ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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日守、初めてのVRMMO

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 と、いうわけでチョロい日守に練習棟のシャワールームへ「まずお風呂入っておこう。汗臭いよ」と笑顔でお風呂を勧め、自分たちもシャワーを浴びてから軽食を食べて淳は『イースト・ホーム』の星光騎士団チャットルームで今後の予定を報告。
 魁星と周は空きステージでライブをして、少しでもグッズ売上を上げることにしていたため返事はつかなかったが、先輩たちからは『了解』『頑張って』『無理せんといてな』『ほどほどに』とそれぞれのお返事がきた。
 そのまま練習棟一階にあるパソコン室に行って、フルフェイスマスク型VR機を接続、設定も行ってあげる。
 
「こんな時間からゲーム始めていいのかよ?」
「学院側とグループの先輩たちから許可はもらっているし、ゲーム内でイベントの準備をしなきゃいけないから早くログインするのは別にいいんだよ」
「は、はい。あの、だから日守くんの、レベリングにちょっとつき合ってあげられるよ。ショップの最終チェックとか、ステージの段取りチェックとかしなきゃいけないから、二時間くらい?」
 
 今の時間は午後三時。
 SBO内でのステージイベントは二十時から。
 十九時から最終リハーサルとチェックをしなければならない。
 なので、その前に一時間から二時間ほどショップの不備などないかのチェックに行かなければならない。
 日守のレベリングにつき合えるのは、二時間くらいかねぇ、と話し合う。
 
「は? 俺、それまでお前らにつき合わなきゃいけないってこと?」
「ショップの最終チェックあとに一度ログアウトして夕飯食べる予定だけど、日守くんだけ先に夕飯食べてきてもいいよ? 少し休憩もしたいだろうし」
「う……べ、別に……いいけど……」
 
 じゃあ、そういうことにしようか、ということになってひとまず全員でログインした。
 パソコン室には十台のフルフェイスマスク型VR機を設置してある。
 一階のパソコン質は、三大大手グループを含むすべてのグループが自由に使用できるもの。
 まだ未接続だったパソコンに、日守に渡したフルフェイスマスク型VR機を接続してやったので、日守はそれを使ってSBOにログインした。
 
「「「ゲームスタート」」」
 
 最近は定期的にログインしていたけれど、リアルの姿ではじまりの町の広場に現れた日守にギョッとする淳ことシーナと千景ことラチカ。
 時間が早いこともあり、まだ日守のことをゲーム内で知っているユーザーはかなり少なかったらしく、取り囲まれることはないにしてもバレるのも時間の問題なので『ファーストソング』の宿に連れ込む。
 そしてまずは恒例の素顔を隠す用のお気に入りアバターの作成をさせることに。
 
「名前ごと変えるのか?」
「日守くんってゲームやったことないの?」
「テレビゲームとかなら……。VR機は初期型で酔って以来苦手で、フルダイブ型も絶対酔うだろって怖くて使ったことなかったんだよ」
「ああ、そうなんだ。初期型はねぇ~、そうだよね、あれは酔うよね」
「あと、あの……俺が初期型で酔って寝込んだから……親とばあちゃんがVR機は危ないからって買ってくれなくなったっていうか」
「「……あー……」」
 
 日守の両親祖父母がいわゆる“長男教”で長男をベタベタに溺愛する一族だったらしい、という話を思い出す。
 可愛い可愛い長男ちゃんが初期型VR機で3D酔いをしてしまい、寝込んでしまったから『VR機は長男ちゃんが具合を悪くしてしまう!』イコール『悪!!』となって買い与えることをしなくなってしまったのだ。
 それで離れてしまっていたから、こんなに自分の体と変わらずに動くとは思わなかったらしい。
 
「これでレベリングすると少しずつ身体能力が上がる感じがするんだよ。現実がその感覚を覚えてて追いつくのにどうしたら効率がいいか、わかる感じ? それが練習にいいんだよね」
「その意味わかる気がする――けど、なんでそれでアバター? を、お気に入り、いくつも作る必要あんの?」
「それはね~」
 
 と、いうことでなぜアバターを複数作るのかを説明。
 ステージに立ち、ライブをする回数が増えるとログインしてすぐ“現実の姿”のままだと取り囲まれる。
 
「ファン対応は授業で教わったと思うんだけれど、それをやりたいなら止めない」
「ファン対応……?」
 
 まさか聞き返されるとは思わなくて、授業で教わった話をしたら顔を青くされた。
 魁星と周も入学初期の授業は、グループ練習が始まっていたために疲労が溜まって聞いていなかったと言っていたので、日守もそんな感じだったのかもしれない。
 で、実際ファン対応をやった経験は千景にも日守にもまったくないとか。
 
「お、音無くんは……あるのですか……? ファン対応……」
「マスコミ対応なら……? IGの時に。ファン対応は――どちらかというと“される方”かなぁ」
「わかります。ぼくもです」
 
 だよね、ですよね、と頷きあう淳と千景。
 そんな話をしつつ、日守が別の姿、別の名前の完全“レベリング専用アバター”を作り終わるのを待つ。
 これが結構、しっかり悩む日守。
 
「え……結構むずい……! 悩む……なんだこの自由度の高さ!」
「わかる」
「そういえば音無くんは……どうして女性アバターに、したんですか……?」
「基本的にリアルバレしないイコール性別は逆の方がいいかなっていうのと、それなら理想の神野栄治様似の美人系がいいかな、と思ってこうなりました。名前は『音無』から『なし』の部分を逆から読んで『シーナ』ってした」
「あ、ぼくもです……。オンラインゲームなら身バレしないのを重点的に考えて、リアルからかけ離れた姿にしますよ、ね……」
「そ、そっか。じゃあ俺も性別女、からしようかな。なんか“性別:どちらでもない”とかもあるけど」
 
 と、またも最初から悩み始める日守。
 早くしないとレベリング時間がなくなるのだが、アバター悩みたいのはとてもよくわかる。
 ゲームを開始した時の、最初の楽しい部分だ。


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