82 / 237
揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

野盗を一蹴 その2

しおりを挟む
三人はコダンを出てから道なりに進んでいた。
 周囲には水田や畑、草むらが広がる光景が続いている。

 フォンス周辺は平野がほとんどで同じような景色が多い。
 郊外ほど、国が整備した水路を使って農業に従事する者が大半を占める。
  
 地方の農民は水路使用料で苦しい生活を強いられることがあり、一度カルマンが攻めてこようものならば、レギナの者たちよりも先に犠牲になる。
 
 クルトはこのことに不条理を感じていた。
 もっとも、一人の騎士にすぎない身ではどうしようもないことも理解していた。

 彼は英雄である父の影を追い続けた結果、フォンスの全てを救わなければいけないという過剰な使命感を負うことがあった。
 それは現実的ではなく、たびたび彼を苛むばかりだった。

 ただ、彼はシモンほどではないにしろ、剣の腕に優れ、フォンスで与えられた任をこなしてきた経験がある。
 彼の父オルドは勇猛にカルマンと戦った人物であったが、クルトは高潔な精神とそれを行動に移す面において優れた騎士といえる。

 クルトとシモンが会話をして、それに時折ヘレナも加わるという状態で歩いていると道の先に数人の男たちが立っていた。

「おい、そこのお前ら! 金目のものは全部置いていけ」

 全員が粗野な身なりで短めの剣を持っている。
 そのうちの一人が剣先を向けて喚いていた。

「……シモン、ここは僕に任せてくれないか」
 
 クルトは少し前からシモンやヘレナを戦わせすぎないようにと考えていた。
 それが影響して、盗賊らしき男たちを一人で撃退しようとしている。

「――ひと言だけ伝えよう、野盗を見逃すことはできない」
「お前、言葉が通じないのか! 金目の物をだせっていってるんだよ!!」

 男は興奮した様子で剣先を揺らした。
 地面を踏み鳴らして、クルトを威嚇するように睨んだ。

「……そうか、残念だ」

 クルトはそれだけ言うと、素早い動作で携えた剣を抜いた。
 正面に踏み出し、剣を下から振り上げる。

 キィーンと金属音がして、男の剣が勢いよく弾かれた。
 クルトはそのまま流れるような動作で足払いをかける。

 得物を失って呆気に取られていた男は簡単に引っかけられた。
 続けてクルトは男の肩に手を乗せると、相手の気の流れを弱めた。

 うつ伏せになっていた男はすぐに動かなくなった。
 クルトは油断することなく剣を構え、後ろに控えていた男たちに向き直った。

「どうする、全員を同じ目に遭わせることも可能だが」
「お、おい、殺されちまったのか!? まずい、逃げるぞ」

 盗賊と思しき男たちは息を合わせるように走り去っていった。
 クルトはそれを見て剣を鞘に収めた。

「ほう、見事な腕前で」
「茶化すのはやめてくれ、君の方が実力は上だ」
「クルトすごい。魔術が使えるの?」

 ヘレナが感心したようにいった。
 クルトはそれを聞いて少し照れくさく思った。

「魔術とはちょっと違うんだ。生まれつきこういうことが得意で」
「へえ、そうなの。この人、死んでないよね?」
「ああっ、そのうち目を覚ますと思う。見回りの時ならどこかで引き渡すこともできるが、今はそんな時間はない」

 クルトは男が持っていた剣を拾い上げた。
 そして、持ち主の鞘を奪ってそこに収めた。

「一人だけでは大したこともできないだろう。コダンはアーラキメラには抵抗できなかったが、自警団があることで野盗は来なかったみたいだ。この男があの町で悪事を働くことはないはずだ」
「ふーん、わたし初めて盗賊を見たかも」

 ヘレナは興味深そうに倒れた盗賊を眺めていた。
 怖がるような素振りは見られない。

「そうか、大森林に盗賊は少ないだろうからな。野盗や盗賊は存在しない方がいいだろうが、彼らも止むに止まれずというところはあるのかもしれない」
「君主みたいなセリフですね」
「シモン、あまりふざけるなよ」
「いえいえ、心からの言葉ですけども」

 シモンは薄い笑みを浮かべて、本心が読み取れない表情をしていた。
 クルトはそれを放っておいて、男を道の脇に移動させた。

「この先も野盗が出るかもしれない。二人とも気をつけてくれ」
「うん、わかった」
「はいはい、わかりました」

 盗賊を撃退したクルトたちは再び歩き出した。
 次の町まではもう少し距離が残っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...