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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―
マイペースな人たち
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ウィリデからきた俺たち四人はそれぞれの馬に乗り、クルトたちはシモンだけが一人で馬に乗り、それ以外は馬車で移動を始めることになった。
この先に国境近くの町があり、そこを拠点にするという話だった。
戦いがあった町を離れて街道を進む。
日が傾き始めたので、移動しているうちに夕方になるだろう。
朝にウィリデを出発してずいぶん遠くまできた感じがする。
短い時間でここまで移動できるのは馬のおかげだった。
俺は感謝の意味をこめて馬の横っ面を撫でた。
すると、もっと撫でてくれと言わんばかりに顔をこすりつけてきた。
「かわいいなあ。馬は金持ちが乗るものだから、なかなか飼えないんだよ」
この馬が日本の経済事情を知るはずもないが、何となく話しかけてみた。
そんなことをしてみたくなるぐらいには、愛着が湧いている。
クルトの提案で密集した隊列だと、取り囲まれる危険があるので、それを避けるために大きく広がった並びで移動していた。そのため、俺の独り言は誰にも聞かれていないはずだ。
特に仲間たちと会話もないまま、次の町に到着した。
「……あれ?」
先頭を行くシモンが制止しろという合図を手で送っている。
何事かと思っていると、状況を察したフォンスの兵士たちが馬車を下りてきた。
シモンに従ってその場にとどまっていると、兵士の一人が駆け足でやってきた。
「魔術師の方々はここでお待ち下さい。シモン殿がカルマン兵が潜んでいると」
「……はい、わかりました」
さすが軍人と称えたくなるような駆け足で、彼は俺たち四人に伝達をした。
「市街地に相手が潜む状況では、魔術師は不利だと考慮してくれたのでしょう」
エルネスが馬に乗ったまま近づいていた。
彼の視線は町の方に向いている。
「いきなり斬られたら、発動の間にやられちゃいますよね」
「剣術や武術を身につけられたらいいのですが、魔術と並行するには時間が足りません」
エルネスほどの筋力があれば、どちらも習得可能だと思うが、「一通り覚えること」と「実戦で使えること」の間には大きな差があるとも感じる。
そして、それは戦いに限ったことではないような気がする。
「シモンは腕が立つ上に読みが鋭いので、今は彼に任せましょう」
「はい、そうですね」
俺たちは街道に残ったまま、掃討作戦が終わるのを待った。
それからしばらくして、先ほどと同じ兵士が伝達にきた。
シモンの活躍で味方は無傷のまま、潜伏した敵を全滅させたという話だった。
こちらはこちらで周囲の警戒をしていたが、目立つ異常はなかった。
気の抜けたクリスタが何度かあくびをするぐらいのんびりしていた。
「一日に二度も死んだ人間を見せられるのはイヤですね」
「ご安心ください。数が少ないのですでに埋めてあります」
「えっ、仕事早っ」
兵士の話に思わず反応してしまった。
時間にして数十分ほどの間に殲滅と後処理の両方をこなしたとは。
「皆さん、精鋭なんじゃないですか」
「いえいえ、滅相もございません。クルトやシモン殿に比べたら」
彼は照れ笑いを浮かべている。
本人たちに伝えることはないが、クルトの話を聞いた限りでは、自国を守る意思のない典型的なダメ兵士たちというイメージを持っていた。
しかし、目の前にいる兵士は、真面目そうな好青年にしか見えない。
これ以上は特に話題がなかったので、彼との会話を適当に切り上げた。
町の外で待機していた俺たちは、入り口の近くに馬を停めて町に入った。
一つ前の町と似たような雰囲気の場所だった。
都市部に比べて民家と民家の間が離れており、商店や宿屋の数が少ない。
カルマン兵は破壊行為を行わないようで、建物の欠損は見られなかった。
推測だが、侵攻後の利用目的でそうしているにすぎないのかもしれない。
さすがにこの状況で住民は見当たらず、避難は済んでいるようだった。
「カナタ、今晩はこの町に滞在する」
俺が町の様子を見ていると、クルトが話しかけてきた。
「はい、わかりました。宿屋はやってないと思うんですけど、どこで寝ればいいですか?」
