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ダークエルフの帰還
進攻に向けた作戦
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モモカはダイモンを中心に話し合うようにと伝えた後、アンズと共に席を外した。
アンズに関してはこれから潜入のための準備があるみたいだった。
「おーい、全員集まれ」
ダイモンが広間の中心で呼びかけると大きい声ではないのに、兵士全員が集まった。
広間の中央にはいつの間にか大きな机が設置されていて、その上にはどこかの地図が用意されていた。
「僕たちも聞いておこう」
近くにいたクリストフがそう促した。
本格的な戦闘員ではない自分が参加すべきか決めかねているが、足手まといにならないようならばついていこうと考えていた。
当事者のラーニャはすでにダイモンの近くで待機している。
いよいよ仲間を助けるチャンスが訪れるとあって、普段は物静かな彼女から気迫のようなものが感じられた。
広間にいる全員が机の周りに勢揃いして、ダイモンがよく通る声で話し始める。
「今回は攻城戦みたいなものだ! それぞれ槍と盾を用意しろ!」
兵士たちに檄を飛ばすような言葉だった。
続けてダイモンは地図の上に指を置いた。
「我々は正面突破を試みる。ヒイラギでは薬師が少ない。手傷を負うようなことはできるだけ避けてくれ」
兵士たちの信頼が見て取るように分かる。
彼らはダイモンの一言一句にしっかりと頷いていた。
傍らで作戦を聞いているが、そこまで複雑なものではなさそうだ。
前衛の兵士が横一列に隊列を組んで、槍と盾を装備して前進する。
山賊が組織だった戦いをする可能性は低く、隊列を乱されない限りは優勢に攻めこめるようだ。
向こうに気づかれるような作戦になるわけだが、アンズが人質を助けに行くことで救出に関しては問題ないだろう。
むしろ正面で大騒ぎして陽動になれば、アンズが潜入したことが露見しにくくなる。
姉のアカネほど突出した能力があるかは分からない部分もありつつ、領主のモモカが任せる以上は確実なのだと信じたい。
ダイモンが話し終えると兵士たちはそれぞれの役目を担うべく部屋を出ていった。
慌ただしい様子にいよいよ戦いが迫っているのだと実感した。
本来兵士でも戦士でもない俺とラーニャはそれほどでもないのだが、ランス王国の精兵であるリリアとクリストフは昂っているように見えた。
「マルク殿はどうされますか?」
リリアに声をかけられて、我に返るような状態になる。
この場の熱気を受けたことで、頭がぼんやりとしていたようだ。
「は、はい……。俺だけ残るわけにはいかないので、後衛として同行しますよ」
「敵の実力が分からないですから、どうか危険は冒さないでください」
「もちろんです。現役の冒険者だったなら活躍したいですけど、今はしがない店主なので」
冒険者をしていた頃ならば、活躍の場面だと気合いが入ったかもしれない。
だが今は身のほどを弁(わきま)えて、身の危険になるようなリスクを取ろうとは思えない。
心構えが変わったとも言えるかもしれないし、大事なもの――自分の店や従業員たち――があることで、攻めよりも守りを重視するようになったのだろう。
「リリアとクリストフだったか。おぬしたちはどうする? 腕前を確かめる間もなくなったが、希望するならば前線に配置してもよいぞ」
仲間同士で話しているとダイモンがやってきた。
リリアたちに一定の実力があると判断したようで、二人を認めるような発言だった。思いこみかもしれないが、そんなふうに見えた。
元冒険者の俺でさえも二人の風格から精兵であることを見抜くことができるので、ダイモンほどの人物ならば十分に可能なことだと思った。
特にリリアは討伐遠征や冒険を経たことで、初めて会った時よりも精悍さが増している。
それにランス王国の兵士長であるクリストフは言うまでもない。
普段は意識することは少ないが、仲間に恵まれていることを改めて実感した。
成り行きを見守っているとダイモン、リリア、クリストフの三人が戦術的な話を始めたので、少し離れたところに腰を下ろした。
彼らが聞き慣れない言葉を使う様子を目の当たりにして、兵士と冒険者では立場が違うと気づいたからだ。
俺と同じようなことを思ったのか、ラーニャが近くに座った。
二人で横並びに座り、前方ではダイモンたちが引き締まった表情で話し合っている。
「いよいよですね」
「……長かった。お前に出会わなければ洞窟での隠遁生活を続けていただろう」
出会ったばかりの頃は居丈高に聞こえたラーニャの言葉も、今では何を言わんとしているかを推察できるようになった。
彼女のことを知らなければ読み取りにくいことだが、本人なりに感謝を示しているようだ。
「今更になっちゃいますけど、人質を取られたのは悔しいですね」
「仲間が人質になった時点で、すでに何人かが犠牲になっていた。これ以上犠牲は出せないと反撃の手が緩んでしまった」
これまでのラーニャは冷たく鋭い氷のような怒りを抱えているようだった。
しかし、今の彼女からは仲間を失ったことの悲しみが伝わってきた。
ラーニャに力を貸すと決めた時、おぼろげだった決意が揺るがぬものになるのを感じた。
無理ができる立場ではないが、元冒険者としてできる限りのことをしたいと思った。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
カクヨムのコンテスト参加作品を書いているところで、異世界焼肉屋まで手が回っていません。
次の更新は一ヶ月以上後になります。
更新の間隔が空いてしまい申し訳ありません。
ちなみに以下が参加作品です。
現実主義のライターは超常現象に直面する~検証チャンネルの配信者と出会い、不可思議な事件を調査します~
https://kakuyomu.jp/works/16818093090933794558
ホラーの長編作品ですが、私自身が怖いのが苦手なので怖さひかえめです(笑)
