異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
367 / 555
発展を遂げた国フェルトライン

故郷を思い返すマルク

しおりを挟む
 俺たちはモリウッド氏との対面を終えてから、レイランドの街にあるカフェに立ち寄った。
 ここは大通りから少し離れているため、そこまで混雑していない。
 上品な雰囲気のあるカウンター席、それ以外にはテーブル席がいくつか並ぶ。

 この店はモリウッド氏が経営する店の一つということで、ギュンターに勧められて足を運んだ。
 俺とアデル、ミズキにアカネ。それにギュンターの五人で丸いテーブルを囲むかたちで椅子に腰かけている。
 
「モリウッドさんからここに案内するように仰せつかってな」

 ギュンターは座ったままそう言うと、店のメニュー表をテーブルの上に並べた。
 俺はそのうちの一つを手に取り、広げて内容を確かめる。
 アイスティーにハーブティーという見かけることの多いものがある中で、一つの商品に目が留まった。

「……おっ、コーヒーがある」

 モリウッド氏の娘であるロミーに聞いたところ、コーヒー豆は希少価値があり、それに比例して高価ということだった。
 それを示すようにバラムだけでなく、ランス王国周辺でも見かけたことがない。

 これまでの情報を反映するように一杯当たりの値段は銀貨三枚。
 店自体が上品な雰囲気こともあり全体的に高単価ではあるが、それを差し引いても一杯のコーヒーの値段が突出している。

「あの、コーヒーを頂くことってできます? 他のより割高なんですけど」 

「それなら気にするな。モリウッドさんはみみっちいことは言わない。軽食が必要なら頼んでもいいぞ」

「さっき朝食を食べたので、食事は間に合ってます」

 ギュンターに断りを入れてから、コーヒーを頼むことに決めた。
   
「私は決まったわ。ミズキとアカネはどう?」

 メニュー表をじっと見ていたアデルが顔を上げて言った。

「あたしはいいんだけど、アカネが迷ってる。サクラギで食べられないものがほとんどだからね」

「功労者なんだから好きなものを頼んだら? たくさん注文してもモリウッドはみみっちいことを言わないらしいわよ」

 アデルの言葉を受けて、アカネはギュンターに窺うような視線を向けた。
 
「もちろんその通りだ。モリウッドさんだけでなくオレも感謝している。遠慮せずに注文してくれ」

「ふむ、では遠慮なく」

 アカネが頷いたところで、ギュンターが給仕をしているメイドを呼んだ。
 モリウッド氏が雇っていたメイドと同じような服を身につけている。
 落ちついた風合いのそれは古風なメイド服のようだ。

「皆さん、お決まりですか?」

 俺たちは順番に頼みたいものを注文した。

 俺はホットコーヒー、アデルは日替わりケーキと紅茶のセット。
 ミズキはフルーツパフェとアイスティー、アカネはハンバーグステーキ、自家製プリン、オレンジジュース――注文内容はこういった具合だった。
  
 アカネは注文を終えた後、ギュンターに「かたじけない」と言った。
 しかし、一番高いのはホットコーヒーであることは言い出しにくいと思った。

 少ししてテーブルに飲みものが揃ったところで、ギュンターが乾杯の音頭を取るように話し始めた。
 ちなみに彼は別口でウイスキーのロックを頼んでいた。
 
「お前たちのおかげでデックスを捕らえることができた。あいつはモリウッドさんだけでなく、オレたち料理人にとっても厄介な存在だった」

 ギュンターはそこまで言い終えたところで、感極まったような間があった。
 涙を流しているわけではないが、いかつい顔に複雑な感情の変化が見て取れる。

「……とにかく、これで安心できる、ホントにありがとう」

 乾杯とまではいかないが、それぞれにグラスを掲げてから飲み始めた。
 
 俺は早速コーヒーを味わおうとした。
 ロミーが飲ませてくれたものとは豆が違うようで、マグカップから香る匂いは同じではなかった。
   
「うん、どれどれ……」

 マグカップの取っ手に手を伸ばして、湯気の浮かぶ黒い液体を口につける。
 酸味と苦みのバランスがとれた味わいで、飲みやすい口当たりだと思った。

「コーヒーって美味しいのかしら? 高価だから特別な味がしそうだけれど、見た目がよくなくて飲んだことがないのよね。見かけることも少ないし」

「どうでしょう。味というより風味を味わうといった感じですね」 

 こちらの返事に納得するように頷いた後、アデルは降り積もった雪のようにクリームの乗ったケーキを食べ始めた。
 ミズキとアカネは楽しそうに話しながら、それぞれが注文したものを口に運んでいる。

「お前の故郷……バラムだったか。そこは平和なところなのか?」

 隣に座るギュンターがちびりちびりとウイスキーをすすりながらたずねてきた。

「レイランドと比べるつもりはないですけど、デックスのような悪党はいませんし、のんびりして住みやすいところだと思います」

「そうか、いいところだな」

「ええ、そうです」

 ギュンターの問いかけをきっかけにして、バラムのことに意識が向いた。
 フレヤとシリルたちに店を任せてきたものの、店を離れて久しい。
 そろそろ、戻ってもいい頃なのかもしれない。

 コーヒーを口に運び、店の雰囲気を味わうように眺める。
 俺は自分の店のことを思い返しながら、仲間たちとすごす時間を大切にしたいと思った。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...