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(番外編)ともに、歩く。
裏側のお話3-2
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リヒトがまぶしいほどの笑顔でエミールを見上げ、
「エミール様、ありがとうございました」
と改めてお礼を告げてくる。
「いろいろ教えていただいたおかげで、僕、なんとかユーリ様と歩くことができました!」
「リヒトが頑張ったからですよ。とてもきれいに歩けていました」
「本当ですか? でも僕、途中で……転んでしまって……」
そのときのことを思い出したのか、リヒトがしょんぼりと肩を落とす。
それがあんまり可哀想で、エミールはつい、その銀色のやわからな頭を撫でてしまった。
「リヒト、大丈夫です。あなたに怪我がなくて良かった」
言いながらユリウスの姿を探したが、リヒトのつがいは少し離れた場所で、自身の側近と会話をしているところだった。しかし、その新緑色の瞳がチラとこちらを向いたので、エミールは慌ててリヒトの頭からてのひらを浮かせた。
「でも、テオさんがせっかく着せてくれた服がぐしゃぐしゃになってしまいました。テオさん、ごめんなさい」
リヒトが体ごとテオバルドの方を向き、今度は彼に向かって頭を下げる。
テオバルドが慌てたようにそれを止めさせた。
「ちょ、こんな場所で俺に頭下げないでくださいよっ」
「でも僕……」
「いいからっ。ほらさっさと顔を上げるっ!」
テオバルドが半ば強引にリヒトの顔を上げさせ、それからなぜかハッとしたようにエミールを見て、
「うわやべっ」
と口を押えた。
エミールは首を傾げ、なぜ自分がユリウスのところの侍従に怯えられているのかを考えた。
アマーリエがリヒトを捕まえ、リヒトの髪飾りに使われている花を見せてもらっている。
それを眺めていると、テオバルドが恐る恐る問いかけてきた。
「……今日は叱らないんすか?」
「オレが? あなたを?」
はて、そんなにこの侍従を叱りつけたことがあっただろうか、と不思議に思っていると、
「いつも俺の言葉遣いを怒るじゃないですかー」
テオバルドがそう続けて眉を下げた。
エミールはなるほどと頷いた。
「ああ、あれはもういいんです」
「へ?」
「テオバルド。あなたはリヒト付きの侍従。そのあなたがリヒトに対しリヒトを軽んじるような話し方をしていると、それを見た他の貴族たちは、リヒトが侍従に舐められるようなオメガだと認識するでしょう」
「……」
「あの頃はリヒトのうなじにまだユーリ様の噛み跡がありませんでした。だからオレはあなたを注意した。でもいまはほら……」
エミールが眼差しをリヒトのうなじに流すと、テオバルドもつられたようにそちらを見た。
ふわりとした襟に隠れてはいるが、彼の華奢な首筋にはユリウスの噛み跡がしっかりと刻まれている。
「今日婚姻の儀を成し遂げたことで、リヒトは名実ともにユーリ様の伴侶となりました。ただの首輪付きだった頃とは立場が違う。だから多少あなたが無礼を働いたところで、リヒトの立ち位置が揺らぐことはない。ですからオレはもう、言葉遣いがなってないとあなたを叱る必要がない、ということです」
エミールの言葉に、テオバルドがどこかポカンとしたように目を丸くしている。
それから彼は姿勢を正し、エミールへと一礼をした。
「そんなことまで考えてくださってるとは知りませんでした。申し訳ありませんでした」
素直に謝罪をしたテオバルドは、まだ赤い鼻をこすり、
「でもあれですね。叱られないのはそれはそれでなんだか物足りないっすね」
と続けた。
エミールは肩を引き、一歩下がった。
「テオバルド、そんな趣味が……」
「ち、違っ、違いますって!」
「クラウス様、テオバルドが変態です」
「ちょっ、うわ、やべぇ!」
エミールがクラウスへ泣きつく真似をすると、悲鳴を上げたテオバルドがびゅんっと頭を下げて父親のロンバードのところへと避難していった。
入れ違いにユリウスがこちらへと近寄ってきている。
「エミール様、エミール様」
リヒトが満月の瞳を輝かせながら話しかけてきた。
「いまアマル様に、あの金色のインクのことを教えていただきました! すごいですね!」
金色のインク、というのは、署名の儀で使用する透明のインクのことだ。
ペン先に仕込んだ特殊な鉱物と、あの液体と、そして紙面に塗られた薬剤の作用で、透明のインクが金色に輝くのだが、それは薬師の一族の秘伝として詳細は王族であっても明かされていなかった。
