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初夜でした
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――――――…
「……ん?」
ふわふわと寝心地のいいベッドの上で、僕は目を覚ました。
寝てたんだろうか? 頭がくらくらするや。おでこのあたりも、なんか微妙に痛いし。
それに。ここはどこだっただろうかと、眠る前の出来事をすっかり忘れてしまっていた僕は、思い出そうと上体を起こした。
そのとき。
聞き覚えのある低い声が左隣りから聞こえてきた。
「目が覚めましたか?」
へっ?
「お早うございます」
「おはよう、ございます……?」
そこには真っ赤な髪の男の人が。
状況がわからない僕はぎこちない挨拶を返すと、スッと眼鏡を渡された。
一瞬、どうしてこの人が僕の傍にいるんだろう? と、疑問に思ったけれど、眼鏡を掛けたことで脳が働き始めたのか。
あ~、そっか。僕、この人と……海さんと結婚して、ホテルに来てるんだった……
と、現実を思い出す。
それにしても。いつの間に眠っちゃってたんだろ? もう朝なの?
どっ、どうしよう! デザートも食べたのに歯磨きしてない!!
むっ、虫歯ばばばばば!!?
ショックでよろよろと周辺を見渡してみる。すると、部屋の中は明るいけど、窓の外は真っ暗のままだということが確認できた。って、ことはまだ夜なのかな?
加えて、寝てから数時間も経っていないらしい。両目が少し痛かった。
たぶん、アレをしたまま寝てしまったせいだ。
目の痛みの原因がすぐにわかった僕は、その処置がしたくて海さんに洗面所の場所を尋ねようとした。
しかし、海さんは……。
「海さん? どうしたの?」
「何が?」
なぜか額を手で抑えていた。
澄ました表情なんだけど、手は額の真中に当てたまま離さない。
どしたの? 頭痛?
「頭、痛いの?」
「別に」
「じゃあ、どうして?」
「……何でもないです」
そっけない返事。
海さんが額を抑えてるから、なんだか僕もおんなじところが痛くなってきた気がする。
ほら、誰かがある部位を痛そうにしてると、自分も痛くなってきちゃうアレと同じ。
そして僕も海さんと同じように額を手で抑えた。
すると、海さんは眉間に皺を寄せ、不服そうな顔で僕を睨んでくる。
静かな凄みだった。
思わず、ぎょっとする。
え? 何? この雰囲気。
嫌な予感しかしないんだけど。
僕、なんかした?
「あの?」
声をかけても海さんは何も言わない。
でも、それはほんの数秒のことで、海さんは何かを思い立ったのか、ふっと意味深に笑って見せた。
そして、その口から出てきた言葉は。
「他人の手によっての射精はそんなに気持ちがよかったですか?」
……は? しゃせい?
写生?
はて。しゃせい?
しゃ……
射精!!!??
「~~~っ!!?」
そうだった。
何もしないって言ったくせに、気が変わったとか何とかで急に考えを改めた、はた迷惑な海さんと大人の階段……もとい初夜を迎えるにあたって……
べ、べべっ……
べ、べろちゅー……しちゃった上に……
僕っ……あ、あ、あ、あそこをっ……!
海さんの……てっ、てっ、てっ、手でっ!!
「っっっ!!?」
バッ、と自分の身なりを確認すると、僕の大事なモノがついてる下半身はちゃんと、買ってもらったばかりの衣類の中に収まっていた。
着せ替え人形よろしく、旦那様がきちんとしまってくれたようです。
っていうか、何!?
僕って、射精した後眠っちゃったの?
ね、寝ちゃったの?
寝ちゃったの!!?
僕はムンクの「叫び」になっていた。
うわああぁあぁ。
これじゃあ子供って思われても仕方ないよ。
それどころか、奥さん失格!
とか言われちゃって、離婚になるかもしれないよ?