オカルトを一切信じないライターが取材を通じて、超常現象に遭遇するというストーリーです。
アンズに関してはこれから潜入のための準備があるみたいだった。
「おーい、全員集まれ」
ダイモンが広間の中心で呼びかけると大きい声ではないのに、兵士全員が集まった。
広間の中央にはいつの間にか大きな机が設置されていて、その上にはどこかの地図が用意されていた。
「僕たちも聞いておこう」
近くにいたクリストフがそう促した。
本格的な戦闘員ではない自分が参加すべきか決めかねているが、足手まといにならないようならばついていこうと考えていた。
当事者のラーニャはすでにダイモンの近くで待機している。
いよいよ仲間を助けるチャンスが訪れるとあって、普段は物静かな彼女から気迫のようなものが感じられた。
広間にいる全員が机の周りに勢揃いして、ダイモンがよく通る声で話し始める。
「今回は攻城戦みたいなものだ! それぞれ槍と盾を用意しろ!」
兵士たちに檄を飛ばすような言葉だった。
続けてダイモンは地図の上に指を置いた。
「我々は正面突破を試みる。ヒイラギでは薬師が少ない。手傷を負うようなことはできるだけ避けてくれ」
兵士たちの信頼が見て取るように分かる。
彼らはダイモンの一言一句にしっかりと頷いていた。
傍らで作戦を聞いているが、そこまで複雑なものではなさそうだ。
前衛の兵士が横一列に隊列を組んで、槍と盾を装備して前進する。
山賊が組織だった戦いをする可能性は低く、隊列を乱されない限りは優勢に攻めこめるようだ。
向こうに気づかれるような作戦になるわけだが、アンズが人質を助けに行くことで救出に関しては問題ないだろう。
むしろ正面で大騒ぎして陽動になれば、アンズが潜入したことが露見しにくくなる。
姉のアカネほど突出した能力があるかは分からない部分もありつつ、領主のモモカが任せる以上は確実なのだと信じたい。
ダイモンが話し終えると兵士たちはそれぞれの役目を担うべく部屋を出ていった。
慌ただしい様子にいよいよ戦いが迫っているのだと実感した。
本来兵士でも戦士でもない俺とラーニャはそれほどでもないのだが、ランス王国の精兵であるリリアとクリストフは昂っているように見えた。
「マルク殿はどうされますか?」
リリアに声をかけられて、我に返るような状態になる。
この場の熱気を受けたことで、頭がぼんやりとしていたようだ。
「は、はい……。俺だけ残るわけにはいかないので、後衛として同行しますよ」
「敵の実力が分からないですから、どうか危険は冒さないでください」
「もちろんです。現役の冒険者だったなら活躍したいですけど、今はしがない店主なので」
冒険者をしていた頃ならば、活躍の場面だと気合いが入ったかもしれない。
だが今は身のほどを弁(わきま)えて、身の危険になるようなリスクを取ろうとは思えない。
心構えが変わったとも言えるかもしれないし、大事なもの――自分の店や従業員たち――があることで、攻めよりも守りを重視するようになったのだろう。
「リリアとクリストフだったか。おぬしたちはどうする? 腕前を確かめる間もなくなったが、希望するならば前線に配置してもよいぞ」
仲間同士で話しているとダイモンがやってきた。
リリアたちに一定の実力があると判断したようで、二人を認めるような発言だった。思いこみかもしれないが、そんなふうに見えた。
元冒険者の俺でさえも二人の風格から精兵であることを見抜くことができるので、ダイモンほどの人物ならば十分に可能なことだと思った。
特にリリアは討伐遠征や冒険を経たことで、初めて会った時よりも精悍さが増している。
それにランス王国の兵士長であるクリストフは言うまでもない。
普段は意識することは少ないが、仲間に恵まれていることを改めて実感した。
成り行きを見守っているとダイモン、リリア、クリストフの三人が戦術的な話を始めたので、少し離れたところに腰を下ろした。
彼らが聞き慣れない言葉を使う様子を目の当たりにして、兵士と冒険者では立場が違うと気づいたからだ。
俺と同じようなことを思ったのか、ラーニャが近くに座った。
二人で横並びに座り、前方ではダイモンたちが引き締まった表情で話し合っている。
「いよいよですね」
「……長かった。お前に出会わなければ洞窟での隠遁生活を続けていただろう」
出会ったばかりの頃は居丈高に聞こえたラーニャの言葉も、今では何を言わんとしているかを推察できるようになった。
彼女のことを知らなければ読み取りにくいことだが、本人なりに感謝を示しているようだ。
「今更になっちゃいますけど、人質を取られたのは悔しいですね」
「仲間が人質になった時点で、すでに何人かが犠牲になっていた。これ以上犠牲は出せないと反撃の手が緩んでしまった」
これまでのラーニャは冷たく鋭い氷のような怒りを抱えているようだった。
しかし、今の彼女からは仲間を失ったことの悲しみが伝わってきた。
ラーニャに力を貸すと決めた時、おぼろげだった決意が揺るがぬものになるのを感じた。
無理ができる立場ではないが、元冒険者としてできる限りのことをしたいと思った。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
カクヨムのコンテスト参加作品を書いているところで、異世界焼肉屋まで手が回っていません。
次の更新は一ヶ月以上後になります。
更新の間隔が空いてしまい申し訳ありません。
ちなみに以下が参加作品です。
現実主義のライターは超常現象に直面する~検証チャンネルの配信者と出会い、不可思議な事件を調査します~
https://kakuyomu.jp/works/16818093090933794558
ホラーの長編作品ですが、私自身が怖いのが苦手なので怖さひかえめです(笑)
オカルトを一切信じないライターが取材を通じて、超常現象に遭遇するというストーリーです。
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