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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―
騎士の誇り その2
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時間を稼がれるほど、消耗の激しいクルトには不利な状況だった。
援軍が見こめるならば、この時間はカルマン兵たちの劣勢につながりかねないはずであるのに、国境近くの戦いとは思えないほど、悠長な構えを見せている。
クルトは意識が朦朧としながらも、時間を稼がれるのは危険だと感じていた。
自ら斬りこんで、己を取り囲む敵に鋭い剣戟を与える。
普段ならば人を斬る時に、いくらかの躊躇いを覚える彼だったが、極限の状況において、そのことに意識を傾ける余裕はなかった。
「ここで死んじゃだめだ! クルト、あんたはこの国の王になるんだ!」
シモンの悲痛な叫びが戦場に響き渡った。
クルトは初めて聞くその内容に耳を疑った。
いつ意識が飛んでもおかしくない彼にとって、それは幻聴のようにすら思えた。
シモンは彼に王になれなどとは、一度も口にしたことはない。
気まぐれにフォンス防衛の手伝いをして、そのうち去っていくだろう。
出会ってすぐの頃、クルトはシモンのことをそんな風に捉えていた。
しかし、行動を共にするにあたって、彼の思いやりや外には出さない芯の強さに好感を抱くようになった。その感情は旧知の友人へのそれによく似ていた。
「――もう少し! もう少しだ!」
「何をそんなに必死になって……」
クルトは言葉を発するのもやっとの状態だった。
まるで糸の切れた人形が闇雲に剣を振るっているように見える。
そんな状態でも敵が攻めきれないのは、彼を踏みとどまらせている気迫であり、来るもの全て斬り倒すと言わんばかりの鋭い眼力だった。
人間が極限状態で出せる力など、そこまで長時間保てるものではない。
ふいにクルトは自らの限界点を察して、いよいよ最期の時が迫るのを感じた。
「……父上、僕は騎士としての役目を全うしました」
「――クルト! ああっ、どけっ!」
シモンは敵の包囲を振りほどこうと、尋常ならざる速度で剣を振るい続けるが、その数はクルトの周りとは比べ物にならず、一人で相手にしていることがにわかに信じがたい人数だった。
限界の到達したクルトは、自ら斬りこむ余力はなく、せめてもの時間稼ぎにと防御の構えを見せた。
先ほどまでの鬼気が影を潜め、隙だらけであることを確認してから、カルマン兵たちは一気に距離を詰めた。
「クルト! クルト!」
フォンスの騎士クルトは、生まれて始めて己の死を意識した。
剣の一振り、一歩の足さばき、何をするのも不可能な状況だった。
もはや万策尽きたかに思えたその時だった。
空中を稲光が走り、彼を取り囲んでいたカルマン兵たちがその場に倒れこんだ。
「……ようやく、来てくれたか」
シモンはクルトの後方を見ながら、ぽつりとこぼした。
そして、彼は怒涛の攻撃で敵を蹴散らしていく。
「エルネス、これはけっこうヤバい状況ですね」
「にわかに信じがたいと思っていましたが、まさかここまでカルマンが攻めてくるとは……。カナタさん、気を引き締めていきましょう」
途切れかけた意識の中で、クルトの耳に聞き慣れない声が届いた。
一人はエルフで、もう一人は戦場には似つかわしくない軽装備で、見慣れない服を身につけている。
「……あとは、君たちに任せた」
クルトは剣を握ったままの状態で、その場に倒れこんだ。
窮地にあることは変わらないはずなのに、やりきった満足感から彼は微笑みを浮かべていた。かろうじて息はあるが、気を失っている。
彼の前方ではシモンが立ち回り、後方では二人の男たちがカルマン兵に向けて、身構えていた。戦闘はまだ継続している。
援軍が見こめるならば、この時間はカルマン兵たちの劣勢につながりかねないはずであるのに、国境近くの戦いとは思えないほど、悠長な構えを見せている。
クルトは意識が朦朧としながらも、時間を稼がれるのは危険だと感じていた。
自ら斬りこんで、己を取り囲む敵に鋭い剣戟を与える。
普段ならば人を斬る時に、いくらかの躊躇いを覚える彼だったが、極限の状況において、そのことに意識を傾ける余裕はなかった。
「ここで死んじゃだめだ! クルト、あんたはこの国の王になるんだ!」
シモンの悲痛な叫びが戦場に響き渡った。
クルトは初めて聞くその内容に耳を疑った。
いつ意識が飛んでもおかしくない彼にとって、それは幻聴のようにすら思えた。
シモンは彼に王になれなどとは、一度も口にしたことはない。
気まぐれにフォンス防衛の手伝いをして、そのうち去っていくだろう。
出会ってすぐの頃、クルトはシモンのことをそんな風に捉えていた。
しかし、行動を共にするにあたって、彼の思いやりや外には出さない芯の強さに好感を抱くようになった。その感情は旧知の友人へのそれによく似ていた。
「――もう少し! もう少しだ!」
「何をそんなに必死になって……」
クルトは言葉を発するのもやっとの状態だった。
まるで糸の切れた人形が闇雲に剣を振るっているように見える。
そんな状態でも敵が攻めきれないのは、彼を踏みとどまらせている気迫であり、来るもの全て斬り倒すと言わんばかりの鋭い眼力だった。
人間が極限状態で出せる力など、そこまで長時間保てるものではない。
ふいにクルトは自らの限界点を察して、いよいよ最期の時が迫るのを感じた。
「……父上、僕は騎士としての役目を全うしました」
「――クルト! ああっ、どけっ!」
シモンは敵の包囲を振りほどこうと、尋常ならざる速度で剣を振るい続けるが、その数はクルトの周りとは比べ物にならず、一人で相手にしていることがにわかに信じがたい人数だった。
限界の到達したクルトは、自ら斬りこむ余力はなく、せめてもの時間稼ぎにと防御の構えを見せた。
先ほどまでの鬼気が影を潜め、隙だらけであることを確認してから、カルマン兵たちは一気に距離を詰めた。
「クルト! クルト!」
フォンスの騎士クルトは、生まれて始めて己の死を意識した。
剣の一振り、一歩の足さばき、何をするのも不可能な状況だった。
もはや万策尽きたかに思えたその時だった。
空中を稲光が走り、彼を取り囲んでいたカルマン兵たちがその場に倒れこんだ。
「……ようやく、来てくれたか」
シモンはクルトの後方を見ながら、ぽつりとこぼした。
そして、彼は怒涛の攻撃で敵を蹴散らしていく。
「エルネス、これはけっこうヤバい状況ですね」
「にわかに信じがたいと思っていましたが、まさかここまでカルマンが攻めてくるとは……。カナタさん、気を引き締めていきましょう」
途切れかけた意識の中で、クルトの耳に聞き慣れない声が届いた。
一人はエルフで、もう一人は戦場には似つかわしくない軽装備で、見慣れない服を身につけている。
「……あとは、君たちに任せた」
クルトは剣を握ったままの状態で、その場に倒れこんだ。
窮地にあることは変わらないはずなのに、やりきった満足感から彼は微笑みを浮かべていた。かろうじて息はあるが、気を失っている。
彼の前方ではシモンが立ち回り、後方では二人の男たちがカルマン兵に向けて、身構えていた。戦闘はまだ継続している。
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