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突撃! 新婚さんの晩御飯 【廻 side】
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「当時は、柳のことを女の子だと思っていたし、嫌悪を感じることなく好きだと思っていました。でも、男の子だと知って、驚きました」
それは私が中学に進学する時だった。柳と同じ学校だったらいいのになって思って、彼にどこの学校なのかを尋ねた。幸いというべきか、そこは私立の中学で、受験して合格すれば私でも入れるところだった。これで同じセーラー服を着ることが出来るんだって思って喜んでたけど、柳が見せてくれたのは小さなサイズの学ランだった。
衝撃だった。柳が男の子だってことが、じゃなくて。この私が、男の子である柳に、心を寄せていたことがだった。そして……。
「それでも、私は柳のことを嫌いになれませんでした。むしろ、好きになっていました」
思いは募るばかりだった。好きで、好きで、好きで。
私は柳に恋をした。男の子に、恋をした。
「私は、柳のことが好きです」
赤い人は、黙ってそれを聞いていた。こんな小娘の告白を、黙って最後まで聞いていた。
こんな小娘の告白だけど、私にとっては大事な告白。柳を好きだって気持ち。それが少しでも伝わってくれていれば、それでいい。
そうして、それまで黙っていた赤い人は、口を開いた。
「それはつまり、私は貴女の恋敵になる、という宣言ですか?」
告白だけ聞けば、そう思われるだろう。それは予想していた。この人は、法律が許さなくとも、柳の夫という立場なのだから。
私は首を横に振った。
「いいえ……」
死ね。殺す。許さない。
そんな単語ばかりが頭に浮かんでいた。この人に……柳の隣で、彼を慈しむような柔らかい眼差しを向ける、この人に会うまでは。
そして、そんな貴方から頬を撫でられ、今まで見たこともないくらい可愛い顔で嬉しそうにしている柳を見たら、私にできることなんて限られている。
そう。これはその一つだ。
今はまだ、柳は戸惑っている。それもそのはず。自分の記憶がないなんて、そんな衝撃な事実を突きつけられている最中で、変わりつつある人への想いにどうすればいいのかわからないでいるのだから。多分、初めてなんだ。柳は、それを知らない。だから、どうすればいいのか、わからない。
なら。
今までは私が助けられていた。だったら、今度は私が、柳を助ける。私の大好きな柳を、支えてあげる。それが私の、これからの目標。
私は赤い人に、頭を下げた。
「柳のことを、よろしくお願いします」
この人が本当は何者で、柳のことをどこまで知っているのかなんて、わからない。でも、柳は。ずっと大変な思いをしてきた。
誰にでも優しい柳。可愛い柳。いつまでも、笑顔でいて欲しいと願っている柳。そんな彼が、大怪我をした。体に傷を作った。見えない傷も作った。消えることのない痕を残した。
そして今日、発覚した悲しい事実。あれほど慕い、大好きだった蒼さんの顔も覚えてないなんて……。
可哀想だ。あれ以上、柳が傷つくのなんて、見たくないのに。見たくなかったのに。
でも、柳は笑った。悲しむことなく、めげることなく、前を見据えて、新しい自分になるのだと。目標を立てた。
ならば。
「柳を、もう二度と、一人にしないでください」
私はお願いする。
蒼さんじゃなく。この人が。赤い髪のこの人が。これからの柳の、隣にいてほしい。
「お願いします」
これが私の、精一杯だった。
どんな思いでこれを聞いているのかなんてわからないけれど、この人がこの願いを、少しでも聞いてくれたなら。耳を傾けてくれたなら……。
「……全く」
「……?」
「女性というのは、いざという時、強かで逞しいものですね」
頭を下げたままの私に、赤い人はそう言った。その口ぶりはどこか感心するかのようで、しかしどこか、うんざりしているかのようで。
その後、顔を上げて下さいと言われ、私はおずおずと頭を上げた。
すると、先ほどまでは一切見せなかった、真摯な表情と、真っ直ぐな黒い瞳で私を見つめて……。
