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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―
美男子にドキドキ
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俺はリサと別れてから、エルネスに会うために城の近くまで歩いてきた。
報告にどれぐらい時間がかかるか分からないので、城門周辺にある石垣に腰かけて待つことにした。
俺の記憶が正確なら、城の周りでは人の出入りが少ないはずだった。
ただ、今では有事が迫ることもあって、慌ただしくやってくる人影が目に入る。
「やあ、カナタくん、元気そうだね」
誰かに声をかけられた。
すぐには声の主が分からなかったものの、顔を見たら魔術医のクラウスだった。
それなりに忙しいはずだが、涼しげな美貌は保たれている。
彼が同性なのにもかかわらず、胸のあたりでドキドキするような感覚がした。
「前にうちで治療して以来かな」
「はい、久しぶりですね」
感情の動きを悟られないように落ち着いた態度で答えた。
同性の相手に動揺するというのは、なんだか恥ずかしかった。
「まさか、上級魔術師にまでなるとは思ってなかったよ。素質はあると思ったけれど、そこまでは見抜けなかった」
「エルネスの指導がいいおかげですよ」
「へえ、まだ弟子を取りはじめて間もないのに、彼もなかなかやるね」
俺とクラウスは他愛もない話で談笑した。
すると、彼がふいにじっと見つめてきた。
「気にしすぎかもしれないけれど、魔術医としては魔術の連続使用があるなら、マナ焼けが起きてないか心配なんだ」
「なるほど、魔術はけっこう使ってますけど、体調はばっちりですよ」
「それならいいけれど、ちょっとマナの状態を調べてもいい?」
「……はい」
クラウスに促されて、右手を差し出した。
彼は特にためらう様子もなく、その手に両手を重ねた。
「うーん、だいぶ駆け足で成長したんだね」
クラウスは感心した様子でいった。
俺は手を触られて緊張しているのを顔に出さないようにしていた。
彼は顔立ちが中性的だが、肌も同性とは思えないほど、きめ細かく白かった。
少し冷たいその指先が触れるたびに何ともいえない気持ちになる。
俺は何事もない顔をするので必死だった。
「身体を流れるマナの量が他の上級魔術師と大差ないから、どんどん魔術を使っても問題ないよ。魔術は使えば使うほど許容限界が上がるとはいえ、ここまで成長するとはね」
美青年クラウスにほめられて嬉しくないわけがない。
それに、俺の成長を歓迎してくれているのも気分がよかった。
「私も魔術部隊に召集されているけれど、城の防衛と救護が役目なんだよね。カナタくんは偵察に行った経験があるから、フォンスの援軍になるんじゃないかな」
「ホントですか? 戦いを現地で見てきましたけど、正直、実戦は怖いですよ」
俺は国境付近の戦いを思い出していた。
あの時いたシモンのような味方ばかりではないと思うと、自分の身は自分で守らなければいけないという緊張感がある。
「大丈夫、今のカナタくんなら魔術を駆使すれば死ぬことはないよ」
「うっ、そうですか……。危険なことには変わりないですよね」
「フォンスの人たちもさすがに差し迫ってくれば、自国の兵を動かすだろうから、すぐに前線には出なくていいと思うよ」
クラウスは気休めのようなことをいった。
彼のいうように、初めに戦うのはフォンスの兵士になるのだろうか。
クルトが気にかけていた内通者の件がよぎったが、ここで話しても不要な混乱を招くだけなので口にするのは控えておいた。
「それじゃあ、私は城内に用事があるから」
「はい、それではまた」
クラウスは涼しげな微笑みを浮かべて去っていった。
何となく寂しい気が……いや、たぶん気のせいだろう。
同じ場所に座っていると、エルネスが彼と入れ替わるタイミングでやってきた。