「ウィリデの四人は宿屋を使ってくれ。僕は夜番をするつもりで、フォンスの者たちは馬車で休んでもらう」
そう言い終えると、クルトは宿屋の方向を指さした。
「ありがとうございます」
「応援に来てもらっておいて寝るなと言うつもりはないが、夜襲の可能性はゼロではないから寝る時は注意してほしい」
「……わかりました」
彼は踵を返してどこかに歩いていった。
背筋が伸びて、気品のある姿勢をしていた。
それにしても、夜襲があると釘を刺されると、おちおち眠ってもらいられないと思ってしまった。戦場真っ只中では当たり前であるというのも理解できるが。
クルトやシモンはどうなのか分からないが、俺はまだカルマン側の動向に詳しくないので、何をどう警戒していいのか分からないところがあった。
悩んでいても仕方がないので、エルネスたちのところに行くことにした。
彼やクリスタ、ヘルマンは町中の広場みたいなところに集まっていた。
開けた場所に木製の椅子がいくつか並んでいる。
彼らはそこに腰かけて話していた。
「エルネス、今晩の宿のこと聞きましたか?」
「ええ、クルトから説明がありました」
「夜襲に気をつけろって言ってましたね」
「そのようですね。クルトやシモンが夜番をしてくれるみたいなので、そこまで警戒しなくてもいいような気もしますが」
たしかに彼の言うことは一理ある。
超人めいたシモンの包囲網をかいくぐる敵がいるのだろうか。
「わたしは寝る~」
「お二人とも、クリスタは早寝早起きが健康の秘訣らしいですよ」
クリスタがマイペースな物言いをした後、ヘルマンが謎の解説をはさんだ。
この二人は緊張感がなさすぎて羨ましい。
「俺も寝る~と言いたいところですが、夜襲のことを考えたら熟睡できません」
「それなら、大森林で野営した時のように交代で見張りをしましょう」
エルネスの提案に俺は頷いた。しかし、他二人は反応が鈍い。
「わたしはヤダ~」
「私も睡眠時間が八時間はないとダメでして……」
クリスタはともかく、ヘルマンもずいぶんマイペースだった。
それでも、エルネスは表情を変えなかった。
「では、僕とカナタさんの二人でいきます」
「……はい、そうしましょう」
戦力的にクリスタたちは貴重な人材なので、渋々承知することにした。
それから、俺たちは四人で泊まる予定の宿に移動した。
この先に国境近くの町があり、そこを拠点にするという話だった。
戦いがあった町を離れて街道を進む。
日が傾き始めたので、移動しているうちに夕方になるだろう。
朝にウィリデを出発してずいぶん遠くまできた感じがする。
短い時間でここまで移動できるのは馬のおかげだった。
俺は感謝の意味をこめて馬の横っ面を撫でた。
すると、もっと撫でてくれと言わんばかりに顔をこすりつけてきた。
「かわいいなあ。馬は金持ちが乗るものだから、なかなか飼えないんだよ」
この馬が日本の経済事情を知るはずもないが、何となく話しかけてみた。
そんなことをしてみたくなるぐらいには、愛着が湧いている。
クルトの提案で密集した隊列だと、取り囲まれる危険があるので、それを避けるために大きく広がった並びで移動していた。そのため、俺の独り言は誰にも聞かれていないはずだ。
特に仲間たちと会話もないまま、次の町に到着した。
「……あれ?」
先頭を行くシモンが制止しろという合図を手で送っている。
何事かと思っていると、状況を察したフォンスの兵士たちが馬車を下りてきた。
シモンに従ってその場にとどまっていると、兵士の一人が駆け足でやってきた。
「魔術師の方々はここでお待ち下さい。シモン殿がカルマン兵が潜んでいると」
「……はい、わかりました」
さすが軍人と称えたくなるような駆け足で、彼は俺たち四人に伝達をした。
「市街地に相手が潜む状況では、魔術師は不利だと考慮してくれたのでしょう」
エルネスが馬に乗ったまま近づいていた。
彼の視線は町の方に向いている。
「いきなり斬られたら、発動の間にやられちゃいますよね」
「剣術や武術を身につけられたらいいのですが、魔術と並行するには時間が足りません」
エルネスほどの筋力があれば、どちらも習得可能だと思うが、「一通り覚えること」と「実戦で使えること」の間には大きな差があるとも感じる。
そして、それは戦いに限ったことではないような気がする。
