ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

文字の大きさ
152 / 553

リーダー会議(2)

しおりを挟む

「じゃあ、芽黒の方から頼んでもらっていい? 一応そっちのチームのことだから」
「そうだな。了解。チームAは順調でいいなぁ……」
 
 と、心底羨ましそうに呟かれる。
 メンバーが決まった時からそうなる気がした。
 
「あ、ヤバ。もうこんな時間か! 今日このあと定期のリーダー会議なんだ! 俺もう行かないと!」
「そうなんだ? 引き留めてごめんね」
「ううん。またな~」
 
 そう言って芽黒が教室を出て行く。
 リーダー会議といえば、二ヶ月に一度ある
 
 
 ◇◆◇◆◇
 
 
 練習棟一階、ブリーフィングルーム。
 月一に行われるリーダー会議。
 
「学アイ中止……ですか?」
 
 綾城が回された書類を手に取って目を丸くする。
 そこに記載してあるのは『学アイラブトーナメント中止のお知らせ』とデカデカ書いてあった。
『学アイラブトーナメント』は毎年恒例の学生セミプロアイドル限定のトーナメントイベント。
 今年で第六回、ということで、定番化していた。
 発祥は学園祭で、複数の芸能科セミプロアイドルを集めてトーナメントを始めたところからだと言われている。
 ネットで放送もされ、三年目から人気にじわじわ火がつき始め、去年はついに複数のスポンサーがつくまでになった。
 今年もすでに参加者募集がされており、東雲学院芸能科のアイドルたちもほとんどが参加申請をし終えたはずだ。
 だというのに、九月も末……明後日には定期ライブだというのにこのタイミングで中止とは。
 
「学アイ運営から今朝、連絡がきた。主催が急な資金不足で開催不可能になったとのことだ。来年以降もおそらく無理だろう、だとさ」
「それはそれは……」
「スポンサーが撤退したってことですか?」
 
 魔王軍、星光騎士団、勇士隊は『学アイ』に出演できなくても痛手はない。
 が、小中規模のグループにはそれなりに痛い。
 なにしろ、あのトーナメントイベントは一攫千金の大チャンス。
 あのトーナメントで上位に入っただけでも一年分の活動資金が手に入る。
 東雲学院芸能科としても、活動費の資金繰りにはそれなりに補助は出しているのだが、なにぶん本人たちの活動が世間にあまり評価されない。
 しょせんはセミプロ――と思われているのだ。
 今回のIG夏の陣で、星光騎士団が準優勝したことはきっとその改善に繋がるとは思うが。
 小中規模のグループのリーダーたちは、学アイ中止に頭を抱えていた。
 
「うーん、なにか補填するイベントが必要になるのではないでしょうか?」
 
 と、綾城が教師陣の座る席に視線をやると、教師たちは顔を見合わせる。
 凛咲が「実はそういう申し出は来てるんだけどな、東雲学院理事のお一人から」と不快そうに口にした。
 それは願ったり叶ったりなのでは、という声に対して「東雲周しののめあまねのご両親からなんだ」と言うと綾城から表情が消える。
 その綾城を見て、少なくとも三年生のリーダーたちはなにかを察した。
 
「な、なにかまずいんですか?」
 
 と、一年生で唯一のリーダー芽黒が隣の席の二年生グループ『Colorカラー』リーダー、夏山真紅なつやましんくぶ話しかける。
 そう聞かれても、夏山も綾城とかかわりがあるわけではないので首を横に振った。
 二年生からしても、IG夏の陣準優勝グループのリーダーは雲の上の人。
 
「それは確かに無理ですね」
「ともかく、そういうことだから活動費に困窮しているグループは資金繰りを頑張れ! 死に物狂いで仕事を取ってこーい」
「「「ええええええ」」」
 
 倉治先生の宣言に、阿鼻叫喚となるブリーフィングルーム。
 あまりにも雑。
 そこで綾城が手を挙げる。
 
「どうした、綾城」
「実は僕の所属事務所社長が事務所経由で紫電株式会社とソルロックからフルフェイスマスク型VR機対応VRMMO『SBO』でのステージライブ営業を、東雲学院芸能科のアイドルにやってほしいと今月も追加でフルフェイスマスク型VR機を提供したいと」
「あれな! いいと思う!」
「ステージライブ営業?」
 
 なにそれ、と勇士隊の石動が顔を上げる。
 綾城の代わりに凛咲が「あーなんかゲームの中でライブできるんだ! すごかったぞ!」と説明になってない説明をした。
 仕方なく綾城が「SBOを開発した紫電株式会社とフルフェイスマスク型VR機を開発したソルロックから、SBO内のステージでライブをするとゲーム内通貨で報酬が支払われるんです」と説明。
 そのゲーム内通貨はユーザーがカラオケ機能を使うために課金したリアル通貨の一部から手数料等を抜いて支払われる。
 ゲーム内通貨3000ソング以上からリアルの通貨に換金ができるようになるため、小遣い稼ぎにはぴったり。
 しかも今後はゲーム内でグッズの製作販売も行える。
 それらの売上も自分たちの収入活動費にできたなら、現実の仕事に繋げていけるかもしれない。
 
「こちらの二社から東雲学院芸能科にもプロモーションの提携依頼が来ているんだよな。これを大々的に受けて、東雲学院芸能科のアイドルがステージでライブしたりグッズの売り上げで得た収益を、学院側で管理した方がいいんじゃないか?」
「確かに。納税のこともあるしな」
「安定的な活動費の確保のために、こういうものを使うのもありなのか?」
「可能だと思います」
 
 ここからは頭のいい人たちによる「広告収入の割合」「ゲーム内に東雲学院芸能科公式グッズ販売所を設置してはどうか」「その売り上げを校内売り上げにカウントしてはどうか」などの話しで盛り上がっていく。
 置き去りにされつつあるあんまり頭のよくない芽黒。
 
(俺、必要?)
 
 もはや菩薩の顔になった。



しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」 幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

処理中です...