異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
470 / 555
ダークエルフの帰還

進攻に向けた作戦

しおりを挟む
 モモカはダイモンを中心に話し合うようにと伝えた後、アンズと共に席を外した。
 アンズに関してはこれから潜入のための準備があるみたいだった。

「おーい、全員集まれ」

 ダイモンが広間の中心で呼びかけると大きい声ではないのに、兵士全員が集まった。
 広間の中央にはいつの間にか大きな机が設置されていて、その上にはどこかの地図が用意されていた。

「僕たちも聞いておこう」

 近くにいたクリストフがそう促した。
 本格的な戦闘員ではない自分が参加すべきか決めかねているが、足手まといにならないようならばついていこうと考えていた。
 当事者のラーニャはすでにダイモンの近くで待機している。
 いよいよ仲間を助けるチャンスが訪れるとあって、普段は物静かな彼女から気迫のようなものが感じられた。
 広間にいる全員が机の周りに勢揃いして、ダイモンがよく通る声で話し始める。

「今回は攻城戦みたいなものだ! それぞれ槍と盾を用意しろ!」

 兵士たちに檄を飛ばすような言葉だった。
 続けてダイモンは地図の上に指を置いた。

「我々は正面突破を試みる。ヒイラギでは薬師が少ない。手傷を負うようなことはできるだけ避けてくれ」

 兵士たちの信頼が見て取るように分かる。
 彼らはダイモンの一言一句にしっかりと頷いていた。
 傍らで作戦を聞いているが、そこまで複雑なものではなさそうだ。

 前衛の兵士が横一列に隊列を組んで、槍と盾を装備して前進する。
 山賊が組織だった戦いをする可能性は低く、隊列を乱されない限りは優勢に攻めこめるようだ。
 
 向こうに気づかれるような作戦になるわけだが、アンズが人質を助けに行くことで救出に関しては問題ないだろう。
 むしろ正面で大騒ぎして陽動になれば、アンズが潜入したことが露見しにくくなる。
 姉のアカネほど突出した能力があるかは分からない部分もありつつ、領主のモモカが任せる以上は確実なのだと信じたい。

 ダイモンが話し終えると兵士たちはそれぞれの役目を担うべく部屋を出ていった。
 慌ただしい様子にいよいよ戦いが迫っているのだと実感した。
 本来兵士でも戦士でもない俺とラーニャはそれほどでもないのだが、ランス王国の精兵であるリリアとクリストフは昂っているように見えた。

「マルク殿はどうされますか?」

 リリアに声をかけられて、我に返るような状態になる。
 この場の熱気を受けたことで、頭がぼんやりとしていたようだ。

「は、はい……。俺だけ残るわけにはいかないので、後衛として同行しますよ」

「敵の実力が分からないですから、どうか危険は冒さないでください」

「もちろんです。現役の冒険者だったなら活躍したいですけど、今はしがない店主なので」

 冒険者をしていた頃ならば、活躍の場面だと気合いが入ったかもしれない。
 だが今は身のほどを弁(わきま)えて、身の危険になるようなリスクを取ろうとは思えない。
 心構えが変わったとも言えるかもしれないし、大事なもの――自分の店や従業員たち――があることで、攻めよりも守りを重視するようになったのだろう。

「リリアとクリストフだったか。おぬしたちはどうする? 腕前を確かめる間もなくなったが、希望するならば前線に配置してもよいぞ」 

 仲間同士で話しているとダイモンがやってきた。
 リリアたちに一定の実力があると判断したようで、二人を認めるような発言だった。思いこみかもしれないが、そんなふうに見えた。

 元冒険者の俺でさえも二人の風格から精兵であることを見抜くことができるので、ダイモンほどの人物ならば十分に可能なことだと思った。
 特にリリアは討伐遠征や冒険を経たことで、初めて会った時よりも精悍さが増している。
 それにランス王国の兵士長であるクリストフは言うまでもない。
 普段は意識することは少ないが、仲間に恵まれていることを改めて実感した。

 成り行きを見守っているとダイモン、リリア、クリストフの三人が戦術的な話を始めたので、少し離れたところに腰を下ろした。
 彼らが聞き慣れない言葉を使う様子を目の当たりにして、兵士と冒険者では立場が違うと気づいたからだ。 
 俺と同じようなことを思ったのか、ラーニャが近くに座った。
 二人で横並びに座り、前方ではダイモンたちが引き締まった表情で話し合っている。

「いよいよですね」

「……長かった。お前に出会わなければ洞窟での隠遁生活を続けていただろう」

 出会ったばかりの頃は居丈高に聞こえたラーニャの言葉も、今では何を言わんとしているかを推察できるようになった。
 彼女のことを知らなければ読み取りにくいことだが、本人なりに感謝を示しているようだ。

「今更になっちゃいますけど、人質を取られたのは悔しいですね」

「仲間が人質になった時点で、すでに何人かが犠牲になっていた。これ以上犠牲は出せないと反撃の手が緩んでしまった」

 これまでのラーニャは冷たく鋭い氷のような怒りを抱えているようだった。
 しかし、今の彼女からは仲間を失ったことの悲しみが伝わってきた。
 ラーニャに力を貸すと決めた時、おぼろげだった決意が揺るがぬものになるのを感じた。
 無理ができる立場ではないが、元冒険者としてできる限りのことをしたいと思った。


 あとがき
 いつも読んで頂き、ありがとうございます。 
 カクヨムのコンテスト参加作品を書いているところで、異世界焼肉屋まで手が回っていません。
 次の更新は一ヶ月以上後になります。
 更新の間隔が空いてしまい申し訳ありません。

 ちなみに以下が参加作品です。
 現実主義のライターは超常現象に直面する~検証チャンネルの配信者と出会い、不可思議な事件を調査します~
 https://kakuyomu.jp/works/16818093090933794558

 ホラーの長編作品ですが、私自身が怖いのが苦手なので怖さひかえめです(笑)
 オカルトを一切信じないライターが取材を通じて、超常現象に遭遇するというストーリーです。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

処理中です...