39 / 237
はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―
ヨセフたちとの別れ
しおりを挟む
リサの呼び出しを受けて、俺とエルネスは互いを見合った。
「おそらく、この先についての話でしょう」
「そうだ、エルネス。これありがとう」
俺は釣り竿を彼に返した。
一匹ぐらいは釣りかったので、名残惜しい気持ちだった。
「いえいえ、こちらこそ。カナタさんの国の話が聞けてよかったですよ」
「さてと、それじゃあ戻りますかね」
俺たちは小川を離れて、集落の中心へと足を運んだ。
道の途中でリサが待っており、こっちこっちと呼びかけられた。
それからリサの案内で移動を続けた。
朝食をするのは宴をした場所で、テーブルに食事が用意されていた。
昨日と状況が異なるのは、ヨセフ一人だけが待っているところだった。
「やあ、おはよう。昨日はよく眠れたかい」
「おはようございます。はい、おかげさまで。昨日はせっかく食事に誘っていただいたのに申し訳ありません」
せっかくのもてなしを断ったことに罪悪感があった。
だが、ヨセフの表情にこちらを責めるような様子は見られない。
「わははっ、いいんだよ気にしなくて。フォンスまで行こうという者は珍しくてね。手伝いたくて手伝っていて、歓迎したくて歓迎しているのだから、そうかしこまらなくていい」
「ご厚意ありがたいです。それではお言葉に甘えて」
ヨセフは懐の深い人物だと再認識した。
俺は一礼してから席についた。
エルネスたちは緊張していないようで、いつの間にか席についていた。
テーブルに用意されていたのは見たことがない木の実とパンだった。
宴の時のような祈りみたいなものはなく、ヨセフは普通に食べ始めている。
それを見て俺もパンを手に取った。
「食事をしながらでいいので話をしよう。よろしいかな?」
「どうぞ、続けてください」
「フォンスまで行くための三人分の食料、それからテントを用意しておいた」
「そこまで親切に……本当にありがとうございます」
森の中では補給が難しいので、とても助かる申し出だった。
エルネスやリサの様子を確かめると、うれしそうに笑顔を浮かべていた。
「荷物でしたら僕が運ぶので問題ないでしょう。周囲への警戒が薄くなりやすいので、その辺りは身軽に動けるリサやカナタさんに任せます」
「体力がもたなくなるから夜の見張りは交代で頼むわ。焚き火を絶やさなければ問題ないと思うけれど、警戒するに越したことはないでしょ。何が起きるか分からないもの」
「……夜の見張りをするのはちょっと怖ろしいな……」
脳裏にマナクイバナのグロテスクな姿が浮かんでいた。
「カナタさんが心配なら僕もついてますよ。あとは旅の都合とはいえ、女性とテントに二人きりというのも多少気が引けるので」
エルネスは少し照れているように見えた。
昨日のリサといい、エルフたちは貞操観念に対する意識が高いらしい。
「ははっ、仲良くやっておくれ。それなりに距離がある道のりだからな。リサもせっかくフォンスまで行けるのだから楽しんでくるといい。なかなか行く機会はないだろう」
「ええ、そうします。でも、お土産は期待しないでくださいね。……さてと、カナタ、エルネス、もう少ししたら出発するわ。食事が終わったら準備を済ませて」
それから用意された食事を一通り口にした。
地球風の表現にするなら、オーガニックな感じの食べ物が多かった。
パンはプレーンに近い味わいで、木の実は癖がなく食べやすい味だった。
街のエルフはもう少し味のある食事を好む印象なので、森のエルフは健康でヘルシーな食事が中心なのかもしれない。とにかくさっぱりしていた。
俺は食事が終わってからヨセフに礼を言って、用意された部屋に戻った。
すでに着替えは済ませてあるので、バックパックを担ぐだけでよかった。
眠らせてもらったベッドを整えて、忘れ物がないか確認して外に出た。