龍一様ごめんね? 段ボールに詰めた荷物、そのままでいいから……。
「本当に子供ですね」
「うっ」
「年齢からしてそこそこの発育は期待していたのですが、身体のほうもまだまだ未成熟だったとは……」
「ぐぁっ」
「ああ。さっきから貴方の顔がひどいことになっていますよ。いくら元が冴えないからといって、わざわざそんな奇妙な表情をしても惹かれませんからやめておきなさい。見ているこっちは不愉快です」
「…………」
子供ですね。
未成熟ですね。
ここまでは覚悟してたし、自覚はあった。
確かに、同年代の友人たちと比べたら僕の身体は小さいし、ごつくないし、体操着のハーフパンツを穿いた時なんか、「女の子みたい」って言われたことがあるくらいだし。
でも。
でもね!!
僕、海さんにここまで言われなきゃならないこと、した!?
そりゃあ、「初夜」っていう新婚さんイベントで……しかもすごく大事っぽいところで寝てしまったことは悪いかもしれない。
悪いかもしれないけど!
「これから毎日会わせることになる奥さまの顔をそこまで悪く言わなくてもいいよね!?」
「悪く言った覚えはありません」
「冴えないって小馬鹿にしたじゃないかぁ!」
「小馬鹿にした覚えもありませんよ。馬鹿にしたんです」
「さらに悪く言ってる!?」
「そう悲観しなくてもいいと思いますよ。冴えない顔は冴えない顔でそれなりに役に立つことはあると思いますよ。冴えないなりに」
「冴えないって何回言うんだぁ!? そこまで言うほど僕は冴えてないの!?」
「私は四回言いました。貴方は三回口にしたので、計七回ですね。つまり、七回分は冴えないのではないかと……ああ、今八回になりました」
「僕が言った分までカウントしないで!」
「あまり興奮するとトマトのように真っ赤になりますよ。冴えない顔に滑稽さが増すだけですから、止めておきなさい」
「トマトのどこが悪いのさ!? 甘くて酸っぱくて美味しいじゃないか!」
「潰れたトマトを見たことがありますか? あれ以上にグロテスクで不快な物体を私は見たことがありません」
「僕は潰れたトマトじゃなーい!!」
「……ん?」
ふわふわと寝心地のいいベッドの上で、僕は目を覚ました。
寝てたんだろうか? 頭がくらくらするや。おでこのあたりも、なんか微妙に痛いし。
それに。ここはどこだっただろうかと、眠る前の出来事をすっかり忘れてしまっていた僕は、思い出そうと上体を起こした。
そのとき。
聞き覚えのある低い声が左隣りから聞こえてきた。
「目が覚めましたか?」
へっ?
「お早うございます」
「おはよう、ございます……?」
そこには真っ赤な髪の男の人が。
状況がわからない僕はぎこちない挨拶を返すと、スッと眼鏡を渡された。
一瞬、どうしてこの人が僕の傍にいるんだろう? と、疑問に思ったけれど、眼鏡を掛けたことで脳が働き始めたのか。
あ~、そっか。僕、この人と……海さんと結婚して、ホテルに来てるんだった……
と、現実を思い出す。
それにしても。いつの間に眠っちゃってたんだろ? もう朝なの?
どっ、どうしよう! デザートも食べたのに歯磨きしてない!!
むっ、虫歯ばばばばば!!?
ショックでよろよろと周辺を見渡してみる。すると、部屋の中は明るいけど、窓の外は真っ暗のままだということが確認できた。って、ことはまだ夜なのかな?
加えて、寝てから数時間も経っていないらしい。両目が少し痛かった。
たぶん、アレをしたまま寝てしまったせいだ。
目の痛みの原因がすぐにわかった僕は、その処置がしたくて海さんに洗面所の場所を尋ねようとした。
しかし、海さんは……。
「海さん? どうしたの?」
「何が?」
なぜか額を手で抑えていた。
澄ました表情なんだけど、手は額の真中に当てたまま離さない。
どしたの? 頭痛?