「約束します。私は絶対に、あの子を手放したりはしないと」
誓ってくれた。
私に、そう誓ってくれた。
それだけで、充分だった。
私はもう一度、けれど今度は浅く、頭を下げた。
「お仕事中、お邪魔しました。失礼します」
「いえ。貴女の方こそ、このような男のところへ、よく一人で来てくれましたね」
蒼さんとは違うけれど、この人も不器用なだけで、本当は優しいのかもしれない。その優しさが、ずっと柳に向いていてくれれば、それでいいんだけれど。
そう思いながら、私はその場を去ろうとした。くるりと踵を返す。
その時だった。
「その礼、というわけではありませんが……一つだけ、貴女に伝えましょう」
「?」
呼び止められて、赤い人を見た。そして続いた言葉の先に、私は目を見開いた。
「柳が事故で入院していた病院で貴女が私を見た……という話を、以前あの子から聞きました。しかしそのことを、貴女方はこれ以上詮索しない方がいいでしょう」
ジロリ、と。その目は私に釘を刺すかのように鋭く、静かだった。さっき、私たちに質問をしてきたあの時と同じ目で、びくりと身体を竦めてしまう。怖くて……言葉が出ない。
赤い人は、そんな私に構うことなく、言葉を続けた。
「私と柳は、真城で出会いました。そして、数回会っただけで結婚した……それが事実です。……あの子にとってのね」
どういう、こと? やっぱり、この人は二年前のあの時、あの病院にいたってこと? 私の見間違いなんかじゃなく……。でも、それを詮索するなって、一体……。
怪訝な顔になる私に、赤い人は……少しだけ目を眇めながら。
「例え、過去に私と会ったことがあるのだとしても、あの子がそれを覚えていないのであれば、それは無かった……というのが真実です」
その横顔が、どこか悲しそうにも見えたのが、気のせいだったと思えないのは。この会話の内容が、それほど衝撃的だったからだ。
この人は、事故に遭う前の柳を、知っている? そして、柳はこの人を……
「まぁ、だからといって……」
そして私の思考の邪魔をするかのように、この赤い人は、邪悪という単語が似合う笑みを浮かべながら。
「これから先を、無かったことにさせるつもりは、ありませんがね」
そう、宣言をした。
それは私が中学に進学する時だった。柳と同じ学校だったらいいのになって思って、彼にどこの学校なのかを尋ねた。幸いというべきか、そこは私立の中学で、受験して合格すれば私でも入れるところだった。これで同じセーラー服を着ることが出来るんだって思って喜んでたけど、柳が見せてくれたのは小さなサイズの学ランだった。
衝撃だった。柳が男の子だってことが、じゃなくて。この私が、男の子である柳に、心を寄せていたことがだった。そして……。
「それでも、私は柳のことを嫌いになれませんでした。むしろ、好きになっていました」
思いは募るばかりだった。好きで、好きで、好きで。
私は柳に恋をした。男の子に、恋をした。
「私は、柳のことが好きです」
赤い人は、黙ってそれを聞いていた。こんな小娘の告白を、黙って最後まで聞いていた。
こんな小娘の告白だけど、私にとっては大事な告白。柳を好きだって気持ち。それが少しでも伝わってくれていれば、それでいい。
そうして、それまで黙っていた赤い人は、口を開いた。
「それはつまり、私は貴女の恋敵になる、という宣言ですか?」
告白だけ聞けば、そう思われるだろう。それは予想していた。この人は、法律が許さなくとも、柳の夫という立場なのだから。
私は首を横に振った。
「いいえ……」
死ね。殺す。許さない。
そんな単語ばかりが頭に浮かんでいた。この人に……柳の隣で、彼を慈しむような柔らかい眼差しを向ける、この人に会うまでは。
そして、そんな貴方から頬を撫でられ、今まで見たこともないくらい可愛い顔で嬉しそうにしている柳を見たら、私にできることなんて限られている。
そう。これはその一つだ。
今はまだ、柳は戸惑っている。それもそのはず。自分の記憶がないなんて、そんな衝撃な事実を突きつけられている最中で、変わりつつある人への想いにどうすればいいのかわからないでいるのだから。多分、初めてなんだ。柳は、それを知らない。だから、どうすればいいのか、わからない。