すると、リサが部屋の前で待っていた。
「私も出発できるから、あとはエルネスだけね」
「そうか、わかった」
リサが集落の入り口に向かったため、それに続いて歩いていく。
風光明媚な場所だったので離れるのは名残り惜しかった。
絶景が売りの写真集でメルディスに近い風景を目にしたことはあるが、どれだけ同じようなところが地球にあるのだろうか。
おそらく、日本で生活していたら目にすることなく一生を終えていたはずだ。
たった一晩滞在しただけで、そこまで感慨深くなっている自分に驚いた。
それはきっと、集落の人たちが歓迎しようとしてくれたからなのではないか。
俺たちが入り口に着くと、少し遅れてエルネスがやってきた。
彼の後ろにはたくさんのエルフが一緒だった。集落の人たちだろう。
それから俺たち三人は一列に並び、集落のエルフたちと向かい合っていた。
おそらく、別れのあいさつでもするのだろうと察した。
「カナタくん、君は美しい心を持った青年だ」
「……老年のエルフは心が見えるといわれてるわ」
ヨセフの慈愛がこもるような目を前にして、俺がきょとんとしているとリサが小声で補足した。
「さあ、皆で彼らの旅を祝福しよう!」
ヨセフの一声でリサとエルネス以外のエルフが歌い始めた。
その歌声は奥深くしみ渡るようで、心を揺さぶられるような響きだった。
美しいとか、胸が打たれるとか、この感覚をどう表現したらいいのか。自分の持ちうる言葉や知識では足りなすぎると痛感した。
「……あれ?」
それは余韻を残すように、不思議な陶酔とこみ上げるものがあった。
彼らの歌が終わるころ、自分の両目に涙が浮かんでいるのに気づいた。
涙を見せるのは照れくさかったので、そっと指先で拭っておいた。
「フォンスから帰る時はまた寄っておくれ」
「ありがとうございました」
ヨセフは笑顔で送り出してくれた。
他のエルフたちも同じように温かい様子で見送ってくれた。
俺たちは手を振って、その場を後にした。
前方に続く道の先には緑の濃い森がどこまでも広がっていた。
「おそらく、この先についての話でしょう」
「そうだ、エルネス。これありがとう」
俺は釣り竿を彼に返した。
一匹ぐらいは釣りかったので、名残惜しい気持ちだった。
「いえいえ、こちらこそ。カナタさんの国の話が聞けてよかったですよ」
「さてと、それじゃあ戻りますかね」
俺たちは小川を離れて、集落の中心へと足を運んだ。
道の途中でリサが待っており、こっちこっちと呼びかけられた。
それからリサの案内で移動を続けた。
朝食をするのは宴をした場所で、テーブルに食事が用意されていた。
昨日と状況が異なるのは、ヨセフ一人だけが待っているところだった。
「やあ、おはよう。昨日はよく眠れたかい」
「おはようございます。はい、おかげさまで。昨日はせっかく食事に誘っていただいたのに申し訳ありません」
せっかくのもてなしを断ったことに罪悪感があった。
だが、ヨセフの表情にこちらを責めるような様子は見られない。
「わははっ、いいんだよ気にしなくて。フォンスまで行こうという者は珍しくてね。手伝いたくて手伝っていて、歓迎したくて歓迎しているのだから、そうかしこまらなくていい」
「ご厚意ありがたいです。それではお言葉に甘えて」
ヨセフは懐の深い人物だと再認識した。
俺は一礼してから席についた。
エルネスたちは緊張していないようで、いつの間にか席についていた。
テーブルに用意されていたのは見たことがない木の実とパンだった。
宴の時のような祈りみたいなものはなく、ヨセフは普通に食べ始めている。
それを見て俺もパンを手に取った。
「食事をしながらでいいので話をしよう。よろしいかな?」
「どうぞ、続けてください」
「フォンスまで行くための三人分の食料、それからテントを用意しておいた」
「そこまで親切に……本当にありがとうございます」
森の中では補給が難しいので、とても助かる申し出だった。
