ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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御上千景(4)

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「俺の!?」
「そ、そうです~。すみませんすみません、ぼくなんかがおこがましいことを言っているのはわかっているんですけど本人が目の前にいて眩しいし優しいし夢みたいだしこれは現実? っていうかぼくなんかに話しかけてくれるし名前も知っててくれるし色々限界でむむむむりなんです色々、本当にー! でも一緒にコラボユニットを組んで一緒にぼくの作曲した歌を歌おうっていうお誘いがあまりにも魅力的すぎて音無くんの眩しさも相まって抗うのが非常に難しくてぼくみたいなゴミ虫クソ隠キャが非常に分不相応なことをしている自覚はあるんですけど夢なら覚めないでほしいというか」
「落ち着いて」
 
 オタク特有の早口。
 ガチだ。
 落ち着いて、と言ったはいいが、内心は淳もそれどころではなくなっている。
 久しく、こんな感覚は味わっていない。
 顔がどんどん、熱くなる。
 
「あ……ありがとう……」
 
 ファンです、なんて面と向かって言われたことはない。
 淳にとってアイドルは追いかけて愛するものだ。
 でも目の前の彼が向けるのは、淳がアイドルに向ける感情モノ
 
(あ……ああ……そっか……俺……俺、アイドルに……なったんだっけ)
 
 音無淳というアイドルは、アイドルを演じて形作られているものだ。
 別にそれは間違っていない。
 愛されるためのキャラ付けは、古今東西どのアイドルもやってきたこと。
 あのCRYWNクラウンの前進Ri☆Threeリ・スリーは三人とも実際の性格と真逆のようなキャラ付けをしていたことで有名。
 架空の、理想のアイドルを演じてなにも悪くない。
 むしろ綾城や花崗のように比較的素の性格のままアイドルとして活動している方が、すごい。
 素が、すでにアイドルらしいのだから。
 でもそんな“量産型”のような、人が理想とする“アイドル像”を演じている淳を、純粋に選んでくれた・・・・・・
 
「――でも、千景くんもアイドルだよ」
 
 この学院にいるのは、ほとんどがアイドル。
 卒業したらアイドルを辞めて、別の道を進む人ばかりだけれど。
 少なくとも、今、この学院に通っている間は。
 そう言うと唇を震わせながら見上げられた。
 
「…………………………カッコいい………………」
「え? なんて?」
 
 顔を両手で覆い、後ろに仰け反りながらものすごく小さな声で淳には聞こえなかった。
 困惑して聞き返すが覆っていた手を取った千景は涙を滲ませていて、深く突っ込むのが怖くなってしまう。
 な、泣かせた?
 
「な、なんかもう、い、色々……テキパキ、決めていくところとか……す、すごい」
「あ、あー。色々、事務手続きのやり方やライブ準備のあれそれとかは声が出ない時に自分にできることを、って思って、先輩が教えてくれていたんだ。役に立ってよかったよ」
「ぐぅぁぁぁぁぁあ……カッコいい……」
「え? 千景くん? 本当にさっきからなに……? え?」
 
 ものすごく小声すぎてなにか言ってるらしいのだが、淳にはちっとも聞こえない。
 なにか不安なことがあるなら相談してほしいのだが。
 正直淳も自分でコラボユニットを作ってライブをするのは初めてなので、不備があるかもしれない。
 
(うーん、一応書類と企画書は骨組みができた感じだけど……コラボユニット名がなぁ……)
 
 当の千景はなんかよくわからないが泣きながら楽譜ノートを取り出して音符を書き始める始末。
 先輩たちには「まだゆっくりしてきていいし、なんなら直帰して明日に備えて休んでもいいよ」とメッセージをもらったけれど。
 ひとまず『勇士隊の一年生、御上千景くんとコラボユニットでライブしたいんですが、いいですか?』と星光騎士団のチャットルームにメッセージを入れる。
 すぐに先輩ズから『え、いいねぇ』『おもろそうやん。やったれやったれ』『わからないことがあったらなんでも聞いてください。衣装とか手伝います』『いんじゃないのぉ? 仕事に支障が出ないら~』と全肯定。
 うちの先輩ズ優しい。
 魁星と周を誘おうと思っていたが、あの二人は既読すらつかない。
 寝てるのかもしれないが、もう午後。
 スマホを見ていない可能性もある。
 
「あ、あの……コ、コラボユニット名、なんですが……」
「なにか希望ある?」
「ス、『Stars bornスターズ・ボーン』はいかがでしょうか……う、産まれた星……という意味で……」
「『Stars bornスターズ・ボーン』、いいね! それで申請しておくね!」
「ええええええ!? ほ、本当にそれでいいんですか!?」
「え? なんで?」
 
 提案したのは千景だ。
 まさか淳が反対すると思ったんだろうか?
 産まれた星、いいと思うのだが、普通に。
 アイドルとして生まれたばかりの自分たちは、まさにそう呼ばれて相応しい。
 
「だ、だって、ぼ、ぼくが考えたんですよ……? だ、ダサくないですか?」
「ダサくないよ?」
「や、優しい……」
「千景くん自己評価低すぎない?」
「え、それはあの、じ、自分ずっとデブで眼鏡で臭くてキモイド底辺のゴミキモブタで……カースト最階位で生きてきていて……」
 
 じわ、と涙を滲ませる千景。
 一年生でトップクラスに顔面の綺麗な千景が?
 正直申し訳がなくなるくらい信じられない。
 
「学校に行くのが嫌で、近くの公園にいた時……い……憩星矢いこいせいやさんが、声をかけてくれたんです……」
「十二代目勇士隊君主!」
「は、はい! 星光騎士団の十二代目、神野栄治さんや鶴城一晴さんが有名すぎて、今はもうアイドルを辞めてしまったそうですが……ぼく、あの人が放課後公園でいつも練習しているのを見ていて、たまに定期ライブを観に来いって言ってもらって……それで……定期ライブを観に行くようになって……」




*****

知っていると面白いかもしれない設定

東雲学院芸能科は男子校舎と女子校舎に分かれており、扱いは共学だが完全に男女分かれている。※普通科は同じ校舎で教室も男女混合。
これは芸能科の性質上、スキャンダルを避けたりファン層に余計な火種を与えないためだったり練習や仕事に集中させるためだったり、理由は様々。
校舎自体、普通科校舎を挟んだ正反対の場所に正門があったり高い外壁で囲まれて警備会社が入っていたりと非常に厳重。
しかし男子校舎・女子校舎の構造はほぼ同じで、校舎、室内プール付きでライブにも使える体育館、グラウンド、練習棟、ライブ会場にも使える大型講堂、温室、庭園、ガーデンテラスとそこに隣接するカフェ、野外大型ライブステージなどがある。

練習棟は基本的にアイドル活動をする専用の別棟。
古参の大手三グループはワンフロアが与えられている。
大手三大グループのフロアはレッスンスタジオが二つ、ロッカールーム、シャワールーム、PC室、収録スタジオ、仮眠室、給湯室と簡易キッチン、倉庫、視聴覚室、自習室、資料室、多目的個室が二つなど設備が非常に充実している。
それだけでなくエレベーターホールから監視カメラ、各部屋には24時間更新の『イースト・ホーム』発行パスワードが必須と警備も厳重。
なお、フロア分けは三階が星光騎士団、四階が魔王軍、五階が勇士隊。
一階、二階は中堅や新規グループの共有のレッスンスタジオが複数(※レンタル予約必須)や更衣室やロッカールーム、共同シャワールーム、共有キッチン、PC室完備。
グループ専用の個室は六階にレンタル料を支払うことで借りられる。※一室につき年間5000~10000円。グループ人数と広さによって選べる。
七階は共有倉庫、仮眠室。

女子校舎側も練習棟があり、構造も同じである。

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