【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!

天白

文字の大きさ
26 / 49
耀太、現る!

しおりを挟む
 陸郎とのデートを終えた俺は宗佑のマンションへと帰った。帰り道がてら、今夜の鍋の食材も買った。鍋はいい。別段、野菜が嫌いというわけではないのだろうが、元が狼の獣人だからかやや肉へと好みが寄ってしまう宗佑。鍋は彼の大好きな肉もふんだんに入れつつ、野菜もたくさん摂取ができる万能料理だ。しかも俺の作る鍋つゆは自家製でご飯も進む胡麻味噌ベース。寒い冬にはうってつけだ。

 ……と、本来なら気分もルンルンで帰るはずだった。しかし今の俺は、陸郎の切願が頭から離れず、浮かない顔をしていた。

 心から愛した人、とは何だろう? それは「好き」では駄目なのだろうか。

 考えてみれば、俺は自分が愛した人と添い遂げたことがない。どころか、両思いになったことすらないのだ。

 一喜の父親である正臣、そして他の子供達の父親。いろんな人間と交わった経験はあるものの、その後の人生を共にすることは叶わなかった。

 絶世の美人と実の息子に言われるほどの美貌を持った恵ですらそれだった。何の取り柄もない今の俺が、あの宗佑に見初められることの方が、まずあり得ない。

 だからこそ、心配してくれるのだろう。俺は男手一つであの子達を育てたのだから。

 恵は確かに幸せだった。でも、その幸せとはまた別の幸せを、陸郎は俺に望んでいるのかもしれない。

 心から愛する人と言われてすぐに思いつくのは宗佑しかいない。愛する人がイコール好きな人であるなら、間違いなく彼だ。

 ……本当に?

 今の彼は灰色の毛並みで、アンバーの瞳を持ち、頭には狼の耳がついている。しかしそれは、正臣の顔を模した彼だからじゃないのか?

 本当の彼は狼だ。狼の顔を持つ彼を好きでなければ、心から愛した人とは言えないのではないか?

 そう考えれば、宗佑の本当の姿をいまだ受け入れていない俺が彼に飽きられるのは当然のことか? 彼がセックスをしなくなったのも、本当の姿の彼を受け入れない俺に飽きてしまったからなのではないか? 飽きて、俺以外の他の誰かと……ああ、いかん! だんだんと悲観的になっている。らしくないぞ、俺!

 宗佑を信じると、息子に断言したばかりじゃないか。大丈夫、まだまだこれからだ。

 今の俺は宗佑が好きだ。そして宗佑も、俺をそう思ってくれている。番にもなった。まだまだこれからじゃないか。

 あの人は大丈夫。きっと大丈夫。きっと……

「うん……大丈夫」

 ペチペチと両頬を叩いて、俺は自分自身に言い聞かせた。考え込んでも仕方がない。今は頭を切り替えていこう。

 そうこうしているうちに、マンションまで辿り着いた俺はエレベーターに乗り込むと、十二階にある宗佑の部屋へ向かった。ポケットに入れてある鍵によって扉は自動的に解錠された。

 開くと、玄関すぐの「あるもの」が目に飛び込んだ。

「ん?」

 そこには普段から履いている宗佑の革靴が一足と、見たこともない革靴が一足並んであった。後者については慌ただしく脱ぎ捨てたのか、不揃いに置いてある。

 宗佑がすでに帰ってきている? 珍しい。最近は帰宅時間が遅いのに。

 俺は荷物を持ったまま、靴を脱いでそれを端に揃えると、廊下からリビングに向かって声を張り上げた。

「ただいま戻りました~!」

 これで宗佑には聞こえるはず。そう思いながら廊下を歩くと、バン! と、大きな何かが叩きつけられる音と、その後にバタバタとこちらへ駆けつける重たい足音が聞こえてきた。

 宗佑? それにしてはなんだか荒々しい……

「……え?」

「グルルルゥ……」

 怪訝に思う間もなく、反対側の廊下から現れたのは鋭いアンバーの瞳を持つ、「黒い」毛並みの狼だった。

 狼はドスドスと大きな足音を立てながらこちらへ向かってきた。俺はポカンとそれを見つめて立ち尽くす。呆けているわけではない。身体が硬直して動けなかったのだ。

 俺の目の前に、身の丈二メートルはあろう大きな獣人が立ちはだかった。ぎこちなくも首だけが上がり、喉からは「ひゅっ」と変な空気が漏れた。

「グルルル……」

 駄目だ。動けない。こんなに大きな狼を間近で見たのはいつ振りだろう。俺を見下ろす目つきは鋭く、ピンク色の歯茎を剥き出し、大きな白い牙をこれでもかと見せつけている。

「あ……っ……ああぁ……」

 グンと近づく獣の顔。それは俺を睨むようで凄まじい。対して歯牙にもかけない狼は、無遠慮にも俺の首元へと自身の鼻先を擦るように近づけた。そこには俺の、宗佑から貰ったダイヤのチョーカーがある。

 動けない。駄目だ。逃げないと。逃げないと。逃げないと。逃げないとっ……!

 頭が思考を停止する。指先には信じられないほどの力が入り、唇が震える。

 怖い。恐ろしい。おぞましい……!

 助けて、宗佑っ……!!

耀太ようた!!」

「……っ、……かふっ……!」

 強く願った瞬間、愛しい人の怒号にも近い声が飛んできた。急に入る酸素が苦しく、ケホケホと噎せ込んでしまった。

 すると目の前の狼はおもむろに身体を起こし上げ、背後を振り返るようにする。同時に怠そうな物言いで、しかし見た目よりもやや高めの声音を発した。

「んだよ、兄貴。ちょっとツラ、近づけただけだろーが」

「お前の顔は圭介にとって凶器も同然だ。今すぐ離れなさい」

 兄、貴? 今、兄貴と言ったのか?

 ドサリと、手に持っていた荷物をその場で落としてしまった。そしてちょうど、狼の隣に並ぶように人型の宗佑が現れた。

「宗、佑……」

 名前を呼ぶと、慌てた様子の宗佑が俺の身体を優しく抱き締めた。

「大丈夫か、圭介。可哀想に、怖かっただろう」

「あ……う、うん……だい、じょうぶ……」

 そう言いつつも、額にはすっかり汗が滲んでしまっている。そんな様子の俺を心配して、宗佑は背中に回した手であやすように撫でてくれた。

 人の温もりを感じた俺は長い息を吐いた後、宗佑の背中に腕を回し抱きついた。

 その時だった。

「ハンッ! 目の前でイチャついてんなよ、鬱陶しい!」

「えっ?」

 明らかに不快そうな声をかけられた。俺は宗佑に抱きついたまま、おずおずと視線をやった。そう言えば、この獣人はいったい誰だ?

「こんなちんちくりんが兄貴のねぇ……ないわ」

 思いきり失礼なことを言われている気がするのはさておき、先程から宗佑に向かって兄貴を連発しているところをみるとこの人は……

「弟、さん?」

「耀太と言う」

 宗佑が端的に名前を教えてくれた。

 宗佑と同じ狼の獣人。つまりはα。

 耀太さんは横柄な態度で腕を組み、鼻息荒く俺を見下ろした。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります

ナナメ
BL
 8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。  家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。  思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!  魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。 ※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。 ※表紙はAI作成です

アルファ王子に嫌われるための十の方法

小池 月
BL
攻め:アローラ国王太子アルファ「カロール」 受け:田舎伯爵家次男オメガ「リン・ジャルル」  アローラ国の田舎伯爵家次男リン・ジャルルは二十歳の男性オメガ。リンは幼馴染の恋人セレスがいる。セレスは隣領地の田舎子爵家次男で男性オメガ。恋人と言ってもオメガ同士でありデートするだけのプラトニックな関係。それでも互いに大切に思える関係であり、将来は二人で結婚するつもりでいた。  田舎だけれど何不自由なく幸せな生活を送っていたリンだが、突然、アローラ国王太子からの求婚状が届く。貴族の立場上、リンから断ることが出来ずに顔も知らないアルファ王子に嫁がなくてはならなくなる。リンは『アルファ王子に嫌われて王子側から婚約解消してもらえば、伯爵家に出戻ってセレスと幸せな結婚ができる!』と考え、セレスと共にアルファに嫌われるための作戦を必死で練り上げる。  セレスと涙の別れをし、王城で「アルファ王子に嫌われる作戦」を実行すべく奮闘するリンだがーー。 王太子α×伯爵家ΩのオメガバースBL ☆すれ違い・両想い・権力争いからの冤罪・絶望と愛・オメガの友情を描いたファンタジーBL☆ 性描写の入る話には※をつけます。 11月23日に完結いたしました!! 完結後のショート「セレスの結婚式」を載せていきたいと思っております。また、その後のお話として「番となる」と「リンが妃殿下になる」ストーリーを考えています。ぜひぜひ気長にお待ちいただけると嬉しいです!

オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

兎騎かなで
BL
 パンダ族の白露は成人を迎え、生まれ育った里を出た。白露は里で唯一のオメガだ。将来は父や母のように、のんびりとした生活を営めるアルファと結ばれたいと思っていたのに、実は白露は皇帝の番だったらしい。  美味しい笹の葉を分けあって二人で食べるような、鳥を見つけて一緒に眺めて楽しむような、そんな穏やかな時を、激務に追われる皇帝と共に過ごすことはできるのか?   さらに白露には、発情期が来たことがないという悩みもあって……理想の番関係に向かって奮闘する物語。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処理中です...