「シモンは腕が立つ上に読みが鋭いので、今は彼に任せましょう」
「はい、そうですね」
俺たちは街道に残ったまま、掃討作戦が終わるのを待った。
それからしばらくして、先ほどと同じ兵士が伝達にきた。
シモンの活躍で味方は無傷のまま、潜伏した敵を全滅させたという話だった。
こちらはこちらで周囲の警戒をしていたが、目立つ異常はなかった。
気の抜けたクリスタが何度かあくびをするぐらいのんびりしていた。
「一日に二度も死んだ人間を見せられるのはイヤですね」
「ご安心ください。数が少ないのですでに埋めてあります」
「えっ、仕事早っ」
兵士の話に思わず反応してしまった。
時間にして数十分ほどの間に殲滅と後処理の両方をこなしたとは。
「皆さん、精鋭なんじゃないですか」
「いえいえ、滅相もございません。クルトやシモン殿に比べたら」
彼は照れ笑いを浮かべている。
本人たちに伝えることはないが、クルトの話を聞いた限りでは、自国を守る意思のない典型的なダメ兵士たちというイメージを持っていた。
しかし、目の前にいる兵士は、真面目そうな好青年にしか見えない。
これ以上は特に話題がなかったので、彼との会話を適当に切り上げた。
町の外で待機していた俺たちは、入り口の近くに馬を停めて町に入った。
一つ前の町と似たような雰囲気の場所だった。
都市部に比べて民家と民家の間が離れており、商店や宿屋の数が少ない。
カルマン兵は破壊行為を行わないようで、建物の欠損は見られなかった。
推測だが、侵攻後の利用目的でそうしているにすぎないのかもしれない。
さすがにこの状況で住民は見当たらず、避難は済んでいるようだった。
「カナタ、今晩はこの町に滞在する」
俺が町の様子を見ていると、クルトが話しかけてきた。
「はい、わかりました。宿屋はやってないと思うんですけど、どこで寝ればいいですか?」
「ウィリデの四人は宿屋を使ってくれ。僕は夜番をするつもりで、フォンスの者たちは馬車で休んでもらう」
そう言い終えると、クルトは宿屋の方向を指さした。
「ありがとうございます」
「応援に来てもらっておいて寝るなと言うつもりはないが、夜襲の可能性はゼロではないから寝る時は注意してほしい」
「……わかりました」
彼は踵を返してどこかに歩いていった。
背筋が伸びて、気品のある姿勢をしていた。
それにしても、夜襲があると釘を刺されると、おちおち眠ってもらいられないと思ってしまった。戦場真っ只中では当たり前であるというのも理解できるが。
クルトやシモンはどうなのか分からないが、俺はまだカルマン側の動向に詳しくないので、何をどう警戒していいのか分からないところがあった。
悩んでいても仕方がないので、エルネスたちのところに行くことにした。
彼やクリスタ、ヘルマンは町中の広場みたいなところに集まっていた。
開けた場所に木製の椅子がいくつか並んでいる。
彼らはそこに腰かけて話していた。
「エルネス、今晩の宿のこと聞きましたか?」
「ええ、クルトから説明がありました」
「夜襲に気をつけろって言ってましたね」
「そのようですね。クルトやシモンが夜番をしてくれるみたいなので、そこまで警戒しなくてもいいような気もしますが」
たしかに彼の言うことは一理ある。
超人めいたシモンの包囲網をかいくぐる敵がいるのだろうか。
「わたしは寝る~」
「お二人とも、クリスタは早寝早起きが健康の秘訣らしいですよ」
クリスタがマイペースな物言いをした後、ヘルマンが謎の解説をはさんだ。
この二人は緊張感がなさすぎて羨ましい。
「俺も寝る~と言いたいところですが、夜襲のことを考えたら熟睡できません」
「それなら、大森林で野営した時のように交代で見張りをしましょう」
エルネスの提案に俺は頷いた。しかし、他二人は反応が鈍い。
「わたしはヤダ~」
「私も睡眠時間が八時間はないとダメでして……」
クリスタはともかく、ヘルマンもずいぶんマイペースだった。
それでも、エルネスは表情を変えなかった。
「では、僕とカナタさんの二人でいきます」
「……はい、そうしましょう」
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それから、俺たちは四人で泊まる予定の宿に移動した。
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