異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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異国の商人フレヤ

マルクの社食タイム

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「マルク、新規でお客さんが入ったよ」

 シリルと話していると、フレヤが厨房にやってきた。

 開店直後はともかく、それ以降は客数の確認が追いつかなくなる
 そのため、店内に設置した紙に情報を記入してもらうようにしていた。
 
 改装前は一人で把握することができたものの、今では逐一記録しておかないと、計算が合わなかったり、料理の提供に支障が出たりするのだ。

「……了解っと。この人数ならまだ余裕があるな」

「自分も見てもいいですか?」

「ああっ、いいよ」

 農村出身と聞いているが、シリルは読み書きは大丈夫そうだった。
 ランス王国は地球でいうところの先進国と比べれば、全体的な識字率は高くない。
 人里離れた田舎ではそこまで必要ではないので、村に一人か二人分かれば不便にならないという背景も関係している。

 俺は必要な人数分の肉や野菜を用意して、お客に提供できる状態にした。  
 厨房に待機していたフレヤがトレーに乘ったものを運び始める。
 にわかに活気が出てきて、繁盛している店のような雰囲気だと思った。

「シリル、フレヤと一緒に運んでもらえる?」

「はい、分かりました。おお、お客さんの前に出るのは緊張しますね」

「大丈夫、お待たせしましたって言って、フレヤと同じようにすれば問題ないから」

「はい、行ってきます」

「うん、よろしく」

 初々しいシリルの様子に、何だか微笑ましい気持ちになる。
 テーブルの方にはエスカもいるので、特に問題ないだろう。

 お客の状況やシリルの様子を遠目に確かめた後、すぐに店内の厨房へ引っこんだ。
 それから厨房の作業をしながら待っていると、大仕事を終えた後のようなシリルが戻ってきた。
 今日はそんなに暑くないはずだが、彼の額には汗がにじんでいる。

「……無事に出せました」

「おっ、それはよかった。何だかぐったりしてるね」

「いえ、大丈夫です。フレヤさんに頼まれてお皿を下げたのですが、これはどこへ?」

「そこの流しに入れておいて」

「あっ、そこですね。分かりました」

 シリルは予想していたよりも飲みこみが早かった。
 こちらの指示をすぐに理解して、実行に移すことができる。
 本人が希望するなら、しばらく働いてもらうのもいいかもしれない。

 この日は普段通りの客入りで、まずまずの売上を記録して店じまいをした。
 
 営業が終わってからは四人で片づけをして、その後は社食タイムとなった。  
 まあ、アルバイトとか社員という概念はない世界なのだが、個人的には社食という言葉にすると雰囲気が出ると思った。
 ちなみにお客に出しているのと同じ内容なので、まかないという言葉は合わない気がした。
 
 そんなわけで、皆で鉄板を囲んで確保しておいたヒレ肉を焼いている。
 以前にセバスと試食を済ませたものの、空腹時にこれの焼ける匂いは破壊力が凄まじいと実感させられた。

「よっぽど大丈夫だと思うけど、お腹を壊すといけないから、生焼けで食べないように」

「わたしはお腹が丈夫なので」

「は、早く、その肉を食べさせてほしいんだよ」

「マルクさん、自分もお腹が空きました」
 
「みんな、俺も腹ペコだから」

 こちらの言葉を最後に、無言の三人がじっと鉄板の上を見つめていた。
 辺りにはジューという肉の焼ける音だけが響いている。
 制止しなければ、素手で掴み取りそうなほど鬼気迫るものを感じた。

「……おっ、そろそろ焼けたか」

 好きに取らせると半生で食べそうな気配があったので、順番にそれぞれの皿に取り分けていく。
 最後に自分の分が用意できたところで、食べ始めることになった。

「「いただきます!」」

 三人ともなかなかの勢いで手と口を動かしていた。
 まるで、育ち盛りの子どもみたいだ。
 料理を出した側として、好ましい気持ちになる。

「ちなみにタレもいいけど、塩コショウで食べるのもおすすめ」

「ふぁい」

「ありがとうございます」

 肉を頬張りながらの返事が聞こえてくる。
 俺も空腹の限界なので、ナイフとフォークを手にして食べることにした。

 ヒレ肉に切りこみが入ると、じんわりと肉汁がにじみ出す。
 脂肪分が控えめな部位なので、肉質には適度な締まりがあった。

「じゃあ、俺もいただきますっと」

 最初の一切れは何もつけずに口へと運ぶ。
 鮮度管理が良好なおかげなのか雑味はなく、くどすぎない牛肉の風味が広がる。
 心の中で仕入れ先のセバスに感謝した。

 全員が一心不乱に食事を進めたため、あっという間に社食タイムは終わった。
 食後は使い終えた食器を片づけて、解散という流れになった。

 この後に用事があるというエスカ、自分へのご褒美にカフェへと向かったフレヤ。
 二人が立ち去ると、テーブル席に残ったのは俺とシリルだけだった。

「お疲れ様。今日は一日目だけど、どうだった?」

「ご迷惑をおかけしなくて済んだので、今はホッとしています」

 彼は少し恥ずかしそうに言った。

「いやいや、それどころか役に立ってたよ。今後はどれぐらい働くつもり? シリルさえよければしばらく働いてもらえたらと思うんだけど」

 こちらからの提案を聞いて、彼の表情が明るくなった。

「マルクさんのご迷惑でなければ、長く働かせて頂きたいです」

「ははっ、全然迷惑じゃないよ。これからもよろしく頼むね」

「はい、こちらこそ」

 人手が必要だったというのも本音ではあるが、こうして自分の店で働きたいという人がいることはうれしいことだと思った。


 あとがき
 お読みいただき、ありがとうございます。
 また、エールも励みになっています。
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