60 / 237
はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―
ウィリデへの馬車
しおりを挟む
俺たちはフォンスの中心部レギナを出発した。
行商人トマスの操る馬車でウィリデへ戻るところだ。
短時間で城壁を出て、すぐに大森林に至る街道に出た。
行きはひたすら歩いてきたが、自動的に進む馬車は快適そのものだった。
多少の揺れはあるものの、そこまで苦になるほどではない。
この感覚は生まれて始めて車を運転した時に似ている。
自分の足で歩かなくていいし、自転車のようにペダルを漕がなくてもいい。
進行方向に目をやると前方の景色が見えた。
パカラ、パカラと馬の蹄が地面を蹴る音が聞こえる。
一見優雅な旅のように見えてしまうが、実際はそうではなかった。
ウィリデの同盟国フォンスに危機が近づき、エルネスは大金をはたいた。
自分はどうなのかというと大森林に入れば護衛の役割を担う必要がある。
魔術が使える以上、一定の責任が求められることは間違いなかった。
「ねえエルネス、ほんとにカルマンが攻めてくると思う?」
俺が物思いにふけっているとリサが口を開いた。
「滅多にカルマンを出ないドワーフがフォンスに来たということは、おそらく」
「俺はリカルドが嘘を言ってるようには見えませんでしたね」
「僕も同じ印象でした。こんな切迫した状況は初めてで戸惑いました」
珍しくエルネスが弱音を口にした。
「戦争が起きようっていうんだから、そうなりますよね」
「これからどうなるのかしら。ウィリデもカルマンと戦わないといけないとか」
そこまで言葉に出さなかっただけで、二人とも不安を感じているようだった。
かくいう俺はリカルドに協力したいものの、いまいち現実感がなかった。
日本では紛争や世界情勢の報道を目にすることがあるが、海を隔てた遠い国の出来事を自分のことに結びつけられなかった。今回も多少そんな節がある。
考えれば考えるほど、天国から地獄に突き落とされたような感覚を抱いた。
予定では、レギナを散策してのんびり帰るはずだったのに……。
「ウィリデは上級魔術師が複数いるだけでなく、大森林という天然の城壁があるので、すぐに危険が迫るということはないでしょう」
「あそこを突破するのに時間かかりそうですよね」
「ただ、フォンスが応援を要請した場合、援軍を出す必要に迫られるはずです」
エルネスは顔をしかめていった。
俺はウィリデとフォンスの関係について、大まかな知識しかない。
「それじゃあ、エルネスもその中に入るかもしれないんですか?」
「ええ、戦力になりそうな魔術師が選ばれるはずです」
それを聞いて、いよいよ他人事ではないと思った。
いざとなれば、村川の装置で日本へ帰ることもできる。
しかし、世話になっておいて、それではさようならというのは薄情がすぎる。
そこで会話は途切れて、パカラ、パカラと蹄が立てる音に意識が向いた。
馬が歩くペースはそれなりに早く、進み具合は順調だった。
御者台に座るトマスにも会話は聞こえたはずだが、彼は何もいわなかった。
俺の目にはその様子が運び役に徹しているように映った。
彼だって商売をする上で、フォンスとウィリデは切り離せない存在のはずだ。
ただ、行商人という立場からつかず離れずを決めこんでいるように思えた。
先行きの不安からか、俺たちは少しずつ静かになった。
自分から話そうという気にもならなくて、外に見える景色を眺めていた。
起伏が少なく平坦な道が続くこともあり、馬車は順調に進み続けた。
徐々に退屈を覚えた頃、どこかで馬車が止まった。
腕時計を見ると出発から数時間が経過していた。
「ここで一旦休憩だ。馬を休ませたい。あんたらも食事を済ませてくれ」
トマスは淡々とした口調でいった。
「トマス、ありがとう」
「食事? ……ああっ、そこに食堂があるのか」
俺たちは荷台から外に出た。
フォンスから大森林の途中のどこかにいるようで、景色に見覚えがあった。
馬車の近くには行きに通過した記憶のある食堂が建っていた。
少し年季の入ったように見える外観をしている。
「しっかり食べないと護衛もままならないからな。ここはいけると思うぞ」
トマスはそういって馬の手入れを始めた。
「それでは行きましょうか」
エルネスが先んじて食堂のドアを開いた。
それに続いてリサが入り、俺も中に入った。
四角い大きめのテーブルと椅子が等間隔で並び、店全体に使い古したような色合いを感じる。
好意的ないい方をするなら味があるという表現になるだろうか。
今はかき入れ時ではないようで、客は俺たちだけだった。
「いらっしゃい」
全員が席につくと、しわがれた声の中年女性がやってきた。
「ふんふん、三人分だね」
彼女は人数を確認してそのまま店の奥へ行ってしまった。
雰囲気的にそちらの方に厨房があるらしく、料理をしているっぽい音がする。
