101 / 553
Blossomの快進撃
しおりを挟む「俺、疲れたからもう寝る~」
「自分も明日に備えて休みますね。淳はまた会場を見に行くのですか?」
「行くよ~! 年に二回の超大型アイドル祭だもーん!」
ホテルに屋台の食べ物を持ち込み、周と魁星は部屋に直行するという。
淳は屋台側の立ち見席に移動して、遠くからでも『Blossom』の二日目パフォーマンスを見る機会満々。
しかしやはり、午後は人が増える。
夏休みで学生も多いし、昨日のパフォーマンスでファンが爆増しているのだろう。
わかる、と推しうちわとサイリウムを持ちながら、モニターを見上げる。
ステージは遠すぎてよくわからないが、会場のあちこちにモニターが設置してあるのでそれを見るのだ。
登場してきた『Blossom』メンバーは、綾城珀と甘夏拳志郎の二人のみ!
昨日のパフォーマンスがツルカミコンビだったので、今日は綾城と甘夏の綾甘コンビの曲らしい。
ツルカミコンビのように武士と騎士のようではなく、拳士と騎士のイメージの曲。
驚いたのは甘夏の高音の安定性。
動きながらあの高音を安定して出せるのは純粋にすごい。
なにより――
「きゃぁぁぁあああ! 珀様ぁー!」
「かっこいいー!」
「珀様ぁー!」
綾城珀への声援が凄まじい。
昨日のツルカミコンビのパフォーマンスを見たあとでは、やはりやや物足りなさはあるのだろうが綾城珀の顔面が良すぎる。
歌も、ダンスも。
そこからMCに入り、自己紹介からの可愛い会話。
主に先輩たちへの愚痴?
『昨日先輩たちのパフォーマンス、見ました?』
『俺も見ました! めっちゃヤバいですよね! あれ、歌えるんだ!? ってなりましたよ! あの人たちなんですかね!? 超人!?』
会場の「それな」感。
同調が会場中に広がり、その共感で満ちる。
花崗の交流のやり方も、このような共感もファンの好感度がアップする。
初心者のはずなのに、上手いやり方だ。
『我々は五月にデビューしたばかりなので、知名度はまだまだだと――』
『ハァーーーーーー? なんで俺たちのこと知らないとか言ってんのぉ? そんなの許すわけないよね?』
舞台袖からツルカミコンビが出てきた。
その登場に会場が揺れるほどの『ぎゃーーーー!』という悲鳴が上がる。
その瞬間、綾城と甘夏が上着を脱ぎ捨ててステージの後ろへ放り投げた。
衣装のイメージがまったく別物になり、ツルカミコンビと同じ統一衣装になる。
つまり、これは――!
『遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 我らが春日芸能事務所のアイドル、Blossom! さあ、今から我らが歌うのも新曲でありますぞ!』
『ほらほら、いいねを押し忘れてる子は連打してよね? あ、春日芸能事務所のワイチューブチャンネルで十六時か、今日の新曲のMVが公開されるからチャンネル登録してよねー』
『紳士淑女の皆様、特に前のお席の皆様はご注意ください』
四人の声が揃い、新曲名が唱えられる。
空いた口が塞がらなくなった。
昨日、ツルカミコンビが歌ったのも今し方綾城と甘夏が歌ったのも新曲。
そして、今から歌うのも――
(まさか! 何曲新曲用意しているんだ、この人たち!)
IGは曲数が必要不可欠。
同じ曲ばかりを歌えば『いいね!』やアンケート投票はなかなかもらえない。
星光騎士団や魔王軍、勇士隊のように歴史があり手持ちの弾が多ければ多いほどお客さんを飽きさせることは少ない。
しかし、Blossomは今年の五月にデビューしたばかり。
デビュー曲はまだ一度も歌っておらず、イントロが間違いなく新曲。
前へ出た綾城と甘夏に、優雅に一回転して後列へ行くツルカミコンビ。
なにをどうするのかと思えば、完全に全員が武士の立ち居振る舞い。
曲調は和風。
殺陣を模したダンスと歌声は力強く、ダブルセンターは鶴城と甘夏。
この流れは、つまり……
(明日……綾城先輩と、神野栄治の……ダブセン曲が控えているのでは……?)
そう考えたドルオタは淳だけではないはず。
淳自身スマホから『いいね!』を押しまくる。
案の定、ドルオタたちは同じ考察に駆られてBlossomに『いいね』を押しまくり。
ツブヤキッターは本日もトレンド入り。
あっという間に本日の出演者トップに躍り出た。
完全に流れがBlossomに向いている。
たったの二日で、バズアイドルになった。
個々の知名度が高いのもそうだが、パフォーマンスの方向性がすべてスタイリッシュでカッコいい。
和風なのに突然ラップが入って、淳はかっこよすぎてちょっと泣いた。
しかもオタクの妄想を掻き立てる。
曲が終わるとワア、と歓声が上がった。
『明日は俺とはーくんの曲、あるよ』
『ぎゃあああああああああああああ!』
退場前にウインクつきで神野が宣言したために、屋台ブースの方まで歓声で空気が揺れる。
マジ、神野栄治ドルオタをおちょくるのが得意すぎる。
いや、もう本当にわかっておられる。
Blossomが退場して隣のステージに対抗相手のグループのパフォーマンスが始まるのに、完成がまだ終わらない。
まったく速度が落ちない、Blossomの快進撃。
今日も相手が可哀想になるほどだ。
これは、あるかもしれない。
かつて『CRYWN』しかなし得ていない――初出場初優勝の偉業の再現が。
(物販寄ってみよ……!)
115
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
妹に婚約者を取られるなんてよくある話
龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。
そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。
結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。
さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。
家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。
いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。
*ご都合主義です
*更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる