【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白

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その命あるかぎり…誓えますか?

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 翌日。僕は一人朝食を終え、学校へ行く仕度をしていると、あることに気が付いた。

「おにいさんの靴がある……」

 僕より先に家を出るおにいさんの靴が玄関近くに置いてあった。今日はお仕事がお休みなのかな? それとも、別の靴で出掛けていったとか?

 はて、と僕は首を傾げながらもおにいさんが自室として使っているお部屋の前で気配を探した。いるっぽい? と、勝手に判断した僕はドアに向かって声をかける。

「おにいさーん! 僕、今から学校に行くからねー! 朝御飯、作ってあるから食べてねー!」

「コホッ……」

 ん? こほ?

「おにいさん? 何か言ったー?」

「……」

 こほ? とな。

 こほっ、て聞こえたよね。こほ?

 これは、えーと……

 もしかして、もしかしなくとも……?

「おにいさん、ごめんね! 入るよ!」

 僕はノックもせずにお部屋のドアノブを回した。幸い、鍵は掛かっておらず中へ入ることができた。

 部屋の中はカーテンが掛けられたままで薄暗く、小さな本棚とシステムデスクにパソコンが一台、それからベッドが一台だけといったシンプルな内装だった。

 そのベッドの上に、人がいた。明らかにぐったりとした様子の。

 僕はそこへ駆けつけた。やっぱりというべきか、おにいさんが布団も被らず仕事着のままで倒れていた。仰向けに寝ているけれど、その額には右手を当てて辛そうに呼吸を繰り返している。

 ごめんね、と一言掛けてから、おにいさんの頭に手を宛がった。

「あっつ……」

 すごい発熱。体温が平均よりもとても高いとはっきり感じる身体だった。

「おにいさん、聞こえる? 保険証と掛かり付けの病院の診察券はどこにあるか、答えられる?」

 意識があるならタクシーを呼んで病院に行こうと思った。しかし案の定というのか、おにいさんはうっすらと瞼を開けて僕を睨んできた。

「勝手に入るな……お前は学校でしょう。さっさと行きなさい……」

 こんな時でも、おにいさんは相変わらずだった。でもね。僕は嫌われてても、具合の悪い相手を放ってまで学校へ行くほど、おにいさんのことは嫌いじゃない。嫌いじゃないよ。

 嫌いじゃないけど。嫌いじゃない、けどっ!

「うるっさい!! つべこべ言わずに答えろ! このっ……馬鹿兄貴!!」

「……っ?」

 病人相手に僕は怒鳴り散らかした。

「熱出して辛いんでしょ! いいから病院へ行く! 変な菌でも拾ってたら幾ら大人でも治らないよ。ほら、保険証と診察券は何処なの? 馬鹿な維持張ってないで、ちゃちゃっと仕度するよ!」

 ポカンと僕を見るおにいさんを他所に、僕はてきぱきと動き出した。クローゼットは別にあるから着替えはそこから持ってくればいいし、タオルも何枚か持ってこよう。冷却シートが常備されているならそれも持ってってあとは……と。おにいさんが何を思っているのか、考えているのかは関係なく、とにかく動いた。

 そして僕が準備をしている間に、おにいさんは携帯で誰かへと電話を掛けたみたい。病院へ行ってくると、僕が準備した荷物を持って家を出ていった。

 僕もついていくと言ったけれど、学校へ行きなさいと言われた。

 でも、その言葉掛けはさっきまでの冷たいものじゃなくて。

 少しだけ優しさの乗った、穏やかな口調だった。

 その日、僕は学校が終わると早々におにいさんがいるだろうお家へと戻った。蒼さんのお見舞いもしたかったけど、特に意味のない面会謝絶を喰らうので、行ったところでどのみち会えなかったけどね。

 あれだけの高熱だったから、お仕事は流石に休んでいるだろうと思っていたんだけど、おにいさんは自宅でパソコンを開いてお仕事をしていた。ゴホゴホとマスクの中で咳をしながら、珍しくリビングで。

「おにいさんっ! 駄目だよ、そんな薄着じゃ!」

 シャツにスラックス、その上にカーディガンを羽織っていたけれど、僕にはそれが薄着に見えた。せめてもう一枚、と思うところだったけれど、もう終わると言って僕の行動をやんわりと止めた。

 心なしか、今朝より元気みたいだ。点滴でも打ったのかな。良かった。少しだけ安心した。

 思い返せば、あれだよね。昨日、僕と同じように、おにいさんも夕立に遭ったんだ。それですぐに服を脱いで冷えた身体をお風呂に浸かって温めようとしていたに違いない。それを僕が横取りしちゃったから、冷えた身体のまま過ごしていたんだ。そりゃ、風邪も引くよ……。

 でも、おにいさんの変な意地が原因とはいえ、同じくずぶ濡れた僕を優先してくれたのは確かに優しさだった。

 ダイニングの方のテーブルを見ると、僕が今朝方おにいさんの為に用意した朝食のお皿が無くなっていた。移動してる? はて、と首を傾げると……

「あな…………柳」

 と、名前を呼ばれた。

「何? おにいさん」

 ナチュラルに呼ばれたから気付かなかったけど、おにいさん。今、初めてまともに僕の名前を呼んでくれたんじゃ?

 パタパタと僕はおにいさんの傍に駆け寄ると、突然……

「むにいっ!?」

 ほっぺを抓られた。な、なにごとっ!?

 おにいさんはといえば、飄々とした様子で、特に面白がるでもなく僕のほっぺを横へ横へと引っ張ってくる。そ、そんなに抓ったら伸びるっ……伸びる~!!

「前から、餅のようだと思っていましたが……本当に餅だな」

「いひゃっ、いひゃいっ!」

「ふうん」

 面白くもないなら止めればいいじゃない! 何故に!? 何故にほっぺをそんなに引っ張るの!?

「よく伸びるな……」

「むにぃ~!!」

 伸びるぅー!!

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