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(番外編)ともに、歩く。
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テオバルドとともに、リヒトに婚礼の儀のお作法を教えてくれたエミールは、言っていた。
「一の扉をひとりで歩くのは、つがいと出会う前の自分だからです。オレの場合はクラウス様ですね。クラウス様と出会う前の自分を、過去を歩くことで一歩ずつ確かめてゆくんです」
一の扉から、二の扉までの道程。そこを三十三歩で歩ききる。
「二の扉からは、現在の世界です。クラウスを様と出会い、歩幅を揃えて、二人で並んで歩く。隣につがいが居る。その喜びを噛み締めながら、三十三歩を歩きます」
エミールは飴色の瞳を懐かしそうに細めながら、リヒトへと微笑みかけてきた。
「そして、三の扉は未来です。そこでは皆が待ってます」
いま、リヒトやユリウスを取り巻く家族や仲間たちが、この先もずっと絶えることなく傍に居るということ。
リヒトたちを見守っていてくれるということ。
そして、今後続いてゆく道程を、結婚する二人が現在と同じように、二人並んで歩いてゆくということ。
それぞれの誓いを形にする場所として、三の扉は存在するのだと、エミールは語ってくれた。
その三の扉が、いま、リヒトの前にある。
あと数歩の距離だ。
リヒトはこくりと喉を鳴らして、ユリウスの端麗な顔を見た。
「ユーリ様」
「ん?」
コツリ。踵を鳴らして足を揃えたユリウスが、小首を傾げてリヒトと視線を合わせてくれる。きれいな唇が目じりに触れて、リヒトをくすぐったさに睫毛をそよがせた。
「僕も……歩きたいです。歩きます」
ユリウスの腕に抱っこされて、ここまでの道程を辿ってきたリヒトだったが、ここからはきちんと自分の足で、ユリウスの隣に立って歩きたい。
リヒトがそう訴えると、ユリウスが華やかな微笑を浮かべた。
やさしくそうっと、ユリウスの腕から降ろされる。
床についた足は、もう震えはしなかった。
リヒトはおのれの足で立った。
ユリウスが折り曲げた肘を差しだしてくる。そこに手を掛けて二人で並ぶ。
「僕と歩幅を合わせて。あと五歩だよ、リヒト」
頑張れ、と励まされて、リヒトは頷いた。
しっかりと前を向き、ユリウスと一緒に右足を出した。
ユリウスは軽々と歩くのに、身長差があるリヒトは大きく踏み出さなくてはならない。それでもユリウスが巧みにリードしてくれるので、ふらつくことなく足幅を揃えることができた。
前にある右足に、左足を揃える。カツっ、とユリウスの踵が朗らかな音を立てた。それを真似したくてリヒトも勢いをつけたのに、すこし間の抜けた音になってしまった。
あれ? と首を傾げるリヒトの横で、ユリウスがクックッと肩を揺らして笑っている。
「きみは体重が軽いから。もっと食べて、もっと大きくなっていいんだよ、僕のオメガ」
歩くたびにキスをする、というのは抱っこじゃなくても有効だったようで、甘い声とともにキスが降ってくる。
それを唇で受け止めて、リヒトは、僕の背はまだ伸びるのかしら? と考えた。
次は左足を前に出す。
「リヒト。三の扉だけ一歩多い理由を知ってる?」
歩きながら、ユリウスが問いかけてきた。
リヒトが首を横に振ると、新緑色の瞳がやわらかく細まった。
「きみと出会っていない過去の時間よりも、出会ってからここに至るまでの現在の時間よりも、これから二人で進んでゆく未来の方が、ほんのすこし、一歩分でも長くなりますように、っていう願いを込めてるんだよ」
三十三歩の過去。
三十三歩の現在。
そして、三十四歩の未来。
合わせて、百歩の道程。
百、というのは満たされた状態だとエミールは言っていた。
過去があって、現在があって、そして未来がある。ひとりで歩く道、二人で歩く道、そしてこれからも歩いていく道。それをちょうど百歩で歩ききることで、二人は完全に満たされた状態になるのだ、と。
これから先リヒトが歩く未来には、必ずユリウスが居て。
出会わなかった過去よりも、いまから進む未来の方が長く長く続いていくように、と。
その祈りの一歩を加えることで、リヒトとユリウスは幸福で満たされるのだ。
百歩の意味を改めて教えられ、リヒトは目を潤ませた。
なんてしあわせなんだろう。
いま、こうしてユリウスと並んで歩けること。これからもこうして歩けること。それを確かめることができて。
なんてしあわせなんだろう。
泣きそうになって、はふ……と息を吐く。
目の前には、未来へと続く三の扉があった。
「リヒト。一緒に開けよう」
ユリウスに促され、二人で扉を押し開く。一人で開けたときはあんなに重かったのに、二人で開く扉は驚くほどに軽い。
ギィ……と微かな音とともに扉が開いた。
途端に、拍手と白い花吹雪が降ってきた。
リヒトの未来には、エミールが居て、テオバルドが居て、アマーリエが居て、ロンバードが居た。マリウス、クラウス、そしてシモンも居る。料理長のサデスの姿もあった。
皆が笑顔でリヒトとユリウスを迎えてくれている。
両脇に並ぶ彼らの間を、ユリウスとともに一歩ずつ歩いた。
二人で過ごす時間が、この先、一歩分でも長くなりますように。
その祈りを込めて、最後の一歩を踏み出す。
同じ歩幅で歩ききった先には、真っ白な台が置いてあり、その向こうには黒い祭服に身を包んだ年配の男性が立っていた。
リヒトとユリウスは白い台の前に立ち、男と向かい合った。
「一の扉をひとりで歩くのは、つがいと出会う前の自分だからです。オレの場合はクラウス様ですね。クラウス様と出会う前の自分を、過去を歩くことで一歩ずつ確かめてゆくんです」
一の扉から、二の扉までの道程。そこを三十三歩で歩ききる。
「二の扉からは、現在の世界です。クラウスを様と出会い、歩幅を揃えて、二人で並んで歩く。隣につがいが居る。その喜びを噛み締めながら、三十三歩を歩きます」
エミールは飴色の瞳を懐かしそうに細めながら、リヒトへと微笑みかけてきた。
「そして、三の扉は未来です。そこでは皆が待ってます」
いま、リヒトやユリウスを取り巻く家族や仲間たちが、この先もずっと絶えることなく傍に居るということ。
リヒトたちを見守っていてくれるということ。
そして、今後続いてゆく道程を、結婚する二人が現在と同じように、二人並んで歩いてゆくということ。
それぞれの誓いを形にする場所として、三の扉は存在するのだと、エミールは語ってくれた。
その三の扉が、いま、リヒトの前にある。
あと数歩の距離だ。
リヒトはこくりと喉を鳴らして、ユリウスの端麗な顔を見た。
「ユーリ様」
「ん?」
コツリ。踵を鳴らして足を揃えたユリウスが、小首を傾げてリヒトと視線を合わせてくれる。きれいな唇が目じりに触れて、リヒトをくすぐったさに睫毛をそよがせた。
「僕も……歩きたいです。歩きます」
ユリウスの腕に抱っこされて、ここまでの道程を辿ってきたリヒトだったが、ここからはきちんと自分の足で、ユリウスの隣に立って歩きたい。
リヒトがそう訴えると、ユリウスが華やかな微笑を浮かべた。
やさしくそうっと、ユリウスの腕から降ろされる。
床についた足は、もう震えはしなかった。
リヒトはおのれの足で立った。
ユリウスが折り曲げた肘を差しだしてくる。そこに手を掛けて二人で並ぶ。
「僕と歩幅を合わせて。あと五歩だよ、リヒト」
頑張れ、と励まされて、リヒトは頷いた。
しっかりと前を向き、ユリウスと一緒に右足を出した。
ユリウスは軽々と歩くのに、身長差があるリヒトは大きく踏み出さなくてはならない。それでもユリウスが巧みにリードしてくれるので、ふらつくことなく足幅を揃えることができた。
前にある右足に、左足を揃える。カツっ、とユリウスの踵が朗らかな音を立てた。それを真似したくてリヒトも勢いをつけたのに、すこし間の抜けた音になってしまった。
あれ? と首を傾げるリヒトの横で、ユリウスがクックッと肩を揺らして笑っている。
「きみは体重が軽いから。もっと食べて、もっと大きくなっていいんだよ、僕のオメガ」
歩くたびにキスをする、というのは抱っこじゃなくても有効だったようで、甘い声とともにキスが降ってくる。
それを唇で受け止めて、リヒトは、僕の背はまだ伸びるのかしら? と考えた。
次は左足を前に出す。
「リヒト。三の扉だけ一歩多い理由を知ってる?」
歩きながら、ユリウスが問いかけてきた。
リヒトが首を横に振ると、新緑色の瞳がやわらかく細まった。
「きみと出会っていない過去の時間よりも、出会ってからここに至るまでの現在の時間よりも、これから二人で進んでゆく未来の方が、ほんのすこし、一歩分でも長くなりますように、っていう願いを込めてるんだよ」
三十三歩の過去。
三十三歩の現在。
そして、三十四歩の未来。
合わせて、百歩の道程。
百、というのは満たされた状態だとエミールは言っていた。
過去があって、現在があって、そして未来がある。ひとりで歩く道、二人で歩く道、そしてこれからも歩いていく道。それをちょうど百歩で歩ききることで、二人は完全に満たされた状態になるのだ、と。
これから先リヒトが歩く未来には、必ずユリウスが居て。
出会わなかった過去よりも、いまから進む未来の方が長く長く続いていくように、と。
その祈りの一歩を加えることで、リヒトとユリウスは幸福で満たされるのだ。
百歩の意味を改めて教えられ、リヒトは目を潤ませた。
なんてしあわせなんだろう。
いま、こうしてユリウスと並んで歩けること。これからもこうして歩けること。それを確かめることができて。
なんてしあわせなんだろう。
泣きそうになって、はふ……と息を吐く。
目の前には、未来へと続く三の扉があった。
「リヒト。一緒に開けよう」
ユリウスに促され、二人で扉を押し開く。一人で開けたときはあんなに重かったのに、二人で開く扉は驚くほどに軽い。
ギィ……と微かな音とともに扉が開いた。
途端に、拍手と白い花吹雪が降ってきた。
リヒトの未来には、エミールが居て、テオバルドが居て、アマーリエが居て、ロンバードが居た。マリウス、クラウス、そしてシモンも居る。料理長のサデスの姿もあった。
皆が笑顔でリヒトとユリウスを迎えてくれている。
両脇に並ぶ彼らの間を、ユリウスとともに一歩ずつ歩いた。
二人で過ごす時間が、この先、一歩分でも長くなりますように。
その祈りを込めて、最後の一歩を踏み出す。
同じ歩幅で歩ききった先には、真っ白な台が置いてあり、その向こうには黒い祭服に身を包んだ年配の男性が立っていた。
リヒトとユリウスは白い台の前に立ち、男と向かい合った。
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