エルネスが出てきたということは偵察の報告が完了したはずだ。
「カナタさん、待っていてくれたんですか?」
「ええ、まあ。報告はどんな感じです?」
「大臣に話をしてきたのですが、僕とカナタさんはカルマン兵と対峙した経験があるので、フォンスへの援軍に選ばれる可能性が高いと説明がありました」
エルネスは複雑な表情をしていた。
援軍に選ばれれば活躍できる一方で、危険が伴うという側面がある。
「……援軍ですか。気は進まないところはありますけど、自分が戦力になるのなら貢献したい気持ちもあります。ウィリデの人たちにはお世話になっているので」
「そういって頂けると、皆よろこぶと思います」
エルネスは優しげな表情でいった。
彼の優しさは相手に安心感を与えるものだと思う。
「それから、フォンスが援軍の申し出を拒んだらしいのですが、こちらの戦力を配置せざるをえない状況なので、僕とカナタさんが先行して調べに行ってほしいと指示がありました」
「援軍より先にフォンスまで行くっていうことですか」
「はい、そうです」
エルネスは力強く頷いた。
「時間が限られる状況ですが、活動が連日に及んでいるので、今日は休養を優先させるようにとも聞かされました」
「たしかに忙しかったですね。それで、明日には出た方がいいですか?」
「ええ、明日の朝にはウィリデを出て、レギナにある水の宮殿へ向かいます」
「そうか、クルト会うことになるかもしれませんね」
俺は彼が内通者を調べるという件が心に引っかかっていた。
シモンが一緒ならば無事だと思うが、内乱に巻きこまれていないことを願う。
「援軍を断るというのは違和感があるので、クルトが話していた内通者の話は信憑性が増したと思います」
「俺は戦いについては全くの素人なんですけど、フォンスの防衛線を弱らせておいて、カルマンに攻めこませるつもりなのかもしれませんね」
あの二人のことは気がかりなものの、連日の行動でそれなりに疲れている。
エルネスはそういった素振りを見せない性格だが、疲れていないはずがなかった。
俺たちは翌日のことについて話してから解散した。
明日は、再びフォンスへ行かなければならない。
報告にどれぐらい時間がかかるか分からないので、城門周辺にある石垣に腰かけて待つことにした。
俺の記憶が正確なら、城の周りでは人の出入りが少ないはずだった。
ただ、今では有事が迫ることもあって、慌ただしくやってくる人影が目に入る。
「やあ、カナタくん、元気そうだね」
誰かに声をかけられた。
すぐには声の主が分からなかったものの、顔を見たら魔術医のクラウスだった。
それなりに忙しいはずだが、涼しげな美貌は保たれている。
彼が同性なのにもかかわらず、胸のあたりでドキドキするような感覚がした。
「前にうちで治療して以来かな」
「はい、久しぶりですね」
感情の動きを悟られないように落ち着いた態度で答えた。
同性の相手に動揺するというのは、なんだか恥ずかしかった。
「まさか、上級魔術師にまでなるとは思ってなかったよ。素質はあると思ったけれど、そこまでは見抜けなかった」
「エルネスの指導がいいおかげですよ」
「へえ、まだ弟子を取りはじめて間もないのに、彼もなかなかやるね」
俺とクラウスは他愛もない話で談笑した。
すると、彼がふいにじっと見つめてきた。
「気にしすぎかもしれないけれど、魔術医としては魔術の連続使用があるなら、マナ焼けが起きてないか心配なんだ」
「なるほど、魔術はけっこう使ってますけど、体調はばっちりですよ」
「それならいいけれど、ちょっとマナの状態を調べてもいい?」
「……はい」
クラウスに促されて、右手を差し出した。
彼は特にためらう様子もなく、その手に両手を重ねた。
「うーん、だいぶ駆け足で成長したんだね」
クラウスは感心した様子でいった。
俺は手を触られて緊張しているのを顔に出さないようにしていた。
彼は顔立ちが中性的だが、肌も同性とは思えないほど、きめ細かく白かった。
少し冷たいその指先が触れるたびに何ともいえない気持ちになる。
俺は何事もない顔をするので必死だった。
「身体を流れるマナの量が他の上級魔術師と大差ないから、どんどん魔術を使っても問題ないよ。魔術は使えば使うほど許容限界が上がるとはいえ、ここまで成長するとはね」
美青年クラウスにほめられて嬉しくないわけがない。
それに、俺の成長を歓迎してくれているのも気分がよかった。
「私も魔術部隊に召集されているけれど、城の防衛と救護が役目なんだよね。カナタくんは偵察に行った経験があるから、フォンスの援軍になるんじゃないかな」
「ホントですか? 戦いを現地で見てきましたけど、正直、実戦は怖いですよ」
俺は国境付近の戦いを思い出していた。
あの時いたシモンのような味方ばかりではないと思うと、自分の身は自分で守らなければいけないという緊張感がある。
「大丈夫、今のカナタくんなら魔術を駆使すれば死ぬことはないよ」
「うっ、そうですか……。危険なことには変わりないですよね」
「フォンスの人たちもさすがに差し迫ってくれば、自国の兵を動かすだろうから、すぐに前線には出なくていいと思うよ」
クラウスは気休めのようなことをいった。
彼のいうように、初めに戦うのはフォンスの兵士になるのだろうか。
クルトが気にかけていた内通者の件がよぎったが、ここで話しても不要な混乱を招くだけなので口にするのは控えておいた。
「それじゃあ、私は城内に用事があるから」
「はい、それではまた」
クラウスは涼しげな微笑みを浮かべて去っていった。
何となく寂しい気が……いや、たぶん気のせいだろう。
同じ場所に座っていると、エルネスが彼と入れ替わるタイミングでやってきた。
エルネスが出てきたということは偵察の報告が完了したはずだ。
「カナタさん、待っていてくれたんですか?」
「ええ、まあ。報告はどんな感じです?」
「大臣に話をしてきたのですが、僕とカナタさんはカルマン兵と対峙した経験があるので、フォンスへの援軍に選ばれる可能性が高いと説明がありました」
エルネスは複雑な表情をしていた。
援軍に選ばれれば活躍できる一方で、危険が伴うという側面がある。
「……援軍ですか。気は進まないところはありますけど、自分が戦力になるのなら貢献したい気持ちもあります。ウィリデの人たちにはお世話になっているので」
「そういって頂けると、皆よろこぶと思います」
エルネスは優しげな表情でいった。
彼の優しさは相手に安心感を与えるものだと思う。
「それから、フォンスが援軍の申し出を拒んだらしいのですが、こちらの戦力を配置せざるをえない状況なので、僕とカナタさんが先行して調べに行ってほしいと指示がありました」
「援軍より先にフォンスまで行くっていうことですか」
「はい、そうです」
エルネスは力強く頷いた。
「時間が限られる状況ですが、活動が連日に及んでいるので、今日は休養を優先させるようにとも聞かされました」
「たしかに忙しかったですね。それで、明日には出た方がいいですか?」
「ええ、明日の朝にはウィリデを出て、レギナにある水の宮殿へ向かいます」
「そうか、クルト会うことになるかもしれませんね」
俺は彼が内通者を調べるという件が心に引っかかっていた。
シモンが一緒ならば無事だと思うが、内乱に巻きこまれていないことを願う。
「援軍を断るというのは違和感があるので、クルトが話していた内通者の話は信憑性が増したと思います」
「俺は戦いについては全くの素人なんですけど、フォンスの防衛線を弱らせておいて、カルマンに攻めこませるつもりなのかもしれませんね」
あの二人のことは気がかりなものの、連日の行動でそれなりに疲れている。
エルネスはそういった素振りを見せない性格だが、疲れていないはずがなかった。
俺たちは翌日のことについて話してから解散した。
明日は、再びフォンスへ行かなければならない。
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