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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―
地下通路と追撃
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地下に撤退してからいくらか時間が経過していた。
メリルと休んでいるうちに、彼女の仲間たちが動き出す気配が見られた。
広い部屋の中心に集まりだしたので、俺とメリルもその輪に加わった。
市街戦ではもっと多かった気がしたが、その数は十数人ほどになっていた。
「初めて見る顔もいるが、自己紹介は後回しだ。これから地下通路を通って拠点へ向かう」
リュートとは別の戦士が全体向けに指示を出した。
長髪であご髭を生やした体格のいい男だった。
「地上のエスラはどんな状況か分からないのか?」
「他の場所にいる仲間と合流できなければ無理だ。休養の時間はもう十分とれたし、追撃を避けるにはここを離れなければ」
彼らの会話で頭上に広がる町がエスラということが分かった。
そこまで気が回らなかったが、他の兵士たちも消耗しているようだ。
話が終わると、すぐにいくつかのグループに分けられた。
各グループごとに一つの灯りが渡されて、受け取った者が先頭を歩くという流れだった。
やがて説明が終わると、移動が始まった。
俺が入ったグループは五人で構成されており、メリルとリュートが一緒で他の二人は初対面だった。
簡単な挨拶をしてから、足早に出発した。
俺たちのグループは最後の順番だった。
部屋の一角に穿たれた横穴があり、そこから地下通路に踏み入った。
俺が一番後ろを歩き、その前にメリル、続いてリュートといった並びだった。
薄暗く足元がおぼつかないので、すぐに火の魔術を松明代わりに点けた。
程よい明るさになり、拳大の炎が細長い通路を照らす。
「魔術が使えると便利だな。それにしても、オレたち五人が最後尾か。しんがりみたいで危険な匂いがするのは気のせいかね」
「追いつかれる可能性は高いのかい?」
「いや、リーダーが心配してるだけでそこまで気にすることはないさ」
リュートに質問したところで、先頭で灯りを持った男が答えた。
「あんたらは剣だからいいけど、オレの槍だとこの狭さは不利じゃないか」
たしかに槍使いのリュートが戦うには窮屈だろう。
天井は二メートル近くあるものの、横幅はそこまで余裕がない。
この状態で追手が現れたら、彼は戦力に計算できないかもしれない。
同じグループの面々は表に出さないだけで追撃されることを恐れているように思えたが、例外的にリュートだけは深刻さを感じさせなかった。
地下通路は風が通らないからなのか、意外にもそこまでの寒さを感じない。
湿った空気とカビ臭さは感じるものの、短時間ならば我慢できそうだ。
それからしばらく歩き続けたが、まだ出口に到着していなかった。
あえて確認しなかったものの、不安になって誰にともなく問いかけた。
「拠点までまだかかりそう?」
「もう少しだ。目印を確認しているから間違いない」
同じグループの灯りを持った男が答えた。
「……そうか、分かった」
今のところ追手の気配はないので、そのうちつくだろう。
そう考えて気持ちを切り替えた直後、後方から足音が響いてきた。
「なんだ!? これ以上合流してくる仲間はいないはず」
仲間の一人が怯えるように声を上げた。
「俺が迎え撃つ。これだけ狭いと集団では戦えそうにない」
「……承知した、どうか頼む」
「オレも戦いてえところだけど、槍を使うには狭すぎるな」
他の仲間を先に進ませて、その場に立ち止まった。
「……わたしも戦います」
メリルだけは先へ行かなかった。
「……うん、分かった」
止めても無駄なことは分かっていた。
ただ、豆ができた手で剣を振れるか心配だった。
エルネスのようにやれるか自信はないものの、見様見真似で治癒魔術を試すことにした。敵の気配が近づく以上、あまり時間はかけられない。
「メリル、手を貸して」
「……あっ、はい」
彼女は戸惑いながら細く白い指先をこちらに伸ばした。
「これでよく戦ってたな」
甲の部分はきれいなままだったが、手の内側は豆が潰れて血が滲んでいた。
「ちょっと待ってて……」
――全身を流れるマナに意識を向ける。
魔術の基本がマナの流れなら、治癒魔術も同じ要領のはずだ。
それにマナの容量が多ければ、戦いに差し支えるほど負担はないはず。
俺はメリルの指を掴んで、魔術を使う時と同じようにマナを流した。
「……あっ、すごい」
損傷した組織が再生するように、豆が無くなって出血も止まった。
「ふぅ、どうにか上手くいったみたいだね」
「ありがとうございます。これで存分に戦えます」
俺たちは追手を迎え撃つべく、近づく足音に注意を払った。
やがて、数体のモンスターが火の魔術に照らし出されるように現れた。
メリルと休んでいるうちに、彼女の仲間たちが動き出す気配が見られた。
広い部屋の中心に集まりだしたので、俺とメリルもその輪に加わった。
市街戦ではもっと多かった気がしたが、その数は十数人ほどになっていた。
「初めて見る顔もいるが、自己紹介は後回しだ。これから地下通路を通って拠点へ向かう」
リュートとは別の戦士が全体向けに指示を出した。
長髪であご髭を生やした体格のいい男だった。
「地上のエスラはどんな状況か分からないのか?」
「他の場所にいる仲間と合流できなければ無理だ。休養の時間はもう十分とれたし、追撃を避けるにはここを離れなければ」
彼らの会話で頭上に広がる町がエスラということが分かった。
そこまで気が回らなかったが、他の兵士たちも消耗しているようだ。
話が終わると、すぐにいくつかのグループに分けられた。
各グループごとに一つの灯りが渡されて、受け取った者が先頭を歩くという流れだった。
やがて説明が終わると、移動が始まった。
俺が入ったグループは五人で構成されており、メリルとリュートが一緒で他の二人は初対面だった。
簡単な挨拶をしてから、足早に出発した。
俺たちのグループは最後の順番だった。
部屋の一角に穿たれた横穴があり、そこから地下通路に踏み入った。
俺が一番後ろを歩き、その前にメリル、続いてリュートといった並びだった。
薄暗く足元がおぼつかないので、すぐに火の魔術を松明代わりに点けた。
程よい明るさになり、拳大の炎が細長い通路を照らす。
「魔術が使えると便利だな。それにしても、オレたち五人が最後尾か。しんがりみたいで危険な匂いがするのは気のせいかね」
「追いつかれる可能性は高いのかい?」
「いや、リーダーが心配してるだけでそこまで気にすることはないさ」
リュートに質問したところで、先頭で灯りを持った男が答えた。
「あんたらは剣だからいいけど、オレの槍だとこの狭さは不利じゃないか」
たしかに槍使いのリュートが戦うには窮屈だろう。
天井は二メートル近くあるものの、横幅はそこまで余裕がない。
この状態で追手が現れたら、彼は戦力に計算できないかもしれない。
同じグループの面々は表に出さないだけで追撃されることを恐れているように思えたが、例外的にリュートだけは深刻さを感じさせなかった。
地下通路は風が通らないからなのか、意外にもそこまでの寒さを感じない。
湿った空気とカビ臭さは感じるものの、短時間ならば我慢できそうだ。
それからしばらく歩き続けたが、まだ出口に到着していなかった。
あえて確認しなかったものの、不安になって誰にともなく問いかけた。
「拠点までまだかかりそう?」
「もう少しだ。目印を確認しているから間違いない」
同じグループの灯りを持った男が答えた。
「……そうか、分かった」
今のところ追手の気配はないので、そのうちつくだろう。
そう考えて気持ちを切り替えた直後、後方から足音が響いてきた。
「なんだ!? これ以上合流してくる仲間はいないはず」
仲間の一人が怯えるように声を上げた。
「俺が迎え撃つ。これだけ狭いと集団では戦えそうにない」
「……承知した、どうか頼む」
「オレも戦いてえところだけど、槍を使うには狭すぎるな」
他の仲間を先に進ませて、その場に立ち止まった。
「……わたしも戦います」
メリルだけは先へ行かなかった。
「……うん、分かった」
止めても無駄なことは分かっていた。
ただ、豆ができた手で剣を振れるか心配だった。
エルネスのようにやれるか自信はないものの、見様見真似で治癒魔術を試すことにした。敵の気配が近づく以上、あまり時間はかけられない。
「メリル、手を貸して」
「……あっ、はい」
彼女は戸惑いながら細く白い指先をこちらに伸ばした。
「これでよく戦ってたな」
甲の部分はきれいなままだったが、手の内側は豆が潰れて血が滲んでいた。
「ちょっと待ってて……」
――全身を流れるマナに意識を向ける。
魔術の基本がマナの流れなら、治癒魔術も同じ要領のはずだ。
それにマナの容量が多ければ、戦いに差し支えるほど負担はないはず。
俺はメリルの指を掴んで、魔術を使う時と同じようにマナを流した。
「……あっ、すごい」
損傷した組織が再生するように、豆が無くなって出血も止まった。
「ふぅ、どうにか上手くいったみたいだね」
「ありがとうございます。これで存分に戦えます」
俺たちは追手を迎え撃つべく、近づく足音に注意を払った。
やがて、数体のモンスターが火の魔術に照らし出されるように現れた。
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