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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

エルフの皆さんは豪邸をご所望です

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 シモンが援軍にやってきた一団と話しているので、様子を見に行くことにした。

 エルフの少女が一人、人間の女性が一人……他にもエルフの男女が数名。
 こんなにまとまってエルフがいるのを初めて目にした。

「カナタ、ウィリデの人たちは彼らと初対面だと思うので、仲間を紹介します」
「はい、わかりました」
「手前にいる女性がアデリナ。彼女は元々クルトの仲間です。それから、向こうの……エルフの女の子がヘレナ。彼女はおれと同じ時期にクルトと行動を共にするようになりました」
「クルトの仲間が多いんですね」
「それと、同じ服装のエルフの人たちはヘレナが連れてきてくれた、森の魔術師たちみたいです」

 シモンはエルフの美人が苦手だと話していたので、エルフ比率高めな状況は大丈夫なのか少し気がかりだった。
 それはさておき、戦力が増えたことは歓迎できると思った。

 俺は彼らと簡単な挨拶をかわして、その場を離れた。
 先ほどの戦いは終結したように思えたが、現状を確認しておきたかった。

 少し前まで激戦を繰り広げていた場所は、町の中心を離れたところにある。
 中心といっても大きな町ではないので、徒歩ですぐに着いてしまう。

 好んで見たい場所ではないものの、自分が仲間と必死に守った場所をもう一度見ておきたい気持ちがあった。
 実感、やりがい、手応えを感じたいというありきたりな感情も含まれていた。
 
 再び戻ってくると、大勢のカルマン兵が倒れているのが目に入った。
 
 氷魔術を受けた者は氷漬けになっていて、やがて解けるとしても酸素不足や体温低下で生きている可能性は低いだろう。
 その他には、斬り倒された兵士たちがそこら中に横たわっていた。

 感覚が麻痺したわけではないものの、慣れを感じる部分はある。
 初めて戦死体を見た時は正視することができなかった。

 しかし、今ではそこまで意識しなくても大丈夫だった。

 防衛地点の確認が済むと、肩の荷が下りたような気持ちになった。 
 戦後処理の手伝いをさせられるのは気が重いが、今考えても仕方がない。

 「戦地にいる自分」というものに現実感を持てないまま、その場を後にした。
 
 俺は町の中に戻ってから、気分転換に歩くことにした。
 戦いの余韻が残ったままで、横になって休もうという気にはならなかった。それに布団に入るにはまだ太陽が高すぎる。

 今回も幸いと言ってよいのか、建物の損壊はほとんどなかった。
 カルマン兵が狙わなかったというより、皆が必死で守ったからだろう。

 そんなふうに考えていると、町を守れたことを誇りに思えてきた。
 細かいことは分からないが、誰かのために戦うというのはこういうことなのかもしれない。

 俺は少しだけクルトの気持ちが分かったような気がした。
 ほんの一瞬、彼の様子を見に行こうと思ったが、安静が必要だと聞いたばかりなので、それはやめておくことにした。

 目的もなく町を歩いていると、クリスタやディアナ、エルフのグループがまとまっているのが目に入った。
 アデリナという女性は魔女と呼ばれていたので近づきがたいが、他のエルフの人たちとは話してみたい気がした。

 俺は集団に近づいてみた。

「クリスタ、エルフの人たちは知り合いなんですか?」
「カナタちゃん、わたしは途中まで森で育ったから、だいたい知ってるのよ」
「へえ、ウィリデにいるから街育ちかと思ってました」
「基本的に、森育ちのエルフの方が強力な魔術を使えるんだよ。みんな、用事がないから都会に出てこないだけで」

 クリスタの言葉になるほどと納得する部分があった。
 おそらく、エルネスとクリスタに実力が差があるのは、育った環境の違いがあるのかもしれない。

「あら、さっきの男子じゃない。人間にしては、なかなかいい線いってるわね」
「な、なんですか!?」

 二人で話していると、ディアナが近づいてきて手を握ってきた。
 彼女は保有するマナの量が膨大なようで、触れられただけで目まいを起こしそうになった。

 先ほどは戦闘中でよく見ていなかったが、見た目の年齢は二十代前半か半ばぐらいで、おかしな物腰がなければ素直に美人と評したくなるような容姿をしている。
 エルフは全体的に金髪率が高いのに対して、彼女は白銀の髪だった。

「そんなに私のことに興味があるの?」
「……いえ、そんなことは。魔術の威力がすごいなとは思いましたけど」
「人間とエルフなら、エルフの方が魔術に特化してるから仕方がないわよ」
「たしか、元々はエルフの技術ですもんね」

 ディアナと上手くコミュニケーションが取れていないような気がする。
 彼女の独特のノリが影響して、押され気味だった。

「――あの、ウィリデに豪邸はありますか?」

 氷の魔女に圧倒されていると、控えめな少女が話しかけてきた。
 たしか、ヘレナという名前だったような。

「……豪邸? どうですかね、ウィリデは平屋か二階建てが多いし、シンプルな作りの建物が多いと思いますよ」
「そうですか、それは残念です」
「……差し支えなければ、理由を教えてもらってもいいですか?」

 こんなおとなしそうな少女が豪邸と口にすることにギャップを感じていた。
 一体、何が彼女をそうさせるのだろう。

「わたしは今回の報酬で、フォンスの豪邸をクルトからもらう予定だけど、フォンスの人に聞いたらそんなにたくさん上げられる家はないって。森からきた人たちも豪邸がもらえるって説明して来てもらったから」

 どうやら、森のエルフの皆さんは豪邸をご所望のようだ。
 エルネスやリサを見る限り、どちらかというと質素倹約な人が多いと感じていたが、森で暮らしているエルフたちは違うのだろうか。

「ええと、あなたはカナタ……だった?」
「はい、そうです」
「私は森からきたイレーネ。私たちはもともと街に憧れがあって、ヘレナから教えてもらった豪邸に心惹かれたの。森の住居は横並びに同じようなものが多いから、大きくて立派で個性がある家に住めるなんて最高だと思った。この際、フォンスじゃなくてウィリデでもいいからどうにかしてもらえる?」

 おそらく、俺はそれを聞くのに適任ではないと思ったが、一通り聞いておいた。
 エルネスに頼んでも、豪邸の少なそうなウィリデでは結果が同じだと思う。

「関係各所に話をして、前向きに検討します」
「うん、前向きにっていい響き。いい結果を期待してるから」

 相談者イレーネさんに納得してもらったので、俺はその場を後にした。
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