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先輩たちに捧ぐ冬の陣
しおりを挟む十二月二十五日からIG冬の陣が開催。
ルール自体は夏の陣と同じ。
初日、二日目も問題なく勝ち進むことができた。
元々冬の陣は夏の陣よりも知名度の高さが有利。
夏の陣で活躍したグループは勝ち上がりやすい。
その中でも、星光騎士団――と、いうよりも、Frenzyの情報が出たばかりの『音無淳』の注目度は淳が思っていたよりも高かった。
もちろん主催スポンサーの春日社長の力もあるのだろうけれど、やはりシルエットで一人一人メンバー発表されるのが相当に効いている。
本来ならこのアイドル戦国時代……毎月数組デビューするアイドルグループは世間でそれほど話題にされることがない。
音無家もドルオタだが、どこの事務所からどんなグループがデビューした、くらいの情報しか終えていないのが実情だ。
そんな中、あのデビューしてすぐIG三連覇の殿堂入りという伝説を打ち立てたBlossomの後輩として大々的にデビューが発表されたのがFrenzy。
しかも広告のかけ方が普通じゃない。
eスポーツ世界大会の合間にデビュー告知の告知、マンバー発表日が発表され、実際にメンバーが発表されてからは推測や憶測、考察班がSNSをにぎわせた。
そんな考察班でも予想できなかった二人目のメンバー。
いまだに尾を引くその考察の話題のトドメが、IG冬の陣の最終日に三人目のメンバー発表。
正直、淳に対するインタビューもそちらの話題が多い。
インタビュワーも、Frenzyの話にどうやって持って行こうか、そんな目をしている。
まあ、それは仕方ない。
二人目のメンバーである松田は基本的に配信でしか人前に出ないのだ。
その配信も、お知らせ雑談、という形で五日前に一回配信されてリスナーからの質問にさしあたりのない範囲でしか答えていない。
なにが恐ろしいって、それだけの雑談の配信がすでに二桁にも及ぶ数が切り抜かれているところ。
その雑談配信が別のSNSに共有され、さらに拡散。
新情報なんてほぼ出ていないのに、その“ほぼ”の部分を切り抜いて再びあーでもないこーでもないと考察が捗っているらしい。
げに恐ろしきは人の好奇心か。
そんな、まさに圧倒的な話題性で星光騎士団は優勝決定戦まで来てしまった。
一軍メンバーになった宇月が「Frenzy様様なんだけどぉ♪」とご機嫌なのはいいことだけれど、淳としては変な気苦労を感じて休憩時間に肩を落としてしまう。
もちろん、ここまできたら優勝して星光騎士団にもFrenzyにも箔をつけてやろうと思うのだけれど。
それでなくとも宇月と後藤の公式なアイドルとしての大会はこれが最後。
二人の卒業前に、IG優勝の悲願を遂げたい。
綾城珀がいた時にすら――いや、綾城はBlossomのリーダーとしても全力を尽くし、そちらがプロアイドルとしての実力を示したのだけれど――達成しえなかった優勝。
(多分、星光騎士団として俺が関わる中でこれが星光騎士団メンバーとして最初で最後のチャンス)
だから本気で、全力で、一切の手を抜かず全力で、歌おう。
やはり卒業前の宇月と後藤への手向けとしてどうしても欲しい。
宇月が団長だからここが限界?
そんなことはない。
アイドルとして二人のこれが限界だなんて絶対にそんなことはない。
せっかくほぼ無事に決勝まで来れたのだから、ここで優勝を獲っておかねばいつ獲るというのだ。
「星光騎士団の皆さん、決勝の準備よろしくお願いいたします」
「はーい」
ゆるい返事をする宇月がスマホをロッカーの中の鞄に放り込んで背伸びをする。
夏の陣よりも過ごしやすい気候の中でとはいえ、真冬の外のステージはそれはそれでしんどい。
「ここまで来たら勝って終わりにしよー」
「そうですね」
「相手のグループ名前ナンダッケ?」
「嘘でしょう? 魁星」
「Lethalだね」
「え」
そう、なんの因果か、夏の陣で星光騎士団が最後に戦ったアイドル『Lethal』。
まさか冬の陣でも最後に戦うことになるとは。
「えー、じゃあ今度は勝たないとじゃん」
「そうですよ。人数でも話題性でもこちらが勝っていますからね。今回は負ける要素はないですよ」
「うんうん。同じ相手に二回も負けるわけにはいかないよね」
淳が微笑むと、感化されたのか鏡音の目つきがゲームをしている時のものに変わる。
柳は元々もう笑みがない。
一年生二人は大好きな宇月のために、絶対に勝つ気満々。
あまりそうは見えないが、この二人元来結構な負けず嫌い。
同じ相手に二回も負ける、なんて言われたら負けず嫌いが発動するに決まっている。
ステージ裏に移動してLethalと顔を合わせた。
向こうもなにかしら思うところがあるような表情。
しかし、やはり一度夏の陣で勝っているからか、なんとなく余裕を漂わせている気がする。
淳がにっこり微笑むと、Lethalのリーダー奥谷真継がにこにこ笑い返してきた。
多分淳の笑顔の意味が通じていない。
ああいう鈍感な人はこういう時に揺るがないので強いのだ。
ステージに登り、先にパフォーマンスをするのは星光騎士団。
「楽しんで終わらせようね」
なにがとは言わないけれど。
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