【完結】ルームメイト〜僕と彼の関係〜

天白

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いくら王道といえど、決してふざけてはいけないこともあるのです

END

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「はあっ! 鬱陶しい」

 部屋に入るなり、ドサリとベッドに落ちるように倒れ込んだ皇君。ぐったりとして、とても辛そうです。

 って、それはおいといて!

「な、何なんですか! さっきのは!?」

 僕は捲し立てました。いくら病人といえど、さっきのは聞き捨てなりません。嘘であれ、もうちょっとマシなものを言えっていうんです!

 すると皇君。寝転んだまま、じろりとうざったそうに僕を見遣りました。なんだ、その目は! やんのか、コラ!?

 ちょっとびびってる僕は、思わず構えました。喧嘩の構えなど知りませんが、なんとなく両手をシュワッチ状態でポーズをとります。何とか光線とやらは出ませんでしたが。

「静かになったでしょう。いちいち喚かないでもらえますか」

「け、けど……他にいくらでもやりようがあったでしょう!」

 僕は純粋なんです。下半身が緩い暴れん坊野郎と一緒くたにしないでもらいたいものです。

「では他にどんな方法があったと?」

「そ、それは……」

「ないでしょう。それより、もう静かにしてもらえますか。コホコホッ」

「だ、大丈夫ですか? あ、そうだ、飲み物っ! 飲み物ありますよっ!」

 一段とひどい咳に、僕は購入したスポーツ飲料を取り出して皇君に近寄りました。よく見ると、皇君の頬がこれ以上ない程真っ赤になっています。すごくすごく真っ赤なんです。うわ~辛そう~。

 ペットボトルのキャップを開けて飲み物を差し出すと、皇君は何も言わずにそれを受け取りました。少しだけ上体を起こすと、コクコクとそれを嚥下します。よ、良かった。飲んでくれた。発熱時は汗をかきますから、水分補給は大事です。うん。

「薬、飲みましたか? あ、食後じゃないと駄目なやつですか?」

「ケホケホ。病院で解熱剤を飲みました。後は就寝前に服用します」

「そういえば、汗がすごいですね。タオル、持ってきます」

 今これだけ発汗しているのなら熱もすぐに下がるでしょう。ちょっとだけほっとしました。僕はお風呂に入る時のタオルと盥を持って洗面台に走ると、その中に水を張って再び皇君の下へと戻りました。タオルを水に浸からせてからよく絞ると、そのまま皇君の額に宛がいます。汗を拭う為です。

 額。顔。首。そして胸へと差しかかったところで、皇君が手で止めてきました。

「どうしました?」

「いや、どうしたもこうしたも。君がどうしました?」

「は?」

「コホ……君、私が嫌いなんでしょう?」

「ええ。それが?」

「なぜ、それほどまでに世話を焼くのですか」

 は? んなの決まっているじゃないですか。

「病人がぶっ倒れているんですよ? 看病するのは当然じゃないですか」

 たかが風邪。されど風邪、なのです。

「でも、私が嫌いなんでしょう?」

「当たり前でしょう」

 何を当たり前のことを……ん? 皇君、なぜにため息をついているんですか?

「それよりも、皇君。身体、ベタベタでしょう? このまま身体拭いて、着替えた方がいいですよ。ちゃちゃっと上着、脱いじゃってください」

 僕だったら速攻で着替えているところです。汗でベタベタだなんて沙耶ちゃんに見られたら「お兄ちゃん、キモい」と言われてしまうレベルで……この野郎は汗がベタベタに滴っても様になってやがるだなんて、同じ男なのに一体なんなんだこの顔面格差は。

 無性に腹の立ってくるこの衝動を抑えながらも、僕はタオルを盥に突っ込んで水を絞ります。

「君……」

「はい?」

「本当に看病するつもりですか?」

 今さらですが。やけに大人しい皇君が、僕に尋ねました。う~ん。僕がしていることって看病なんですかね? 別に看病っていうほどのものでもないと思うんですけど。

 ぎゅっと水を絞り切って、僕はタオルを広げました。

「風邪って一般的に知られている、誰でもかかる病気ですけど、本当に恐い病気でもあるんですよ。僕のおじいちゃんも……おじいちゃんも、ただの風邪だとほかっていたら、救急車で運ばれるっていう事態にまでいったことがあるんです。ほら、高齢者って免疫力が低いでしょ? たかが風邪って侮って死にかけるだなんて、そんな阿呆なこと、絶対にしてはいけないんです」

 医学だって進歩してるし、薬だって改良されまくって、しかもすぐに治すことのできる環境下にあるくせにそれを利用せず、“ただ”の風邪だと侮って命を落とすだなんて……そんなのは、命を軽視しているようなものです。

 それは絶対に駄目なんです。

「副会長も言ってましたよ。どうして僕らを頼ってくれないのかって。同じ生徒会役員なのに、どうして若は一人で抱え込もうとするのかって」

 まぁ、「ただの恰好つけなだけでしょ」と笑って付け加えていたのはさておくとして。

「僕は皇君になって代わりに休むなんてことはできないんです。皇君の身体は、皇君のものなんですから。自分が一番大事にしてやらなくて、どうするんですか」

 説教? そう思われてもいいですよ。だって僕、皇君を叱ってるんですから。

 偉そうだと思われたでしょうか? それでも、皇君はただ黙って聞いていました。僕の言葉をただ黙って聞いて、そして大人しく、上着のボタンを外し始めたのです。

 ぬぎぬぎ。

 上半身、裸族となった皇君。うお。マジでどこで鍛えているのか、聞きたいくらい無駄にいい身体をしてやがります。ちくしょうっ。

 そして僕が羨ましがっている事など知りもしない皇君は、くるりと背を向けると。

「何ぼさっとしてるんですか。拭いてくれるのでしょう?」

 あ~もう、なんなのこの俺様。素直に拭いてくださいくらい、言えないものですかね?

「わかりました。わかりましたよ。拭きますよ。拭けばいいんでしょ」

 嫌々そう言って見せると、クスリと小さく笑いやがりました。この野郎、水をぶっかけてやろうか。

 でも、いつもの調子ですね。うん。こっちの方がやりやすいです。僕としても。

「いくら私の身体が羨ましくとも、変な気を起こさないでくださいね。気持ち悪いです」

「変態扱いすんな」

 うん。こっちの方が殺りやすいです。僕としては。

 ったく。










 風邪といえども侮るなって言ってんのに、治った途端に発情しやがった奴を、もう絶対に看病するもんかって心に決めたのは、翌日のことでした。ちくしょうっ!




 END.

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