エルネスやリサの様子を確かめると、うれしそうに笑顔を浮かべていた。
「荷物でしたら僕が運ぶので問題ないでしょう。周囲への警戒が薄くなりやすいので、その辺りは身軽に動けるリサやカナタさんに任せます」
「体力がもたなくなるから夜の見張りは交代で頼むわ。焚き火を絶やさなければ問題ないと思うけれど、警戒するに越したことはないでしょ。何が起きるか分からないもの」
「……夜の見張りをするのはちょっと怖ろしいな……」
脳裏にマナクイバナのグロテスクな姿が浮かんでいた。
「カナタさんが心配なら僕もついてますよ。あとは旅の都合とはいえ、女性とテントに二人きりというのも多少気が引けるので」
エルネスは少し照れているように見えた。
昨日のリサといい、エルフたちは貞操観念に対する意識が高いらしい。
「ははっ、仲良くやっておくれ。それなりに距離がある道のりだからな。リサもせっかくフォンスまで行けるのだから楽しんでくるといい。なかなか行く機会はないだろう」
「ええ、そうします。でも、お土産は期待しないでくださいね。……さてと、カナタ、エルネス、もう少ししたら出発するわ。食事が終わったら準備を済ませて」
それから用意された食事を一通り口にした。
地球風の表現にするなら、オーガニックな感じの食べ物が多かった。
パンはプレーンに近い味わいで、木の実は癖がなく食べやすい味だった。
街のエルフはもう少し味のある食事を好む印象なので、森のエルフは健康でヘルシーな食事が中心なのかもしれない。とにかくさっぱりしていた。
俺は食事が終わってからヨセフに礼を言って、用意された部屋に戻った。
すでに着替えは済ませてあるので、バックパックを担ぐだけでよかった。
眠らせてもらったベッドを整えて、忘れ物がないか確認して外に出た。
すると、リサが部屋の前で待っていた。
「私も出発できるから、あとはエルネスだけね」
「そうか、わかった」
リサが集落の入り口に向かったため、それに続いて歩いていく。
風光明媚な場所だったので離れるのは名残り惜しかった。
絶景が売りの写真集でメルディスに近い風景を目にしたことはあるが、どれだけ同じようなところが地球にあるのだろうか。
おそらく、日本で生活していたら目にすることなく一生を終えていたはずだ。
たった一晩滞在しただけで、そこまで感慨深くなっている自分に驚いた。
それはきっと、集落の人たちが歓迎しようとしてくれたからなのではないか。
俺たちが入り口に着くと、少し遅れてエルネスがやってきた。
彼の後ろにはたくさんのエルフが一緒だった。集落の人たちだろう。
それから俺たち三人は一列に並び、集落のエルフたちと向かい合っていた。
おそらく、別れのあいさつでもするのだろうと察した。
「カナタくん、君は美しい心を持った青年だ」
「……老年のエルフは心が見えるといわれてるわ」
ヨセフの慈愛がこもるような目を前にして、俺がきょとんとしているとリサが小声で補足した。
「さあ、皆で彼らの旅を祝福しよう!」
ヨセフの一声でリサとエルネス以外のエルフが歌い始めた。
その歌声は奥深くしみ渡るようで、心を揺さぶられるような響きだった。
美しいとか、胸が打たれるとか、この感覚をどう表現したらいいのか。自分の持ちうる言葉や知識では足りなすぎると痛感した。
「……あれ?」
それは余韻を残すように、不思議な陶酔とこみ上げるものがあった。
彼らの歌が終わるころ、自分の両目に涙が浮かんでいるのに気づいた。
涙を見せるのは照れくさかったので、そっと指先で拭っておいた。
「フォンスから帰る時はまた寄っておくれ」
「ありがとうございました」
ヨセフは笑顔で送り出してくれた。
他のエルフたちも同じように温かい様子で見送ってくれた。
俺たちは手を振って、その場を後にした。
前方に続く道の先には緑の濃い森がどこまでも広がっていた。
1
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる