【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白

文字の大きさ
212 / 241
番外編【お風邪編】

しおりを挟む


「ったく。まだ熱が下がってねぇだろ。もう少し寝てろ」

「けほけほ……はい」

 近くで様子を見ていた龍一様が部屋の襖を開け、僕に入るよう促した。このままつっ立ってたら怒られそうなので、大人しく部屋に入って再び布団の中に身を埋めた。

 なんか今日の僕、ずっと布団の中だなぁ。

「けほけほ」

 続いて、龍一様が部屋に入って来て、そしてなぜかお客さままで僕の部屋に入ってきた。……なぜに?

「それで、柳。食欲はあんのか?」

「おなか、ですか? う~ん……」

 くううう~。

「あんだな」

「……は、はいぃ」

 うきゃー! くしゃみに続いてお腹の虫まで……! しかもお客さまの前で! ぼ、僕、もうお婿に行けない……。

 恥ずかしさのあまり、布団の端を掴んで、真っ赤になった顔をすっぽりと覆い隠した。

「こういうときは何だ? 粥か?」

「それが妥当ですね。消化の良いものであれば、副菜があるといいでしょう」

「そうさな」

 大人二人が僕のご飯のメニューを考えてくれている。嬉しいけど、恥ずかしい。ちらりと目だけを布団から出すと、それに気づいたしどーさんがニコリと微笑んだ。

 え、えへ。

 つられて僕も笑ってみせると、なぜか両目を見開かれた。ありゃ?

「ちょうどいい、紫瞠。今から飯をこさえて持ってくるから。その間ここでコイツを診ててくれ」

「え!?」

「わかりました」

 いやいやいや! それはだめでしょ! だって僕、風邪引きさんなんだよ? しかもしどーさん、龍一様のお客さまでしょ?

「けほこほ……! 移るっ、から、いいですよっ! げほげほっ!」

「真城氏の命なので」

「そうだ。俺の命令だ。んじゃ、大人しく寝てろよ」

「りゅっ!?」

 パタム。

 龍一様は赤の他人を、風邪引き人間の看病にあてがわれました。

 あんにゃろう!

 再び、しんと静まり返る僕の部屋。あんまり……というか、ほとんど話したことのない人だけど、元々静かな人みたいだ。特に気にした様子もなく、僕の傍に正座して待機している。足、痺れないのかなぁ?

 でも、いくら龍一様から言われたことだからって、やっぱりこんなの申し訳ないよ。移しちゃったらいけないし。あ、そうだ。

 僕は布団から出ると、「どうしました?」と尋ねるしどーさんに「大丈夫です」と断りを入れ、引き出しの中にある使い捨てマスクを二枚取りだした。そして一枚を自分につけ、もう一枚をしどーさんに手渡した。

「これ、つけてくださいね」

「……」

「移っちゃったら、大変だから」

「……」

 しどーさんは黙っていたけれど、僕からマスクを受け取った。これでよし、なんて満足した僕は布団の中に再び潜ったけれど、しどーさんはマスクをつけずにポケットに入れてしまった。

「あの、マスク……」

「すみません。顔に何かを貼りつける、というのが苦手なもので」

「そうなんですか?」

 だったらなおさら、悪いことをしちゃったなぁ。ん? じゃあ、なんでマスクを受け取ったんだ?

 それにどうしてこんなに従順なんだろう? くしゃみをした僕に嫌な顔もしないし、龍一様の言う事を律儀に守っているし……

 しどーさんがよくわからない。

 そもそも、この人は龍一様に会いに来たんだよね? いつもお仕事のお話だし、今日もそうかな? もう用件は済んだのかな?

 僕は横になったまま、しどーさんに尋ねた。すると、しどーさんは片眉を上げて「え?」と、意表をつかれたような顔をした。

「? 龍一様とお話なんでしょ?」

「……ええ、まぁ」

「???」

 用件、違ったのかな? じゃあ、何しに来たんだろ?

 不思議に思った僕がしどーさんをじっと見つめると、しどーさんはスッと視線を逸らして、僕のおでこの方を見て……。

「タオル」

「ほぇ?」

「替えましょうか」

 と、呟いた。

 そういえば、もうこのタオルも生温くなったね。

 しどーさんはスーツの上着を脱ぐと、シャツの腕を捲って僕のおでこに乗っかっているタオルを取った。そしてそれを、傍に置いてある水桶に浸すと、よく絞ってから僕のおでこに当ててくれた。

「ありがとう、ございます」

 マスクでくぐもる声でお礼を言うと、しどーさんはまた微笑んでくれた。龍一様が笑う時とはまた違う、うっすらとした小さな笑みだったけど、なんだろう? すごく安心する笑い方。

「……ん」

 安心ついでに、しどーさんが乗せてくれたタオル越しの大きな手がものすごく気持ちいい。眠ったばかりなのに、僕の瞼はうとうとと閉じられる。それをしどーさんはどう捉えたのか。

「どうしました?」

 と、心配そうに尋ねてくる。ああ、いけない、いけない。具合が悪くなったとか、そんなんじゃないんだよ。そんなんじゃないんだけど。そんなんじゃなくて……

「ふぁ。きもちいい~……」

「は?」

「ふやぁ」

「……」

 すんごい気持ちいい~。ねちゃいそ~。。

「……」

「はっ!?」

 しんと静まり返った部屋に、急に我に返る僕。パッと瞼を開ければ、しどーさんがこちらをじっと見下ろしていた。

「ご、ごめんなさい。もう大丈夫です……」

 うわああああっ。僕ってば最低だ。自分だけ心地良くて、赤の他人のこの人にこんなことさせるだなんて。で、でも気持ち良かったし……。しょうがないし……。ううんっ、違う、違う! こんなの言い訳でしょ。しっかりしろ、僕!

「ごめんなさい……」

 もう一度謝る。寝姿のままで誠意も何もあったものじゃないけれど、本当に申し訳なく思ってます。

 でもね。しどーさんは、ものすごく優しかった。

「心地いいのでしょう? これくらいのこと、構いませんよ」

 そう言って、僕の汗ばんだ前髪を撫でてくれたんだ。なんでこの人、こんなに優しいんだろ?

「で、でも……」

「構いません」

「……ありがとう」

 半ば押し気味だったけれど、僕の良いようにしてくれるらしい。ホントに優しいなぁ。

 歳もたぶん、二十代くらいだよね。ものすごく若いと思うんだけど、落ち着きがあるし、物静かだし。僕も大人になったらこうなるのかなぁ? ちょっとなれる自信がないんだけど……。

 でも、見習いたいなって思えるこの人が傍にいたら、目指すことが出来るのかな? 例えば、そう。兄弟とか、お兄さんみたいに。近くにいたらいいのになぁ。僕、一人っ子だから兄弟姉妹がいるのって憧れちゃうんだよね。

 お兄さん。お兄さんかぁ。えへへ。いいなぁ、お兄さん。えへ。えへへ~。

「えへへへ」

「……誰かれ構わず笑わないでもらえますか? 不愉快です」

「えへ……え?」

 ガラリ。

「おう。昼食、持って来たぞ」

 なんだろう。聞き逃しちゃったけれど、とてつもなく良いタイミングで龍一様が来てくれたような……。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

うそつきΩのとりかえ話譚

沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。 舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。

救世の神子として異世界に召喚されたと思ったら呪い解除の回復アイテムだった上にイケメン竜騎士のツガイにされてしまいました。

篠崎笙
BL
剣崎勝利の家は古武道で名を馳せていた。ある日突然異世界に召喚される。勇者としてではなく、竜騎士たちの呪いを解く道具として。竜騎士ゲオルギオスは、勝利をツガイにして、その体液で呪いを解いた。勝利と竜騎士たちは悪神討伐の旅へ向かったが……。 

生贄傷物令息は竜人の寵愛で甘く蕩ける

てんつぶ
BL
「僕を食べてもらっても構わない。だからどうか――」 庶子として育ったカラヒは母の死後、引き取られた伯爵家でメイドにすら嗤われる下働き以下の生活を強いられていた。その上義兄からは火傷を負わされるほどの異常な執着を示される。 そんなある日、義母である伯爵夫人はカラヒを神竜の生贄に捧げると言いだして――? 「カラヒ。おれの番いは嫌か」 助けてくれた神竜・エヴィルはカラヒを愛を囁くものの、カラヒは彼の秘密を知ってしまった。 どうして初対面のカラヒを愛する「フリ」をするのか。 どうして竜が言葉を話せるのか。 所詮偽りの番いだとカラヒは分かってしまった。それでも――。

世話好きな不死鳥に拾われました!

のは(山端のは)
BL
不死鳥の巣で目覚めた俺には、秘密がある。 病に倒れた恩人を救うため、卵を盗みに来た――そのつもりだった。 けれど互いの正体を知らぬまま、“ひな”として世話を焼かれることに。 不死鳥は時に巨大な鳥の姿で、時に美しい男の姿で俺を包み込む。 そして、恩人との再会をきっかけに、彼のまなざしが変わっていく。 不死鳥攻めの執着愛。天然×天然のちょっとズレた溺愛をどうぞ。 表紙は攻めです。描きたかったんです。 ※ムーンライトノベルズにも掲載しております。ムーンの方が最新版となっております。

処理中です...