130 / 553
御上千景(3)
しおりを挟む「あ、来月は急すぎるかな? じゃあ再来月は? 十月は学アイもあるけど……別に練習キツくはないよね?」
「あ、う、うん……え? え?」
「あ、俺だけじゃ不安? じゃあ他にも何人か誘ってみようか? とりあえず周と魁星にも声かけて~、天皚と……興味ありそうな子にも声かけてみようか? 一年生で興味ある子が集まって歌った方がお客さんに顔と名前覚えてもらう機会になるよね」
「え……あ……」
「あ! ごめん! 一人で勝手に盛り上がっちゃって……! 御上くんの曲がどんなものなのかも聴いてないのに」
「う、ううん……! いや、あの……でも……あの、あの、ほ、ほほほ、本気で……あの、う、歌……ぼ、ぼくの、曲……歌、って、く、くれ、るの?」
「どんな曲なのかわからないけど、せっかく作ったなら披露した方がいいんじゃない? ダメ?」
と、淳が首を傾げると、御上は涙まで浮かべる。
あ、これはしくじったか?
焦って謝りそうになったが、御上は「アイドルに」と呟くので飲み込んで続きの言葉を待つ。
「――あ……アイドルに……う、歌って……も、もらいたくて……書いた……か、ら……」
今度は淳が目を見開いた。
自分もそれなりにドルオタだと思っていたけれど、アイドルのために曲を書いている御上の、なんと一途なことだろう。
アイドルに歌ってほしいと曲を書くなんて、なんて、なんて……。
(なんて純粋にアイドルを愛している人なんだろう……)
震えながら楽譜を握る手を握ってしまう。
盛大にビクンと跳ねる御上。
そんな話を聞いてしまったら、淳も後には引けない。
「うん! 歌おう!」
アイドルに歌ってもらいたいという、夢。
それを叶えたいし、そんな曲なら“アイドルとして”歌いたい。
しかしそれならダンスもほしい。
いや、その前に楽譜から曲に起こさなければ。
「よーし! やろう! よろしくね、御上くん! あ、改めて――俺はA組の音無淳です!」
「……び、B組……の、み、御上、千景……です」
その日のうちにガーデンテラスに千景を誘って、決めらることを決めていく。
衣装の発注、楽曲の演奏と収録の依頼先、イーストホームに専用チャットルームの設置と登録、振付作成依頼、仮歌収録、レッスンスタジオの予約、学院へのコラボユニット申請。
「コラボユニット名はなににしようか? 希望ある?」
「え、え、え、え」
「俺たち二人だけなら名前から一文字取って繋げればいいけど、それだと他の人を誘って『やりたい!』って参加してもらった時におかしくなるしね。うーん……俺そんなにネーミングセンスがあるわけじゃないからどうしよう? 千景くん、希望ある?」
「ひぃ! しししししし下の名前……!」
「あ、嫌だった?」
「いいいぃぃ嫌だなんてそそそんな! おぉ恐れ多いというか、ぼくなんかの下の名前なんて薄暗い感じしかしないのにそんな名前をおおぉぉ、音無くんに呼ばれるなんて現実味がないと言うか……」
すごい、完全にオタクの早口だ。
というか――
「間違ってたらあれだけど、千景くんって東雲学院芸能科アイドル、一年生も全員顔と名前覚えている……?」
「…………」
カァーーーと耳まで真っ赤にして顔を隠す。
確信した。
完全に、淳と同志だ。
「嬉しい~~! 俺も俺も! 俺も一年生全員の推しうちわ作ったしグッズも買った~~~! 自分のはサンプルでもらってるけど~」
「!! か、買いました……」
「やっぱりぃ!?」
一年生のグッズはサイン入りサイリウムと顔と名前の入った缶バッジ、名前入りタオル。
デビューと同時に学院で作られたグッズは全部揃えて保管する。
見切りをつけるのが早い子だと、二学期で普通科に移動してしまう。
数万円が旅立つが、そのアイドルの“いた”痕跡はデビュー直後に出るこのグッズだけになることが多いのだ。
「あ……あの、音無くんは、だ、だれ、推し……ですか……? あの、一年生だと……」
「えー、悩むな~! みんなそれぞれいいところがあるもんね。人目を引くっていったらやっぱり魁星と日守くんと御上くんだし、ダンスが上手い勢と歌が上手い勢とそれぞれだし、今はまだ特性みたいなのが見えないこれから育って個性が出てくるんだろうな~っていう子ばっかりで……」
「わかります、わかります……! ここからどんなふうに成長していってくれるんだろうって……き、期待がすごくて……! あの、あの、ぼくはもう、デビューライブの時に音無くんが、その、声が全然出ていなくて、苦しそうに歌う姿がハラハラして……でも、IGでものすごく歌が上手くなっててびっくりしたんですけど……あの」
「あ、俺、上半期は声変わりで全然歌が歌えなかったんだ。無理しちゃダメって親からも医者からも先輩達からも言われてたし」
「そ、そうだったんですね……そこからIGでセンターを張りながら一年生専用曲を歌っていて、も、もうすごく感動しちゃいまして……! そ、そ、そ、その……あの……ファンになっちゃって……」
一拍の間。
一瞬キョトン、となにを言われているんだ? となる。
105
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
妹に婚約者を取られるなんてよくある話
龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。
そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。
結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。
さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。
家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。
いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。
*ご都合主義です
*更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる