流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり

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4章

あの日願ったこと

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「はぁーーーー」
 
 フィリックスの溜息が深い。
 ここからは行方不明者捜索になるので、マカルンに子どもらを村に帰すよう頼み塔の前にはフィリックス、ノイン、レイオン、ジンリョウが残った。
 ガウバスとスエアロは元々塔の前に野宿しているそうで、収納宝具からなかなか立派なテントを出してくる。
 時間は午後三時。
 陽が落ちる前に、レッドテイルを一掃したい。
 
「本当は、冒険者も何人かほしいところなんだが……」
「さすがにリグお兄さんの顔を見たら、ねぇ」
「だよなぁ」
「ミルアとオリーブ、スフレはすぐ来るって。それと少し厄介なことになってる」
「なになに~? 貴族連中なにかしたぁ?」
 
 もはや貴族の召喚警騎士がなにかするのは確定的。
 ノインが半ば諦めるように首を傾げてフィリックスに続きを促すと、目が死んだフィリックスが「北のスラム街半崩壊でチャイルドギャングどもが倉庫街を荒らしてるらしいって」と頭を抱えた。
 
「あー、クタンとオラバの馬鹿コンビね。とはいえスラム街のぶっ壊れっぷりは文句言われても仕方ないしねぇ」
「それだけじゃなくて」
「え、なに。こわい」
「市長がスラム街の解体を他の議員と一緒になって、決定したらしい。近々瓦礫共々今ある建物も解体して撤去するつもりみたいだ。住んでる住民はほとんど町民登録していないから、追い出すってさ」
「「はああああ!?」」
 
 と、声を上げたのはノインとレイオン。
 確かに町の方は危険な場所だとノインに教わっている。
 チャイルドギャングの抗争が激しく、一般人はすぐに襲われ金も命も奪われかねない。
 だが、最近はレイオンがリョウの教えた栗の有効活用法のために皮剥きを依頼して、少しずつ治安は改善に向かっていたはず。
 冒険者たちも立ち寄り、簡単な算数を教えたりしていた。
 スラムは少しずつ変わろうとしていたのに、町長たちはすべてなかったことにしようとしている。
 
「それはあれか? エドワドはわしを完璧に敵に回してもいいってことなんだな?」
「それはわかりませんが、貴族たちが元々スラム街を排除したいと考えていたのは事実です。今回の件はやつらにその口実を与えてしまいましたね」
「面倒なことになったねぇ~。どうします、師匠」
「まあ、とりあえず全員シバくのは決まっているだろ?」
「うんうん」
 
 にこり。
 微笑む師弟。
 貴族特攻のある自由騎士団フリーナイツの騎士が「シバくのは決まっている」とのことなので、貴族の召喚警騎士だけでなく町議員をやっている貴族も対象に入ったらしい。
 
「リグ、おかわりはいる?」
「では」
「今度は玉子をといて、玉子粥にしてみようか。それとも野菜も煮込んで雑炊がいいかな。スエアロくんとガウバスさんは――」
「オイラたちは魚釣ってきたから大丈夫」
「ダンナさんがお食事をされている……!」
「泣くほどのことではないと思うぞ、ガウバス」
 
 泣いている。
 ガウバスはリグがなにも食べられないのを、よほど心配して案じていたのだろう。
 
(でも、本当は美味しいものってたくさんあるんだよね。……ケーキパーラーカブラギのケーキ……早く食べたいなあ!)
 
 そしてリグにも食べてほしい。
 たくさん美味しいものを、お腹いっぱい。
 
「リグさん」
「ん」
「リグさんは[原初の召喚魔法]を使える[異界の愛し子]なんですよね? 自分で呪いを解けるのなら、今解いてしまえないんですか?」
 
 と、リョウの隣に来て提案したのはジン
 確かに今解呪してしまえば、カーベルトに行ったあと美味しいものをたくさん食べてもらえる。
 召喚魔法による呪いならば、リグに解呪できないわけがないのでは――。
 
「呪いもそうだが洗脳もされているから難しい」
「「洗脳!?」」
 
 ここに来て新しい情報が出てきた。
 
「少し調べたことがあるのだが、拐かした人質の生活の一部、またはすべてを支配下に置くことで被害者の抵抗する意思を奪うんだそうだ。長期間同じようなことをされ続けると被害者もそれが習慣化して当たり前になってしまう。最終的には被害者自身が救助を拒むようになる。中には被害者が犯人に共感し、救助に来た騎士に対して抵抗した例もあるという。それが洗脳だな。僕の場合も五歳の頃からこの生活なので、習慣化している」
「つ、つまり新しく習慣づけていかなきゃいけないってことですか?」
「あとは、他にも足首に追跡の魔石道具がついている。塔から一定距離離れると爆発して足が吹き飛ぶ」
「「は!?」」
 
 ほら、と見せてもらうのだが、リョウの首輪よりも重そうな黒い足輪がリグの足下についていた。
 それはそうだろう、ダロアログにとってはリグの存在はシドに対する人質の意味が大きいのだろうから。
 逃すつもりはないということだ。
 
「は、外せないんですか!?」
「作ったのは僕だから外すのは特に難しくない。ほら」
「え、えぇ……?」
 
 と、思っていたのだが普通に外しおる。
 もはやなんのためにつけているのだ、それは。
 
「別にして足首から先がなくなっても大丈夫かな、と」
「なんでそんな怖いこと平然と言えるんですか!」
「【機雷国シドレス】の義足があればまた歩くのは問題ないと思うし」
「変な方向にポジティブすぎる!」
「この先どこに囚われても、似たようなものはつけられるだろう」
 
 それは――ここから逃げても、どこに行こうとも、捕まって監禁されてこの手の拘束具をつけられるだろうという――悲嘆。
 本人には真実だとしても、聞かされる方はかなり溜まったものではない。
 
「そうならないために、自分の居場所を自分で決めて、望むことはできないのかい?」
 
 と、会話に参加してきたのはレイオン。
 リグは外した足輪を塔の方に放り投げて、首を横に振る。
 
「どこへ行っても同じだ。余計な抵抗をすれば知っている者が死ぬ。僕は表の世界に出るべきではない。僕の存在は厄災そのものだ」
「そういう話じゃあない。お前さん自身が厄災にならないために、どうすべきかを考えて決めることはそれほどに難しいのか、と聞いている。わしらはお前さんに助けてくれと頼まれれば、あらゆる手でお前さんとお前さんの大切なものを守る。それが騎士だからだ。道具に落ちたと言っていたが、お前さん自身が“人として”決めるんだ」
「僕が人間だとでも?」
「わかっている。この世界に住まうあらゆる種族はハロルド・エルセイドを憎んでいる。その息子を人間扱いする者は、少ないだろうことも。それでもお前さんは人間であるべきだ。それがお前さんを“弟として”守ってきたシド・エルセイドに報いることにもなる」
 
 腕を組み、あまり近づかないようにして声を張るのはレイオンの気遣いだ。
 レイオンの体格はダロアログに近い。
 歳も五十代とダロアログよりは年上ではあるものの、リグにとってはその『年上の体格のよい大人の男』というのが畏怖に繋がってしまう。
 
「お前さんは頭がいい。どこに行こうが扱いは同じ。運命は同じ。自分を“扱う”組織が変わるだけ。自由が与えられることなどなく、その才能を利用されるのは変わらない。このまま悪党に“使われる”よりは世間にとっての害は減るかもしれないが、お前さんにとっては大差ない。“使う人間”が変わるだけで、善も悪も等しく同じ――とか、そう考えているんだろう。実際そうなると思う。このままならな。だからここで、変えるしかない。自分の意思でどうしたいのかを考えて教えてほしい」
「自分で思考することは技術的、知識的なことだけだ。それしか許されてない」
「それを今変えるんだ。難しいのはわかるが、なんとか考えてくれ。お前さん自身が、お前さん自身を最善に導くんだ」
 
 リグにとってはとても難しいことをレイオンは言っているのだろう。
 押し黙って俯いてしまった。
 リョウが立ち上がって、リグの隣に座る。
 
「行こう、リグ。カーベルトに」
「リョウちゃん」
「わかっています。レイオンさんの言うことは正しい。私もそう思います。リグが、リグ自身で決めなければダメ。でも、すぐには無理です。私も両親の言われるまま生きてきたからわかります。自分で自分のことを決めるのは――難しいんです」
「それは……」
 
 それは誰だって同じなのだけれど、それでもその機会をことごとく奪われてきた人間にとっては普通の人よりも難しい。
 自分の心のままに生きる前に、不安がどっしり壁のように構えている。
 それが正しいのかもわからないし、間違えたらと思うと怖くて尻込みしてしまう。
 それなら、親の言うとおりに――誰かの言うとおりにした方がずっと楽。
 自分で自分の責任を負わなくて済む。
 
「リグ、私あなたにたくさん美味しいものを食べてほしい。私、あんまり料理、好きじゃなかったの。自分でしか食べないから。一人で食べるご飯、そんなに美味しいと思ったことなかったから。……でもカーベルトでたくさんのお客さんに食べてもらうようになってからは、自分の作る料理に、それなりに自信が持てるようになったの。あなたにも食べてほしいと思う。だからまずは一緒にカーベルトに行って、そのあとあなたのしたいことややってみたいことを考えてみてほしい。私も、手伝うから」
「……」
 
 ほんの少し、険しい表情になったように思う。
 それはリグが他人にそれを望まれたことがないからだ。
 リグが名も知らぬ誰かたちに、贖罪以外のすべてを許されないと思っているからだ。
 
「私があなたに好きな食べ物を教えてほしいと思うし、美味しいものをたくさん食べてほしいと願っているし、自分の幸せを考えてほしいと思っているの。あなたに対してそう思っている人は私以外にもいるし、私は――その中でも新人だよ。リグ、あなたが私に願ったことを、どうか――」
 
 助けて。
 誰も殺したくない。
 多分これだけが、本当に、それだけを望んでいるのなら。
 
「――誰も殺したく、ない。殺してほしくない。協力、してくれる……?」
「! ……うん。私はそのためにここに来たんだもの」
「……。……君はダロアログから逃れてほしい。僕の体調が戻るまで捕まらないで、利用されないでほしい。君と一緒に召喚された人間。君の周りにいた人間も、全部元の姿で元の世界に帰したい。……シドが殺されないように守ってほしい。シドは強いから、全部自分で守ろうとする。けれど、僕は……シドにも誰も殺してほしくない。シドが誰かを殺したいわけではないのを知っている。守るために、死なないために殺すしかないのはわかっているけれど、それでも……」
 
 うん、と頷いて、俯いたリグの額に額をコツンと軽くぶつけた。
 
「……参ったな」
 
 ぼり、と頭を掻く音。
 レイオンが深く溜息を吐く。
 
「全部“自分”のことじゃないときたもんだ」
「……そうですね」
「ねぇ、リグのお兄さん。やっぱりボクに剣をくれない? 折れない剣。ボク今度は絶対折らないから。あ、でも新しく作らなくていいからね」
「オレも協力しますからね。オレは元の世界に帰るかどうか、正直まだ悩んでますけど。他のみんなは、帰りたいって言ってたから」

 ね、と首を傾げて見せる。
 一人では無理でも、助けようとしてくれる人はたくさんいる。
 だからきっと、なんとなかる。
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