なら。
今までは私が助けられていた。だったら、今度は私が、柳を助ける。私の大好きな柳を、支えてあげる。それが私の、これからの目標。
私は赤い人に、頭を下げた。
「柳のことを、よろしくお願いします」
この人が本当は何者で、柳のことをどこまで知っているのかなんて、わからない。でも、柳は。ずっと大変な思いをしてきた。
誰にでも優しい柳。可愛い柳。いつまでも、笑顔でいて欲しいと願っている柳。そんな彼が、大怪我をした。体に傷を作った。見えない傷も作った。消えることのない痕を残した。
そして今日、発覚した悲しい事実。あれほど慕い、大好きだった蒼さんの顔も覚えてないなんて……。
可哀想だ。あれ以上、柳が傷つくのなんて、見たくないのに。見たくなかったのに。
でも、柳は笑った。悲しむことなく、めげることなく、前を見据えて、新しい自分になるのだと。目標を立てた。
ならば。
「柳を、もう二度と、一人にしないでください」
私はお願いする。
蒼さんじゃなく。この人が。赤い髪のこの人が。これからの柳の、隣にいてほしい。
「お願いします」
これが私の、精一杯だった。
どんな思いでこれを聞いているのかなんてわからないけれど、この人がこの願いを、少しでも聞いてくれたなら。耳を傾けてくれたなら……。
「……全く」
「……?」
「女性というのは、いざという時、強かで逞しいものですね」
頭を下げたままの私に、赤い人はそう言った。その口ぶりはどこか感心するかのようで、しかしどこか、うんざりしているかのようで。
その後、顔を上げて下さいと言われ、私はおずおずと頭を上げた。
すると、先ほどまでは一切見せなかった、真摯な表情と、真っ直ぐな黒い瞳で私を見つめて……。
「約束します。私は絶対に、あの子を手放したりはしないと」
誓ってくれた。
私に、そう誓ってくれた。
それだけで、充分だった。
私はもう一度、けれど今度は浅く、頭を下げた。
「お仕事中、お邪魔しました。失礼します」
「いえ。貴女の方こそ、このような男のところへ、よく一人で来てくれましたね」
蒼さんとは違うけれど、この人も不器用なだけで、本当は優しいのかもしれない。その優しさが、ずっと柳に向いていてくれれば、それでいいんだけれど。
そう思いながら、私はその場を去ろうとした。くるりと踵を返す。
その時だった。
「その礼、というわけではありませんが……一つだけ、貴女に伝えましょう」
「?」
呼び止められて、赤い人を見た。そして続いた言葉の先に、私は目を見開いた。
「柳が事故で入院していた病院で貴女が私を見た……という話を、以前あの子から聞きました。しかしそのことを、貴女方はこれ以上詮索しない方がいいでしょう」
ジロリ、と。その目は私に釘を刺すかのように鋭く、静かだった。さっき、私たちに質問をしてきたあの時と同じ目で、びくりと身体を竦めてしまう。怖くて……言葉が出ない。
赤い人は、そんな私に構うことなく、言葉を続けた。
「私と柳は、真城で出会いました。そして、数回会っただけで結婚した……それが事実です。……あの子にとってのね」
どういう、こと? やっぱり、この人は二年前のあの時、あの病院にいたってこと? 私の見間違いなんかじゃなく……。でも、それを詮索するなって、一体……。
怪訝な顔になる私に、赤い人は……少しだけ目を眇めながら。
「例え、過去に私と会ったことがあるのだとしても、あの子がそれを覚えていないのであれば、それは無かった……というのが真実です」
その横顔が、どこか悲しそうにも見えたのが、気のせいだったと思えないのは。この会話の内容が、それほど衝撃的だったからだ。
この人は、事故に遭う前の柳を、知っている? そして、柳はこの人を……
「まぁ、だからといって……」
そして私の思考の邪魔をするかのように、この赤い人は、邪悪という単語が似合う笑みを浮かべながら。
「これから先を、無かったことにさせるつもりは、ありませんがね」
そう、宣言をした。
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