256 / 555
トリュフともふもふ
パメラと商品開発
しおりを挟む
アデルからガストロノミーという文化について聞いたことで、トリュフを活用する案がまとまりつつあった。
続いて具体的な料理を決めなければいけないため、アフタヌーンティーを提供しているパメラに会うことに決めていた。
ある日の午後。
焼肉屋が閉店してから、パメラの店が閉まる頃合いを見計らって訪問した。
彼女は仕事終わりのようでテラス席に腰かけて、休憩しているところだった。
メイド服のような衣服は以前と同じで、外したエプロンが椅子にかかっている。
日光が彼女の髪を照らして、きらきらと金色に輝いていた。
「こんにちは。お久しぶりです」
「……あっ、すみません。すぐに気づかなくて」
「いえ、大丈夫です。今日はお客として来たわけじゃないので」
「私に何かご用でしょうか?」
「はい、そんなところです」
パメラは近くの椅子に座るように勧めてくれた。
俺は礼を言って、そこに腰かけた。
「飲み物をご用意するので、少しお待ちください」
「ああっ、お気遣いなく」
こちらが言葉を返すと、彼女は微笑みで応じた。
そして、そのまま店の中へと戻っていった。
「試飲して頂いたフレーバーティーの新しい種類です」
「ありがとうございます」
カップに入ったそれはアイスティーのような見た目だが、ほのかにショウガの香りが漂ってくる。
「今日は風が涼しいので、ジンジャーティーにしてみました」
「身体が温まっていいですよね」
せっかく用意してもらったので、カップを口に近づける。
紅茶の香りとショウガの風味が合わさって、心地よい味わいだった。
「それで、どのようなご用でしょうか」
「実はトリュフを使った料理を考えようとしているところで……」
俺は橋の修繕費を用立てる経緯をかいつまんで説明した。
パメラもこの町の出身ということもあり、彼女の理解は早かった。
「――そういうことでしたのね。あの橋は昔からあるようですから、老朽化も致し方ないと思います」
「パメラさんは王都で働いたこともあるみたいなので、俺よりも料理の幅が広いかなと思ったんですけど」
「どちらかというとお菓子作りの方が得意です。とはいっても、王都にいた時は食べ歩きをして、トリュフを使った料理も食べたことがあります。マルクさんとはご縁があるようですので、ぜひとも協力させてください」
「ありがとうございます!」
パメラの善意に心から感謝した。
実物を見せるため、サミュエルに渡されたトリュフをテーブルに置いた。
「本当にトリュフを使うおつもりなのですね」
「はい、夢みたいな話なんですけど、アスタール山に生えてるんですよ」
パメラは感心するように目を丸くしている。
この世界でも高級品であることは変わりないので、こういった反応は自然だろう。
「手始めに何か作ろうと思うのですが、使ってしまってもよいのでしょうか?」
「はい、問題ありません」
「今日は休憩して帰るつもりでしたが、トリュフを見たらやる気が出てきました」
「おっ、それはよかった。あまり無理はしないでください」
パメラは腕まくりをして、やる気に満ちた姿勢を見せた。
「二人で調理した方が早いと思うので、よかったら手伝って手伝って頂けますか?」
「もちろんです」
「では、今から取りかかりますね」
彼女はトリュフを手に取り、席を立った。
店内に入っていったので、それに続いてついていく。
この店の調理場は清潔で整頓がされていた。
パメラが店を始めたのは最近ということもあり、全体的に真新しい印象を受けた。
「まずはパスタを試してみようと思います」
「分かりました。何か手伝えそうですか?」
「お皿の出し入れや食器の後片づけをお願いします。雑用でごめんなさい」
「いえいえ、お構いなく」
パメラはこちらを気遣いつつ、すでに動き始めている。
のんびりした性格だと思っていたが、料理を作る時は素早くなるようだ。
ひとまず、邪魔にならないように一歩引いた位置で待機する。
彼女の手際のよさに感心していると、そうこうするうちにパスタが完成した。
「マルクさん、お待たせしました。バターベースで和えたので、仕上げにトリュフをかけるだけです」
「専用のスライサーを預かったので、よかったらこれをどうぞ」
俺はパメラにスライサーを手渡した。
彼女はそれを受け取ると、半分にカットしたトリュフを削り始めた。
まるでかつお節のように、薄くスライスされたものが皿に落ちる。
ほんのりとこちらまで香りが漂ってくる。
「あっ、よかったらやってみますか?」
「いや、大丈夫です。いい匂いがするので、味の方が気になります」
「うふふっ、すぐに食べられるので、少しだけお待ちください」
パメラは微笑みながら、トリュフを削っていった。
パスタが完成すると調理場の一角で食べ始めた。
俺とパメラは立ったまま、フォーク片手に麺をすすった。
「お、美味しいー」
「いやー、抜群の味ですね」
二人で顔を見合わせた。
パメラはうっとりするような表情を見せている。
きっと、俺も同じような顔になっているはずだ。
「トリュフが十分に手に入りますし、これはいけそうじゃないですか」
「私もこんなに美味しいなんて予想できませんでした」
「パスタは完璧なので、今度は一品作ってみてもいいですか?」
「店内の設備でしたら、ご自由に使ってください」
パスタは確定でいいと思うが、幅を広げるために自分も案を出すことにした。
続いて具体的な料理を決めなければいけないため、アフタヌーンティーを提供しているパメラに会うことに決めていた。
ある日の午後。
焼肉屋が閉店してから、パメラの店が閉まる頃合いを見計らって訪問した。
彼女は仕事終わりのようでテラス席に腰かけて、休憩しているところだった。
メイド服のような衣服は以前と同じで、外したエプロンが椅子にかかっている。
日光が彼女の髪を照らして、きらきらと金色に輝いていた。
「こんにちは。お久しぶりです」
「……あっ、すみません。すぐに気づかなくて」
「いえ、大丈夫です。今日はお客として来たわけじゃないので」