この世界の食堂でお冷やお品書きは期待しないが、大雑把な印象を受けた。
行商人トマスの操る馬車でウィリデへ戻るところだ。
短時間で城壁を出て、すぐに大森林に至る街道に出た。
行きはひたすら歩いてきたが、自動的に進む馬車は快適そのものだった。
多少の揺れはあるものの、そこまで苦になるほどではない。
この感覚は生まれて始めて車を運転した時に似ている。
自分の足で歩かなくていいし、自転車のようにペダルを漕がなくてもいい。
進行方向に目をやると前方の景色が見えた。
パカラ、パカラと馬の蹄が地面を蹴る音が聞こえる。
一見優雅な旅のように見えてしまうが、実際はそうではなかった。
ウィリデの同盟国フォンスに危機が近づき、エルネスは大金をはたいた。
自分はどうなのかというと大森林に入れば護衛の役割を担う必要がある。
魔術が使える以上、一定の責任が求められることは間違いなかった。
「ねえエルネス、ほんとにカルマンが攻めてくると思う?」
俺が物思いにふけっているとリサが口を開いた。
「滅多にカルマンを出ないドワーフがフォンスに来たということは、おそらく」
「俺はリカルドが嘘を言ってるようには見えませんでしたね」
「僕も同じ印象でした。こんな切迫した状況は初めてで戸惑いました」
珍しくエルネスが弱音を口にした。
「戦争が起きようっていうんだから、そうなりますよね」
「これからどうなるのかしら。ウィリデもカルマンと戦わないといけないとか」
そこまで言葉に出さなかっただけで、二人とも不安を感じているようだった。
かくいう俺はリカルドに協力したいものの、いまいち現実感がなかった。
日本では紛争や世界情勢の報道を目にすることがあるが、海を隔てた遠い国の出来事を自分のことに結びつけられなかった。今回も多少そんな節がある。
考えれば考えるほど、天国から地獄に突き落とされたような感覚を抱いた。
予定では、レギナを散策してのんびり帰るはずだったのに……。
「ウィリデは上級魔術師が複数いるだけでなく、大森林という天然の城壁があるので、すぐに危険が迫るということはないでしょう」
「あそこを突破するのに時間かかりそうですよね」
「ただ、フォンスが応援を要請した場合、援軍を出す必要に迫られるはずです」
エルネスは顔をしかめていった。
俺はウィリデとフォンスの関係について、大まかな知識しかない。
「それじゃあ、エルネスもその中に入るかもしれないんですか?」
「ええ、戦力になりそうな魔術師が選ばれるはずです」
それを聞いて、いよいよ他人事ではないと思った。
いざとなれば、村川の装置で日本へ帰ることもできる。
しかし、世話になっておいて、それではさようならというのは薄情がすぎる。
そこで会話は途切れて、パカラ、パカラと蹄が立てる音に意識が向いた。
馬が歩くペースはそれなりに早く、進み具合は順調だった。
御者台に座るトマスにも会話は聞こえたはずだが、彼は何もいわなかった。
俺の目にはその様子が運び役に徹しているように映った。
彼だって商売をする上で、フォンスとウィリデは切り離せない存在のはずだ。
ただ、行商人という立場からつかず離れずを決めこんでいるように思えた。
先行きの不安からか、俺たちは少しずつ静かになった。
自分から話そうという気にもならなくて、外に見える景色を眺めていた。
起伏が少なく平坦な道が続くこともあり、馬車は順調に進み続けた。
徐々に退屈を覚えた頃、どこかで馬車が止まった。
腕時計を見ると出発から数時間が経過していた。
「ここで一旦休憩だ。馬を休ませたい。あんたらも食事を済ませてくれ」
トマスは淡々とした口調でいった。
「トマス、ありがとう」
「食事? ……ああっ、そこに食堂があるのか」
俺たちは荷台から外に出た。
フォンスから大森林の途中のどこかにいるようで、景色に見覚えがあった。
馬車の近くには行きに通過した記憶のある食堂が建っていた。
少し年季の入ったように見える外観をしている。
「しっかり食べないと護衛もままならないからな。ここはいけると思うぞ」
トマスはそういって馬の手入れを始めた。
「それでは行きましょうか」
エルネスが先んじて食堂のドアを開いた。
それに続いてリサが入り、俺も中に入った。
四角い大きめのテーブルと椅子が等間隔で並び、店全体に使い古したような色合いを感じる。
好意的ないい方をするなら味があるという表現になるだろうか。
今はかき入れ時ではないようで、客は俺たちだけだった。
「いらっしゃい」
全員が席につくと、しわがれた声の中年女性がやってきた。
「ふんふん、三人分だね」
彼女は人数を確認してそのまま店の奥へ行ってしまった。
雰囲気的にそちらの方に厨房があるらしく、料理をしているっぽい音がする。
この世界の食堂でお冷やお品書きは期待しないが、大雑把な印象を受けた。
1
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる