異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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発展を遂げた国フェルトライン

カールの策略

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 アカネという戦力がある以上、易々とやられることはない。
 しかし、ギュンターがデックスと呼んだ男の不敵な様子から、侮るべきではないと判断した。

 この場にいる全員――ギュンターさえも――が動けない状態だったが、カールさんは何ごともないようにデックスへと歩み寄っていった。

「――カールさん、ちょっと」

 彼はこちらの制止に応じることなく、そのまま足を進めた。

「んっ? 何が起きてる?」

「姫様、あの男は何か企んでいるようです。ご注意を」

「ふんふん、そういうこと」

 ミズキとアカネは刀が抜けるように構えており、アデルはちゃっかり安全圏に待避している。
 そして、デックスのところに移動したカールさんがこちらを振り向いた。

「モリウッドに会うまでは隠し通そうと思いましたが、仲間と合流できたので、それもおしまいにしましょう」

 彼はこの場にそぐわないような笑みを浮かべていた。
 俺たちを侮辱しているように見えるが、途中までの様子から一変している。
 
「その男から聞いたでしょうが、モリウッドからお金を盗んだというのは事実です」

「おい若造、オレの言った通りだろ」

「……カールさんの方が悪者だったんですね」

 俺はギュンターと短く言葉を交わした。
 カールさんに裏切られたことが分かり、胸の中がモヤモヤする感じになった。
 己の見る目のなさに意気消沈しかけたところで、ギュンターが前に出て口を開く。
  
「デックス! カールにいくら掴まされたかは知らないが、これ以上モリウッドさんに損害を与えて、タダで済むと思うな!」

 具体的なことは分からないが、デックスという男は危険なようだ。
 ギュンターは怒りとも懇願とも取れる声を上げて、モリウッド氏への攻撃を防ごうとしている。

「はっ、知れたことを。街から追放された側が言うことを聞くと思うのかねー」

「お前は手下と共謀して、レイランド中のレストランにドブネズミをばら撒こうとしたんだぞ! あの時に殺しておくべきだった」

 ギュンターはカールさんに対してもそうだったが、デックスという人物とも何らかの確執があるようだ。
 それにしても、ギュンターの言ったことが本当であるならば、とんでもないことを計画したものだと思う。 
 こうなってしまってはカールさんの側につくことは難しい。

「カールさん、俺たちをだましたんですか?」

 こちらからの問いかけにわずかな間が空いた。

「モリウッドが私腹を肥やしているのは事実ですよ。気に入らない店があれば、買収することもあるでしょう」

 その言葉に戸惑いが生じた。
 カールさんとデックス、ギュンターとモリウッド氏。
 どちらかに大義があり、どちらかが不正を働いているという単純な構図ではないのだろうか。

「ちょっと待て。あいつの話に耳を貸すな。モリウッドさんは見こみのある店を傘下に引き入れることはある。だが、あくまで友好的にだ」

「もしかしたら、うちの店にしたようなことを他の店にしているかもしれませんよ」

 ギュンターは険しい表情を浮かべていたが、カールさんの一言で堪忍袋の緒が切れたようだ。
 勢いよく地面を蹴って、前へと突進した。

「――危ないっ」

 一瞬の出来事で何が起きたか理解するのに時間を要した。
 ギュンターに向けて矢が放たれて、それをアカネが刀で払いのけたのだ。

「す、すまない。撃たれるところだった」

「礼には及ばない」

 ギュンターは地面に膝をついていたが、すぐに立ち上がった。
 
 周囲に目を向けるが、伏兵の姿は見当たらない。
 矢の飛んできた方向に隠れているか、すでに逃げてしまったか。

「もういいだろう。カールが持ち出したモリウッドの金は諦めたらどうだ。この街のことは料理人のお前より、おれたちの方が詳しいのだから」

 デックスはくくくっと不敵な笑みを浮かべている。
 彼は勝利を確信しているようだ。
 門外漢である自分にできそうなことは思いつかなかった。

「それでは皆さん、ここまでありがとうございました。デックスと合流するまでは生きた心地がしませんでしたが、彼がいれば怖いものなしです」

「カール、このまま終わると思うなよ!」

「ああっ怖い怖い。そういうのを負け犬の遠吠えというらしいですよ」

「くそっ、なめやがって……」

 ギュンターは悔しそうに拳を地面に打ちつけた。
 やがてカールさんとデックスはどこかへいなくなった。

 二人の姿が見えなくなってから、俺はギュンターにたずねることにした。

「……デックスという男は危険なんですか?」

「本人が言ったように街のことに精通している。手下の数が多い上に、大半は街の中に潜んでやがる。見つけ出すのは無理だろう」

「そう……ですか」

 俺はギュンターの言葉を耳にして愕然とした。
 地球では市民に紛れて攻撃を仕かける勢力がいたが、この世界では聞いたことがなかった。
 レイランドの規模でそんなことをされては手の打ちようがない。

 これからどうすべきか考えていると、アカネが俺とギュンターの近くにやってきた。

「話は聞かせてもらった。拙者なら、デックスなる者の手下を吊し上げて無力化することは可能だ」

「えっ、そんなことが!?」

「ふざけてんのか? それにお前はよそ者だろう。レイランドの街は複雑に入り組んでいる」

 ギュンターは半信半疑といった様子だった。
 アカネの実力を目の当たりにしているため、無謀に思えることでも可能性があると感じたのだろう。

「とりあえず、『お前』呼ばわりはやめてもらおう」

 アカネは表情を変えないまま、足を一歩踏み出した。

「ちっ、分かったよ。あんた、名前は?」

「アカネだ」

「すでに知っていると思うが、ギュンターだ。よろしく頼む」

 ギュンターはアカネに根負けしたように、強気な姿勢を崩した。
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