿の外庭での活躍を耳にしましたが、料理店の店主の前は冒険者だったそうで」

「はい、そうです。冒険者をして開業資金を貯めました」

「ほほう、苦労されたのですね。地方のバラムであっても、お店を一つ始めようと思えば、それなりの金額になるのでは?」

「目標金額が貯まるまでは節制したり、報酬が高い依頼を選ぶようにしたりということはありました」

 そこまで昔のことではないのだが、エドワルドと話しながら懐かしい出来事のように感じられた。
 二人で旧知の仲のように会話をしていると、時間が経つのはあっという間だった。

 馬車は一定のペースで進み続けた後、道沿いに海が見えてきたところで停止した。
 近くには小さな港町が見える。
 王都へ向かう時に訪れたコルヌほどの規模はなく、ひっそりと静かな町だった。

「一旦、こちらでお昼休みにしたいと思います」

 ピートが荷台の近くに歩いてきて、そのように告げた。
 それから、俺とエドワルドは順番に下車した。
 
「そろそろ、お昼時ですね」

「ピート、この辺りに食事ができるところは?」

 エドワルドが馬の手入れをしているピートに声をかけた。

「今日は馬の調子がすこぶるよくて……普段はこの辺で休憩することは少なくて。あまり詳しくないのですが、町の中に食堂があるはずです」

「ああっ、分かった」

 エドワルドはこちらに歩いてくると、食堂を探しに行こうと声をかけてきた。
 俺はそれに応じて、彼と共に町の中へと歩き出した。

 町の中心部と思われるエリアに入ると、平屋の家屋が並んでいた。
 その中に食堂と思われる建物を見つけて、エドワルドと二人で入った。

 時間が限られていることもあり、適当に注文してサッと食べ終わった。
 海が近いこともあって、魚のグリルが美味しく、主食はパンだった。
 
「王都ではこういう素朴な店は少ないから、たまにはこういう店もいいですな」

「家庭的な味でしたね」

 俺たちは互いに料理の感想を口にしながら、馬車のところに戻った。
 ピートは御者台に待機していて、いつでも出られるような雰囲気だった。

「食事は済ませられましたか?」

「一軒だけ食堂がありましたよ」

「次の町まで距離があるので、それを伺って安心しました」

 俺はピートと話した後、エドワルドに続いて荷台に乗った。

「それでは、出発します」

 馬車は再び動き出した。
 ゆっくりと加速すると、先ほどと同じ速度で進み始めた。

 昼食の量がわりと多かったので、食後の眠気を感じていた。
 注文した内容が同じだったエドワルドも眠たそうに見えた。
 俺たちはうつらうつらしたまま、移動する馬車に揺られた。
    
 ……どれぐらい時間が経っただろう。

 幌の向こうに見える景色が海岸線から、草と木が中心の道に変わっていた。
 往路とは違う経路を通っていることもあり、どの辺りを移動中であるかは分からない。

「マルク殿、おはようございます」

「あっ、おはようございます」

「お恥ずかしい限りですが、昨夜は遠くへ行けることへの期待があって、あまり眠れませんでした。その影響でうたた寝を」

 エドワルドは照れ隠しをするように笑みを浮かべた。
 
「そうなんですか。俺は食べすぎて眠くなりましたよ」

「意外と小食なのですね。私はあの量なら普段通りです」

「兵士は身体を動かすから、たくさん栄養が必要ですよね」

 二人で話していると、馬車が徐々に減速した。
 街道から脇道に入った後で完全に停止した。

「申し訳ありません。まだ、馬の速度が出すぎてしまうので、中途半端な位置ですが、馬を休ませたいと思います」

「そういうことならお気遣いなく」

「ピート、馬は大丈夫かい?」

「はい、適度に休ませれば問題ありません」

 ピートの話が終わったところで、荷台から外に出た。
 同じ姿勢は身体によくないので、背筋を伸ばしておきたかった。  

 眠気の残る頭で周囲を見ると、簡素な民家がいくつか目に入った。
 何もないと思ったが、どこかの町か村だったのか。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、どこかで剣吞な声が聞こえてきて、一気に目が覚めた。

「――マルク殿」

 エドワルドも気づいたようで、素早く荷台から下りてきた。
 二人で声のする方に向かうと、一人の若い女と数人の冒険者風の男たちが対峙していた。 

「生意気なお嬢ちゃんだな。エルフだからって偉そうなんだよ」

「女の子相手に数人で絡んでくるなんて、ダサいと思わないの」

「痛い目見ないと分からねえようだな! 謝っても遅いぜ!」

「はいはい」

 俺たちが駆け寄ろうとしたが、その途中で女の周りに炎の渦が生じて、男たちは思いっきり怯んだ。

「あちぃー! なんだこれ!?」

「ヤケド、ヤケドする!」

 先ほどの威勢はどこに行ってしまったのか。
 男たちは散り散りに逃げていった。

「ああもう、道に迷っただけなのに。何なのあいつら」

 俺とエドワルドが立ち止まっていると、女は独り言を口にした。
 今の立ち位置は中途半端な距離なので、魔法の標的にならないためにも声をかけておこう。 

「あのー、無事みたいでよかったです」

「何、お兄さん? 助けようとしてくれたの?」

「……まあ、そんなところです」

 エルフは年齢不詳なところがあるが、近くで見た彼女は人間年齢なら十代半ぐらいに見えた。
 こんなところを少女が一人歩きしている理由が分からなかった。
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