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しっかりめの休息を(2)
しおりを挟む『寂しいので誰がSBO一緒にやりません?』
という文言が、ピコン、と出た。
なるほど、と淳は目を閉じる。
『はい! 俺、いけます!』
『ふざけてへんで、休め』
元気に挙手する淳。
花崗先輩より、笑顔でブチギレのようなメッセージが載る。
まずいか、と思ったがさらに続けて『僕も珀先輩とナッシーは休むべきだと思う』と宇月から嗜められた。
いよいよアカンか。
後藤から『二人とも休んでください』とトドメ。
アカンか。
絶対綾城、今しょんぼりした顔をしていることだろう。
どちらにしても今週いっぱいはお休みをもらっている。
フルダイブ型なら体を横たえて休ませたまま、SBOで遊ぶことはできるが――
(まあ、VRMMO自体、脳負荷が大きいものだからなぁ……ダメだよねぇ……)
と、しょんぼりする淳。
そういえば、魁星と周はチャットルームに登場しないがまさかまだ眠っているのだろうか?
淳は半日以上眠ってしまったが、あの二人はまだ、寝ている?
「うーん……これ以上寝るのもなぁ……」
寝過ぎて頭が痛くなりそうだ。
つまりこれ以上寝るのはよくない。
ネットで『疲労、取る』で検索すると『上質な睡眠を取る』『バランスのよい食事を摂る』『生活バランスを整える』とのこと。
うーん、と改めて首を傾げてから、地下スタジオにジャージで赴き軽いストレッチを始める。
外に走りに行くには陽射しも気温もきつい。
冷房の効いたスタジオで少し走って軽く汗をかき、一階に戻ってシャワーを浴びる。
冷蔵庫を確認して“バランスのいい食事”を作って食べた。
両親と智子の分も作って冷蔵庫に入れておいて、歯を磨いて二階の自室に戻ってベッドに倒れ込んだ。
程よく運動したことと、食事を摂ったことですぐに睡魔が襲ってくる。
やはり体の疲労はそう簡単には取れそうにない。
(起きたらワイチューブで『Blossom』の新曲全部聴き直そう)
スヤ……と意識が遠のく。
完全に寝ついた淳のスマホがピコン、と通知を鳴らす。
『【重要】一年A組 音無淳 様。東雲学院芸能科より、複数事務所より所属に関する勧誘がきております。詳細は――』
◇◆◇◆◇
「ゥウゥゥゥゥ……」
「うううう……」
「魁星と周、どしたん?」
「えーと、複数の事務所からスカウトが来てて、条件がどこも一長一短で頭を抱えている感じかな」
「ぜ、贅沢ー!」
翌週、月曜日。
ネットと地上波のニュース番組を未だ賑わすIG夏の陣の結果。
一年A組は、負のオーラを放つ魁星と周にブーイングが起こっていた。
それも仕方なのないこと。
今まで同じ土俵の、『何者でもないアイドルを名乗る新人』が一躍有名になったのだ。
事務所からのスカウトは――淳はすべてお断り。
なんでも凛咲先生曰く「お前なー、事務所の研修生になってんなら他の事務所からの声がけを全部学院の方で堰き止めてもらえるように手続きしておけよー! 連絡の振り分けする事務職員さんに余計な手間かけさせるなー」とのことで、朝一番で手続きしてきた。
しかし、事務室のまだ決まっていない魁星と周は大変なことになっている。
なんと十数社の事務所から声がかかった。
ただ、あまり大きなところはなく、凛咲や二、三年生ズには「あんまりいい事務所ないな」とのこと。
条件も研修生から研修生見習い、養成所に入りませんか系。
養成所はこちらがお金を支払う場合もあり、このあたりは全部断れ、と凛咲先生の指示が出るほど。
かなり安く見られている、ということだ。
そもそも、東雲学院芸能科がある意味“養成所”のような場所なのだから、さらに金を払って習うことはない。
それでも十社は残っており、所属が条件に上がっているのは三社。
問題はそれらの事務所が綾城曰く「できたばかりで他の所属タレントの名前がない」ところ。
春日芸能事務所よりも方向性がわからない上、綾城が春日社長から聞いた話だと「そういう事務所はタレントを集めて、中堅どころの事務所に買収・吸収されてしまうことが多々あり、そのいざこざでクビを切られることも多いからやめた方が無難」なのだとか。
話が怖すぎて、一年生たちは震えた。
なので、淳と同じ研修生見習いなどを除いた研修生確約の三社がいいのでは、と後藤が絞り込んでくれたのだ。
だがその三社も中堅どころの中でも下の方で、アイドルについては力を入れているわけではない場所。
宇月が「青田買いで唾つけとけ、ってのが見え見えなんだよねぇー」とメッセージでも渋い顔をしているのがわかるコメント。
ついには花崗が「一年の間に研修生になる必要ないんとちゃう? 二年、三年に上がれば卒業後所属を条件に出してくる事務所も出てくるやろうし、今回の件で事務所について勉強して、入りたい事務所のオーディション受けるようにした方が絶対ええと思うけど。今回の準優勝は、履歴書に書けるし強いでぇ?」と全部断る、という選択肢まで突きつけてくる始末。
だが、言っていることはかなり的を得ている気がする。
正直、淳も花崗と同意見。
淳のように憧れの人がいる事務所だから、という理由があるわけではないのなら、今すぐ慌てて所属先を決める必要はないのではないだろうかと思う。
一度所属すると、手軽に他の事務所という選択肢を取ることができなくなる。
断って、改めて成長してから門を叩くのも手、と綾城も「一回全部断ったら?」と花崗に賛成していた。
で、周は明確に自分の進みたい進路が決まっているわけではないので三年生の言う通り今回のオファーはすべて断るつもりとのこと。
だが、断ったあと条件を上げてきたところがある。
最初に切り捨てた、『うちの事務所の養成所に入りませんか?』と言ってきた数社のうちの二社。
即所属、にしてきた。
条件を上げすぎ! とのことで、逆に不審に思った宇月が全力で「はんたーい!」とびっくりマーク多めで主張。
淳も同意見。
しかし、自立を目指す周には即所属があまりにも魅力的で頭を悩ませている。
そして、お金のない魁星も「研修生でも、仕事がもらえるなら……」と天を仰いでいる状態。
天皚の言う通り、なんていう贅沢な悩みなのだろうか。
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