どうせアマーリエが「あれは魔法ですわよ」とでも言ったのだろう。
そう予想したエミールへと、リヒトが案の定、
「魔法使いのインクです! すごい!」
と興奮したように告げてきた。
横目でアマーリエを睨むと、アマーリエがペロっと舌を出した。
「純真すぎて心配になりますわね」
確かに、ひとを疑うことを知らないリヒトがこの先どうなるか、はなはだ心配である。
けれどリヒトの傍にはユリウスが居るので、自分などが心配することではないか、とエミールは肩を竦めるだけに留めておいた。
リヒトが長い睫毛をふさりと動かして、エミールを見上げてくる。
「エミール様も、あの魔法のインクでお名前を書きましたか?」
なんて可愛い質問だろう。
エミールはあまりの愛らしさに笑顔を浮かべ、頷いた。
「ええ。オレも書きました。金色の文字が浮かんできて、とても驚いたのを覚えてます」
「エミール様の結婚式は、どんな感じでしたか? こんなふうに、白いお花が降ってましたか?」
リヒトがぐるりと会場を見渡して、いまだひらひらと降ってくる花びらに手を翳した。
その彼の細い腰に、背後から手が伸びてくる。
いとしげに抱き寄せたのはもちろんユリウスだった。
リヒトがおのれのつがいを仰ぎ見て、蕩けるように笑った。ユリウスも同じ表情をしていた。
ひらり、ひらり。
通常の婚姻の儀であればもっとたくさんの手順があって、各国からの祝辞が述べられたりする。その間ずっと、送風機に設置した筒(天井裏につけられており、戸籍局の局員が操作している)から花びらが吐き出され続けるのだ。
儀式自体はすでに終了していたが、あまりに式典が早く終わったせいで用意した花弁はまだまだ残っているのだろう。
雪のように上から落ちてくるそれをエミールも見上げ、それからそっと、隣のクラウスの手を握った。
リヒトがきれいな双眸をまたたかせて、エミールの返答を待っている。
エミールは記憶を手繰りながら、口を開いた。
「そうですねぇ、オレのときは…………」
裏側のお話。(エミール編)
ともに、歩く。 終幕
⇒⇒⇒NEXT
『溺愛アルファの一途なる求婚』
(2023年冬あたりにまでに公開できればいいなと思ってます!)
おつきあいいただき誠にありがとうございました!!
「エミール様、ありがとうございました」
と改めてお礼を告げてくる。
「いろいろ教えていただいたおかげで、僕、なんとかユーリ様と歩くことができました!」
「リヒトが頑張ったからですよ。とてもきれいに歩けていました」
「本当ですか? でも僕、途中で……転んでしまって……」
そのときのことを思い出したのか、リヒトがしょんぼりと肩を落とす。
それがあんまり可哀想で、エミールはつい、その銀色のやわからな頭を撫でてしまった。
「リヒト、大丈夫です。あなたに怪我がなくて良かった」
言いながらユリウスの姿を探したが、リヒトのつがいは少し離れた場所で、自身の側近と会話をしているところだった。しかし、その新緑色の瞳がチラとこちらを向いたので、エミールは慌ててリヒトの頭からてのひらを浮かせた。
「でも、テオさんがせっかく着せてくれた服がぐしゃぐしゃになってしまいました。テオさん、ごめんなさい」
リヒトが体ごとテオバルドの方を向き、今度は彼に向かって頭を下げる。
テオバルドが慌てたようにそれを止めさせた。
「ちょ、こんな場所で俺に頭下げないでくださいよっ」
「でも僕……」
「いいからっ。ほらさっさと顔を上げるっ!」
テオバルドが半ば強引にリヒトの顔を上げさせ、それからなぜかハッとしたようにエミールを見て、
「うわやべっ」
と口を押えた。
エミールは首を傾げ、なぜ自分がユリウスのところの侍従に怯えられているのかを考えた。
アマーリエがリヒトを捕まえ、リヒトの髪飾りに使われている花を見せてもらっている。
それを眺めていると、テオバルドが恐る恐る問いかけてきた。
「……今日は叱らないんすか?」
「オレが? あなたを?」
はて、そんなにこの侍従を叱りつけたことがあっただろうか、と不思議に思っていると、
「いつも俺の言葉遣いを怒るじゃないですかー」
テオバルドがそう続けて眉を下げた。
エミールはなるほどと頷いた。
「ああ、あれはもういいんです」
「へ?」
「テオバルド。あなたはリヒト付きの侍従。そのあなたがリヒトに対しリヒトを軽んじるような話し方をしていると、それを見た他の貴族たちは、リヒトが侍従に舐められるようなオメガだと認識するでしょう」
「……」
「あの頃はリヒトのうなじにまだユーリ様の噛み跡がありませんでした。だからオレはあなたを注意した。でもいまはほら……」
エミールが眼差しをリヒトのうなじに流すと、テオバルドもつられたようにそちらを見た。
ふわりとした襟に隠れてはいるが、彼の華奢な首筋にはユリウスの噛み跡がしっかりと刻まれている。
「今日婚姻の儀を成し遂げたことで、リヒトは名実ともにユーリ様の伴侶となりました。ただの首輪付きだった頃とは立場が違う。だから多少あなたが無礼を働いたところで、リヒトの立ち位置が揺らぐことはない。ですからオレはもう、言葉遣いがなってないとあなたを叱る必要がない、ということです」
エミールの言葉に、テオバルドがどこかポカンとしたように目を丸くしている。
それから彼は姿勢を正し、エミールへと一礼をした。
「そんなことまで考えてくださってるとは知りませんでした。申し訳ありませんでした」
素直に謝罪をしたテオバルドは、まだ赤い鼻をこすり、
「でもあれですね。叱られないのはそれはそれでなんだか物足りないっすね」
と続けた。
エミールは肩を引き、一歩下がった。
「テオバルド、そんな趣味が……」
「ち、違っ、違いますって!」
「クラウス様、テオバルドが変態です」
「ちょっ、うわ、やべぇ!」
エミールがクラウスへ泣きつく真似をすると、悲鳴を上げたテオバルドがびゅんっと頭を下げて父親のロンバードのところへと避難していった。
入れ違いにユリウスがこちらへと近寄ってきている。
「エミール様、エミール様」
リヒトが満月の瞳を輝かせながら話しかけてきた。
「いまアマル様に、あの金色のインクのことを教えていただきました! すごいですね!」
金色のインク、というのは、署名の儀で使用する透明のインクのことだ。
ペン先に仕込んだ特殊な鉱物と、あの液体と、そして紙面に塗られた薬剤の作用で、透明のインクが金色に輝くのだが、それは薬師の一族の秘伝として詳細は王族であっても明かされていなかった。
どうせアマーリエが「あれは魔法ですわよ」とでも言ったのだろう。
そう予想したエミールへと、リヒトが案の定、
「魔法使いのインクです! すごい!」
と興奮したように告げてきた。
横目でアマーリエを睨むと、アマーリエがペロっと舌を出した。
「純真すぎて心配になりますわね」
確かに、ひとを疑うことを知らないリヒトがこの先どうなるか、はなはだ心配である。
けれどリヒトの傍にはユリウスが居るので、自分などが心配することではないか、とエミールは肩を竦めるだけに留めておいた。
リヒトが長い睫毛をふさりと動かして、エミールを見上げてくる。
「エミール様も、あの魔法のインクでお名前を書きましたか?」
なんて可愛い質問だろう。
エミールはあまりの愛らしさに笑顔を浮かべ、頷いた。
「ええ。オレも書きました。金色の文字が浮かんできて、とても驚いたのを覚えてます」
「エミール様の結婚式は、どんな感じでしたか? こんなふうに、白いお花が降ってましたか?」
リヒトがぐるりと会場を見渡して、いまだひらひらと降ってくる花びらに手を翳した。
その彼の細い腰に、背後から手が伸びてくる。
いとしげに抱き寄せたのはもちろんユリウスだった。
リヒトがおのれのつがいを仰ぎ見て、蕩けるように笑った。ユリウスも同じ表情をしていた。
ひらり、ひらり。
通常の婚姻の儀であればもっとたくさんの手順があって、各国からの祝辞が述べられたりする。その間ずっと、送風機に設置した筒(天井裏につけられており、戸籍局の局員が操作している)から花びらが吐き出され続けるのだ。
儀式自体はすでに終了していたが、あまりに式典が早く終わったせいで用意した花弁はまだまだ残っているのだろう。
雪のように上から落ちてくるそれをエミールも見上げ、それからそっと、隣のクラウスの手を握った。
リヒトがきれいな双眸をまたたかせて、エミールの返答を待っている。
エミールは記憶を手繰りながら、口を開いた。
「そうですねぇ、オレのときは…………」
裏側のお話。(エミール編)
ともに、歩く。 終幕
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おつきあいいただき誠にありがとうございました!!
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