「頭、痛いの?」
「別に」
「じゃあ、どうして?」
「……何でもないです」
そっけない返事。
海さんが額を抑えてるから、なんだか僕もおんなじところが痛くなってきた気がする。
ほら、誰かがある部位を痛そうにしてると、自分も痛くなってきちゃうアレと同じ。
そして僕も海さんと同じように額を手で抑えた。
すると、海さんは眉間に皺を寄せ、不服そうな顔で僕を睨んでくる。
静かな凄みだった。
思わず、ぎょっとする。
え? 何? この雰囲気。
嫌な予感しかしないんだけど。
僕、なんかした?
「あの?」
声をかけても海さんは何も言わない。
でも、それはほんの数秒のことで、海さんは何かを思い立ったのか、ふっと意味深に笑って見せた。
そして、その口から出てきた言葉は。
「他人の手によっての射精はそんなに気持ちがよかったですか?」
……は? しゃせい?
写生?
はて。しゃせい?
しゃ……
射精!!!??
「~~~っ!!?」
そうだった。
何もしないって言ったくせに、気が変わったとか何とかで急に考えを改めた、はた迷惑な海さんと大人の階段……もとい初夜を迎えるにあたって……
べ、べべっ……
べ、べろちゅー……しちゃった上に……
僕っ……あ、あ、あ、あそこをっ……!
海さんの……てっ、てっ、てっ、手でっ!!
「っっっ!!?」
バッ、と自分の身なりを確認すると、僕の大事なモノがついてる下半身はちゃんと、買ってもらったばかりの衣類の中に収まっていた。
着せ替え人形よろしく、旦那様がきちんとしまってくれたようです。
っていうか、何!?
僕って、射精した後眠っちゃったの?
ね、寝ちゃったの?
寝ちゃったの!!?
僕はムンクの「叫び」になっていた。
うわああぁあぁ。
これじゃあ子供って思われても仕方ないよ。
それどころか、奥さん失格!
とか言われちゃって、離婚になるかもしれないよ?
龍一様ごめんね? 段ボールに詰めた荷物、そのままでいいから……。
「本当に子供ですね」
「うっ」
「年齢からしてそこそこの発育は期待していたのですが、身体のほうもまだまだ未成熟だったとは……」
「ぐぁっ」
「ああ。さっきから貴方の顔がひどいことになっていますよ。いくら元が冴えないからといって、わざわざそんな奇妙な表情をしても惹かれませんからやめておきなさい。見ているこっちは不愉快です」
「…………」
子供ですね。
未成熟ですね。
ここまでは覚悟してたし、自覚はあった。
確かに、同年代の友人たちと比べたら僕の身体は小さいし、ごつくないし、体操着のハーフパンツを穿いた時なんか、「女の子みたい」って言われたことがあるくらいだし。
でも。
でもね!!
僕、海さんにここまで言われなきゃならないこと、した!?
そりゃあ、「初夜」っていう新婚さんイベントで……しかもすごく大事っぽいところで寝てしまったことは悪いかもしれない。
悪いかもしれないけど!
「これから毎日会わせることになる奥さまの顔をそこまで悪く言わなくてもいいよね!?」
「悪く言った覚えはありません」
「冴えないって小馬鹿にしたじゃないかぁ!」
「小馬鹿にした覚えもありませんよ。馬鹿にしたんです」
「さらに悪く言ってる!?」
「そう悲観しなくてもいいと思いますよ。冴えない顔は冴えない顔でそれなりに役に立つことはあると思いますよ。冴えないなりに」
「冴えないって何回言うんだぁ!? そこまで言うほど僕は冴えてないの!?」
「私は四回言いました。貴方は三回口にしたので、計七回ですね。つまり、七回分は冴えないのではないかと……ああ、今八回になりました」
「僕が言った分までカウントしないで!」
「あまり興奮するとトマトのように真っ赤になりますよ。冴えない顔に滑稽さが増すだけですから、止めておきなさい」
「トマトのどこが悪いのさ!? 甘くて酸っぱくて美味しいじゃないか!」
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「僕は潰れたトマトじゃなーい!!」
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