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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

騎士からの伝言

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 日本にいた頃、昔どこかで「戦わずして勝つ」という言葉を聞いたことがある。
 
 たしか、相手を打ち倒すよりも降伏させる方が良策という意味だったような。
 必要ない殺戮は控えるべきだし、無駄な犠牲は出すべきではないと思う。
 
 初めて聞いた時は理解できたものの、いざ実戦の場に向かっていると実用困難な感じがしてしまう。
 特にカルマンのような好戦的な国に対して用いるのはむずかしい。
 
 俺は移動中の馬上でそんなことを思った。
 天気は良好で馬を走らせるのに適した天候だった。

 澄んだ空気を浴びながら、ウィリデから大森林への街道を進んでいる。
 エルネスが先頭を走り、そのやや後ろに俺がいて、そのまた後ろにクリスタとヘルマンが並走する陣形で移動していた。

 大森林まではそう長い距離ではないので、すぐに森へ入ることになるだろう。

 それから、馬を走らせるうちに森の入り口が見えた。
 最初は緊張したものの、今では慣れもあってそこまで身構えることはない。
 
 後ろの二人の調子ははどうかと思ったが、特にためらう様子もなくついてきた。
 
 ゆっくり進んでいられるほど余裕がなかったので、いつもと同じように速いペースで馬を走らせた。

 道の上に落ち葉や小枝が落ちているため、馬の制御がむずかしい場面がある。
 しかし、クリスタとヘルマンは何事もなく進んでいた。

 一度だけ気にかかって振り向いてみたが、何の問題もなさそうだったので、自分の馬に集中することにした。
 さすがに乗馬経験者だけあって、馬の扱いは得意みたいだ。

 二人で移動した時に肉食獣が襲いかかってくることはなかったが、今回は四人で隊列を組んで移動しているのでほとんど隙がない。

 速度もそれなりに出ているので、後追いで襲撃される可能性も低いはずだ。
 仮に何らかのアクシデントがあったとしても、クリスタとヘルマンなら上手く回避できそうな気がした。

 何度か通過しているせいか、移動時間が過ぎるのが早く感じられる。
 木々の隙間を突き抜けるように馬が走っていく。

 集中力を切らすことはなかったが、気がつくといつの間にか出口が見えていた。
 速度を落とさずに通り過ぎて、フォンス側に到着した。

 それから、俺たちはそのまま移動を続けた。 
 街道を進んでいると、フォンスの農夫と何度かすれ違った。

「一度、休憩にしましょう」

 道沿いの休めそうな場所に差しかかったところでエルネスが提案した。
 俺と他の二人がそれに同意して、通行の邪魔にならないところに馬を停めた。

「カナタちゃんもエルネスちゃんも乗馬が上手ね」
「つい最近、覚えたばかりとは思えませんな」

 クリスタとヘルマンが口々に俺たちをほめた。

「馬が乗りやすいからだと思います」
「僕もカナタさんと同じ意見です。乗馬というよりもまだまだ馬に運んでもらっているという感覚が強いですから」

 エルネスの言葉に反応して、馬が喜ぶように短く鳴いた。
 俺も彼と同じようなもので、とても上手く扱えているとは言いがたい。

「ねえ、エルネスちゃん。詳しいことは聞いてないけれど、カナタちゃんは戦力になりそうなの?」
「それについては問題ありません。氷魔術と雷魔術を使いこなせるほどに成長しているので、クリスタの足を引っ張るようなことはないでしょう」
「ほう、氷と雷の二種類を。こちらにきてからそこまで長い時間は経ってないでしょうに。それほどまでの実力をつけられたのならば天性の資質か、非凡な努力か、はたまた両方か」

 エルネス、クリスタ、ヘルマンは俺のことを話題にしていた。
 悪い内容ではないものの、目の前でされると何だか恥ずかしい。

「では、もう少し休んだら出発しましょう」

 それから少しして、俺たちは再び出発した。 

 大森林さえ抜けてしまえば、あとは平坦な道のりが続く。
 乗馬の集中力がそこまで必要とされないだけ、精神的に楽だった。

 フォンスの街道を進み続けると、やがてレギナに到着した。
 いつも通り、巨大な城壁が目に飛びこんでくる。

 この先は、城壁から街中に進んで反対側の城壁から出るという進み方をする。
 四人で城壁へ近づいた時、エルネスが近くにいた衛兵に話しかけた。

「騎士クルトの部隊はフォンスを発ちましたか?」
「……失礼ですが、もしやウィリデの方々ですか?」
「ええ、そうです」
「クルト様から、『ウィリデの援軍が来たら言伝を頼む』と伺っております。それで、クルト様たちは馬車と馬を使って、昨日のうちに前線へ向かわれました。馬の速さからしてまだ国内にはおられるかと」

 衛兵の説明は分かりやすかった。
 クルトたちは俺やエルネスと会った後、兵力を集めて前線へ向かったのだろう。

 当初、想定していた通りにマナ強化された馬でなければ追いつけない状況になったということになる。
 もっとも、クルトなら援軍の有無にこだわらずに進軍していたはずだ。

「ありがとうございました。それでは、僕たちも前線へ向かいます」
「同盟国とはいえ、援軍に来て頂いて感謝しております。どうかご武運を」

 俺たちは城壁を通過してレギナの街を進んだ。 

 内通者の件を知っていたこともあって、先ほどの衛兵が丁寧な態度で驚いた。
 全員が全員悪いやつというわけでもないということか。

 レギナの街中はウィリデの比にならないほど、人通りが多かった。
 通行人にぶつからないように気をつけながらゆっくりと足を運んだ。
 
 ウィリデなら、可愛らしい馬ですねと声をかけられたりもするが、ここでは不躾な視線を向けてくる人もいる。
 あまり気分がいいものではないものの、相手にする気はなかった。

 やがて、人通りが少なくなると、反対側の城壁が見えてきた。

 俺は一人胸をなで下ろして、さらに前へと進んだ。
 他の三人も人混みが得意ではないようで、少しお疲れな気がした。
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