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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

ダスクの女王

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 メリルやオーウェンとその仲間たちでダスクの近くにたどり着くと、町には火が放たれて悲惨な状況になっていた。

 俺たちが炎に包まれた町の様子を眺めていると、オーウェンが見知らぬ女性に声をかけられた。

「もしや、始まりの青のオーウェン殿ではありませんか?」  

 刺繍や装飾の凝ったドレスを身につけていて、気品を感じさせる佇まいの女性だった。
 年齢はおそらく二十代で小さな顔と華奢な身体つき、翡翠のように透明で綺麗な瞳に目を奪われた。
 慌てて歩かなければいけなかった事情があったようで、ドレスにはところどころ泥がついている。

 彼女は片手で撫でつけるように金色の髪を整えると、オーウェンに歩み寄った。

「……フレア女王。なぜこんなところに?」
「見ての通りです。ダスクの町が炎に包まれて、先に私が逃げてきました」

 それを聞いて、オーウェン側――つまり始まりの青の戦士たちがざわついた。
 
「皆、静かにしてくれ」
「イアンを筆頭に親衛隊の者たちは今も消火や救援を続けています。どうか助けに行ってくださいませんか?」
「モンスターに襲われたのは気の毒だ。しかし、エスラと手を結ぼうとしなかった貴方たちを助けろというのはいささか虫がよすぎる」

 オーウェンは手厳しい様子を見せていた。
 すると、フレアは深々と頭を下げた。

「どうか、お願いします」
「我々からもお頼み申し上げる」

 それに続いて付き添っていた兵士たちも女王の後ろで頭を下げた。

「……申し訳ないが、できかねる。我々も限られた戦力なのだ。火の海で戦うことに慣れた者などそうはいない。仲間たちを危険な目に遭わせるわけにはいかない」

 オーウェンは同情の念を感じさせながらも、きっぱりとした口調で断った。

「……それでは仕方ありません」

 フレアは弱々しい口調で言った。

「女王がここまで逃げられたのなら、他の者たちも来れるのでは?」
「ええ、それを信じるしかありません」

 二人の話はそこで途切れた。


 この場にいる誰もが緊張した気持ちになっているように思えた。
 
 ダスクの町から上がる火の手は弱まることなく、赤々とした炎と黒い煙が巻き上がっている。

「それにしてもえげつねえな。あれだけの数のモンスターで取り囲んで、おまけに町に火をつけるなんて」

 近くにいたリュートが自然な口調で言った。
 何となく知りたい気持ちになって話しかけた。

「……助けに行くのは危険かな?」
「まあ、おれなら行かねえな。強い相手と戦えるのは歓迎だが、数的不利は確定な上に火の海で戦うなんて正気じゃねえ」

 彼の言葉を耳にして、あの場所の危険さを再認識した。

 異世界に来て何度も戦いを経験したことで感覚が麻痺していたかもしれない。
 日本で生活していた時に火事を見たら、消防を呼んで避難する他ないだろう。
 
 何もできないまま眺めていると、ダスクの劣勢は変わりそうになかった。

 打ち破られたと思われる門を抜けて、絶え間なくモンスターが入りこんでいる。
 
 ダスクの手勢から力を借りられそうな気配は薄く、俺たちがここにいることを気づかれる前に逃げ出した方がいいようにさえ思われた。

 しかし、女王フレアとオーウェンが逃げ延びてくる人たちを待とうとしている。

「まだ待ちますか? 下手したら自分たちも巻き込まれるかもしれませんよ」

 似たようなことを考えた戦士がいたようで、オーウェンに疑問を呈した。

「……うむっ。もう少し待つ。それでダメならば別の方法を考えよう」
「エスラへ戻れる保証はありませんよ」
「儚い希望かもしれぬが、ダスクの戦力が味方につけばエスラ奪還は可能になる」
「……たしかにそれは」

 オーウェンの意見に戦士は言葉を詰まらせた。

「――はあっ、はあっ、女王陛下はご無事でありますか!?」

 緊迫した状況へ割って入るように、息を切らせた兵士がやってきた。
 
「おおっ、ここまで来れたか!」
「ああっ、何とかな。それより女王陛下は?」
「あちらにいらっしゃる」

 仲間同士で喜びあった後、その兵士は疲れを見せずに女王の元に向かった。

「女王陛下。イアン隊長の指示で市民を誘導して参りました」
「なんと、イアンが……」
「引き続き、生き残った兵士たちもこちらへ向かっております」
「そうか、そうか」

 女王は感慨深げに片手で目を覆った。

 それから、兵士の報告を耳にしたオーウェンが口を開いた。

「皆、ダスクの生存が確認できた。我らは見守ることしかできないが、彼らがここへ来るのを引き続き待とうじゃないか」

 彼の言葉に始まりの青の戦士たちは深く頷いた。
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