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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

シモンVSワーウルフ ―極限の戦い―

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 意を決して広間に足を踏み入れた直後、オーウェンが立ち尽くしていた。

「……どうしたんだ?」

 彼の様子を確かめようとしたら、その視線の先にモンスターの姿があった。
 キングオークの時と同じような玉座めいた椅子に腰を下ろしている。

 ――狼のような頭をした人型の風貌。

 目にしてすぐ、サスケの話していたワーウルフだと気がついた。
 彼の話通りなら危険な存在らしい。 

 遠すぎて詳しく確認できないと思い、足を踏み出したところで――。

「――待てカナタ、近づいてはダメだ」

 オーウェンの低く抑えた声に止められた。

「……んっ? 何が――」

 容量が掴めないまま足を止めたところで、心臓に氷を突き刺されるような錯覚を覚えた。

「ぐっ、はぁ、はぁっ……」

 予想できなかった出来事でパニックになりかけた。
 胸に手を当てても何も変化はない。

 ふと正面を見やると、ワーウルフがちらりと視線を向けた。

「……カナタ、やつの殺気は凄まじい。安易に近づくのは控えてくれ」
「……はい」

 オーウェンの言葉に頷き、彼が立ち止まっている理由を把握した。

 俺たちが動けないでいると、サスケ以外の仲間が遅れて出てきた。
 リュート、エレンは異様な殺気に戸惑い、同じように立ち止まった。

 そして、最後に残されたのはシモンだった。

「……とんでもない殺気ですねえ。何をすればそんな気配が身につくのか」

 彼は興味深そうに言うと、意に介さないかのように間合いを詰めていった。

「……まさか、前に進めるのか」

 仲間の誰かが驚く様子でそう漏らした。
 
 徐々に間合いを詰めて、剣を交えられる距離まで近づいていく。
 シモンが近づいたところで、ワーウルフは声を出した。

「ほう、間合いを詰めてこられる人間がいたのか」
「何者ですかね? こんな殺気は初めてかもしれません」

 シモンはこちらに背中を向けたままで、普段通りの口調だった。

「貴様こそ、なかなかやるようだ。剣を抜け、武を以て語ろうではないか」
「……なるほど、それもいいんじゃないですかね」

 ワーウルフは立ち上がっていた。
 肩当てと胸当て、足にも防具を身につけている。

 両者は互いに剣を抜き、無言のまま間合いを探り始めた。
 
 武芸の覚えがない俺でも分かる。
 周囲には凍りつくような空気が充満するようだった。

 シモンさえも鋭い気配を隠すことなく、敵と対峙していた。

 極度の緊張状態に目が離せなくなっている。

 そして、始まりの合図もなく、両者は同じタイミングで前へと踏みこんだ。

 キンっと金属同士がぶつかる音が響いた。
 接触の衝撃が強すぎて、火花が飛び散った。
 
 かなりの強敵なのに援護できないのが歯がゆく感じた。
 そもそも、俺の技量で安易に近づくべき敵ではない。

 シモンとワーウルフの拮抗した状態が過ぎた。
 今度は互いに目にも止まらぬ速さで剣戟を繰り出している。

 彼らの動きが速すぎて、まるで何も持っていないかのように見えた。
 そこに存在することは剣が風を切る音でしか判断できない。

 まるで、二人だけが別の時間、次元に切り取られたかのように攻防が続く。
 その一挙一動から目が離せなくなっていた。

 リュートとエレンも同じような状態だった。オーウェンさえも成り行きを見守っている以上、シモンの勝利を祈ることしかできない。
 
 俺たちの前でシモンとワーウルフの戦いが続いていく。
 拮抗した状態のまま、時間だけが過ぎていった。
 

 互いに疲れた様子を見せず、少なくとも五分以上は攻守を入れ替わりながら戦いは継続していた。万が一のことは考えたくなかったものの、もしもに備えて魔術を放てるようにスタンバイ状態にしてある。

 シモンが負けることなどあるのだろうか。
 ワーウルフの尋常ならざる強さを前にして、それを否定できない自分がいた。

 オーウェン、リュート、エレンの三人は歯がゆさを抱いているように見えるが、戦いに割って入ろうというふうには見えない。

 このまま接戦が続くのかと思ったところで、展開が大きく変化した。

 互いの剣がぶつかり合った時、シモンの剣身が真ん中から真っ二つに折れた。

「――ああっ!?」

 仲間の誰かから動転したような声が上がった。 

 それでも、シモンは残された剣身で攻撃を防ごうとした。
 さすがに彼ほどの腕前を以てしても、おぼつかない動きになっている。

 ワーウルフは攻勢を強め、決着を着けようとしているのは明白だった。

 ――とその時、シモンがふいに手にした剣を投げ捨てた。

 ワーウルフはわずかなに動きを止めたものの、戸惑うことなく距離を詰めた。

「――最終手段です」

 シモンはそう短くこぼすと、右手の手の平を突き出した。
 すると、そこから剣の形をした緑色の光が現れた。
 
 それを見たワーウルフに一瞬だけ隙ができた。
 シモンがその時を見逃すはずもなく、凄まじい速さで踏みこんだ。

 気がつくと、光の剣が敵を袈裟懸けに切っていた。
 ワーウルフは大きなダメージを受けて倒れこんだ。
 
 勝負の決着はあっさりと着いたのだった。

 シモンは床に手を突いた状態のワーウルフを見下ろしている。
 もはや、敵には反撃する力は残されていないように見えた。
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