「私に何かご用でしょうか?」
「はい、そんなところです」
パメラは近くの椅子に座るように勧めてくれた。
俺は礼を言って、そこに腰かけた。
「飲み物をご用意するので、少しお待ちください」
「ああっ、お気遣いなく」
こちらが言葉を返すと、彼女は微笑みで応じた。
そして、そのまま店の中へと戻っていった。
「試飲して頂いたフレーバーティーの新しい種類です」
「ありがとうございます」
カップに入ったそれはアイスティーのような見た目だが、ほのかにショウガの香りが漂ってくる。
「今日は風が涼しいので、ジンジャーティーにしてみました」
「身体が温まっていいですよね」
せっかく用意してもらったので、カップを口に近づける。
紅茶の香りとショウガの風味が合わさって、心地よい味わいだった。
「それで、どのようなご用でしょうか」
「実はトリュフを使った料理を考えようとしているところで……」
俺は橋の修繕費を用立てる経緯をかいつまんで説明した。
パメラもこの町の出身ということもあり、彼女の理解は早かった。
「――そういうことでしたのね。あの橋は昔からあるようですから、老朽化も致し方ないと思います」
「パメラさんは王都で働いたこともあるみたいなので、俺よりも料理の幅が広いかなと思ったんですけど」
「どちらかというとお菓子作りの方が得意です。とはいっても、王都にいた時は食べ歩きをして、トリュフを使った料理も食べたことがあります。マルクさんとはご縁があるようですので、ぜひとも協力させてください」
「ありがとうございます!」
パメラの善意に心から感謝した。
実物を見せるため、サミュエルに渡されたトリュフをテーブルに置いた。
「本当にトリュフを使うおつもりなのですね」
「はい、夢みたいな話なんですけど、アスタール山に生えてるんですよ」
パメラは感心するように目を丸くしている。
この世界でも高級品であることは変わりないので、こういった反応は自然だろう。
「手始めに何か作ろうと思うのですが、使ってしまってもよいのでしょうか?」
「はい、問題ありません」
「今日は休憩して帰るつもりでしたが、トリュフを見たらやる気が出てきました」
「おっ、それはよかった。あまり無理はしないでください」
パメラは腕まくりをして、やる気に満ちた姿勢を見せた。
「二人で調理した方が早いと思うので、よかったら手伝って手伝って頂けますか?」
「もちろんです」
「では、今から取りかかりますね」
彼女はトリュフを手に取り、席を立った。
店内に入っていったので、それに続いてついていく。
この店の調理場は清潔で整頓がされていた。
パメラが店を始めたのは最近ということもあり、全体的に真新しい印象を受けた。
「まずはパスタを試してみようと思います」
「分かりました。何か手伝えそうですか?」
「お皿の出し入れや食器の後片づけをお願いします。雑用でごめんなさい」
「いえいえ、お構いなく」
パメラはこちらを気遣いつつ、すでに動き始めている。
のんびりした性格だと思っていたが、料理を作る時は素早くなるようだ。
ひとまず、邪魔にならないように一歩引いた位置で待機する。
彼女の手際のよさに感心していると、そうこうするうちにパスタが完成した。
「マルクさん、お待たせしました。バターベースで和えたので、仕上げにトリュフをかけるだけです」
「専用のスライサーを預かったので、よかったらこれをどうぞ」
俺はパメラにスライサーを手渡した。
彼女はそれを受け取ると、半分にカットしたトリュフを削り始めた。
まるでかつお節のように、薄くスライスされたものが皿に落ちる。
ほんのりとこちらまで香りが漂ってくる。
「あっ、よかったらやってみますか?」
「いや、大丈夫です。いい匂いがするので、味の方が気になります」
「うふふっ、すぐに食べられるので、少しだけお待ちください」
パメラは微笑みながら、トリュフを削っていった。
パスタが完成すると調理場の一角で食べ始めた。
俺とパメラは立ったまま、フォーク片手に麺をすすった。
「お、美味しいー」
「いやー、抜群の味ですね」
二人で顔を見合わせた。
パメラはうっとりするような表情を見せている。
きっと、俺も同じような顔になっているはずだ。
「トリュフが十分に手に入りますし、これはいけそうじゃないですか」
「私もこんなに美味しいなんて予想できませんでした」
「パスタは完璧なので、今度は一品作ってみてもいいですか?」
「店内の設備でしたら、ご自由に使ってください」
パスタは確定でいいと思うが、幅を広げるために自分も案を出すことにした。
28
あなたにおすすめの小説
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました
黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。
これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件
☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。
しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった!
辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。
飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。
「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!?
元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!
さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語
会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる