192 / 553
来年も安泰そう
しおりを挟む「――以上。IG冬の陣とコラボユニットの件は終わりです。次は来年の仕事依頼の件です」
と、タブレットを操作しつつ、星光騎士団にきている依頼を読み上げていく綾城。
花崗が「うへぁ……去年の倍以上やなぁ……」と肩を落とす。
一年生たちは「そうなんですか」としか言えないが、去年はこれの半分以下だったそうだ。
どちらかというと星光騎士団は個人の仕事が多い。
花崗と宇月はモデルの仕事が多いせいだろう。
なお、後藤は個人依頼の仕事NG。
せめて他のメンバーが一人でもいればOK。
綾城は去年から『Blossom』の練習が激増していたので、個人の仕事はほぼなかったとか。
ただ、グループの仕事は全員参加が多く、それが可能な程度には少なかった。
が、今年はやはり夏の陣以降グループ依頼が非常に多い。
個人仕事のスケジュールと照らし合わせつつ、受けられるものと条件が厳しいものなどを選別していく。
「――そういえば、俺が個人依頼で受けている演技依頼の生徒さん、来年東雲学院芸能科を受けたいそうです。先月の定期ライブを見て星光騎士団に入りたいって」
「「「へーーー」」」
淳が柳のことを話すと綾城と花崗が嬉しそうに、宇月が鬱陶しそうに返す。
宇月、早くも後輩いびりモード。
スイッチが入るのが早すぎる。
「ナッシーが個人依頼受けてる子って俳優でしょ? どんな子?」
警戒心、嫌悪感を隠しもしない宇月に苦笑いしながら「あ」と先程の会話を思い出して手を叩く。
そして宇月を手招き。
不審そうな顔をしながら近づいてきた宇月の耳元にこっそーりと「前にBL漫画原作ドラマのオーディションあったじゃないですか」と聞くと「ああ、僕がハブられたやつ」とさらに不機嫌になる。
あ……ああ……なんかそういえばなぜか宇月先輩ハブられてたな、と若干失敗を感じだがともかく「その時に受け役に選ばれた子なんですけど」と続けると、急に無表情になった。
三十秒ほど見守る。
そして淳と宇月を見守るメンバー。
「ふ…………………………ふーーーーーーん……。まあ、僕は別にBL漫画とか読まないけどーーー……ふ、ふーーーーーん……つまり俳優の仕事をもうやってる、実績のある子なわけね。ふーーーーん。そのドラマ、観てどんなやつなのか鑑定してやろうじゃん」
ごくり、と息を呑む魁星と周。
淳は口許の緩みそうなのを必死に我慢する宇月ににこり、と微笑む。
この先輩、本当に慣れてくると本当にチョロい。
チョロくて心配になる程度にはチョロい。
堂々とBLドラマを観られるので、お気に召したのか。
「BLドラマ? そういえば前にオーディションオファーあったよね」
「そうですそうです。そのオーディションに受かってる子なんですけど、年齢的にもBLということで演技に自信がないとかで劇団繋がりで演技指導の依頼が来ていたんです」
「へー。俳優実績のある子が星光騎士団を希望してくれとるんか。そりゃあなかなか将来有望な子やね」
「はい。すごい子ですよ。子役出身なので、今回の作品で一皮剥けたら“俳優”に生まれ変わると思います。……若干学力が不安らしいんですけどね」
「「え……」」
学力を言った途端、魁星と花崗が「同士?」と目を輝かせる。
複雑な感じもするけれど「らしいですね」と肯定すると学力アレ組の魁星と花崗が「え、応援しちゃう」「超歓迎」モードになった。
「ふふふ、来年にも有望な子が入ってくるかもしれないんだね。来年の騎士団長は美桜ちゃんだから、新入生加入に関しては美桜ちゃんに一任するけど、楽しみだね」
「淳はその子を推すのですか?」
「すごくいい子だから、もし無事に入学して来れたら是非に、って思うな。……というか、あの子が入ってきたらそれだけで話題になると思う」
「えー、名前は教えてもらえへんの?」
うーん、と考える。
オーディションはすでにネットで配信されているので、隠されているわけではない。
しかし、学力がいかがなものか。
もしも淳の想像以上にアレだとしたら面接でどうにかなるものなのか。
いや、彼はすでに子役として相当の知名度がある。
なら大丈夫かなぁ、と「でもあくまで志望校がうちというだけなので……」と前置きしてから「柳響くんです」と名前を出した。
綾城と花崗には目を丸くされ、驚かれる。
「え、え? マジで言うとる……!? 柳響いうたらアレやん、『プワプワアンダーグラウンド』のやまちゃんやん……! 『プワプワワッフル』のやまちゃんやん……!」
「そうです」
「なにそれ」
「さあ?」
「魁星くんと周くん、知らないの……!? 六年くらい前にテーマソングがヒットしたドラマだよ。でも、僕はあれだな、『棘の針』の方が印象強いな。中学に入学したての頃の火曜八時にやっていた、介護する中学生の兄を支える小学生の弟役……。衝撃ですごく覚えてる」
「あー、アレはわしネット配信で観たわ! アレもすごかった! 内容もテーマも重々しくて衝撃なんやけど、子役全員上手かったもんなぁ!」
「そうそう。毎話ぼろぼろ泣いてたなぁ、僕」
と頷き合う綾城と花崗。
この二人、意外にドラマ観ている派だった。
テレビ観ない派の魁星と周は「へー」としか言わない。
しかし、そこで全員がはた、と止まる。
「「「「え……? 地上波子役……?」」」」
「そう」
こくり、と頷く淳。
柳響はすでに地上波で有名になったことのある子役。
その彼が、子役から俳優になろうとしている。
そして、そんな彼が東雲学院芸能科、星光騎士団を希望している。
「はあ? 僕はそんなの関係なく、『洗礼』を潜らなきゃ認めてやらないけどぉ?」
「はい。本人もきっとそれがいいと思っていると思います」
「ふーん。それじゃあまあ、来年楽しみにしてあげようじゃん」
腕を組んで、ふふふ、と笑う宇月。
知名度がもしかしたら現時点で綾城よりも高いかもしれない柳に対しての、この態度。
「来年の星光騎士団も安泰みたいだね」
「せやね」
120
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
妹に婚約者を取られるなんてよくある話
龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。
そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。
結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。
さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。
家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。
いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。
*ご都合主義です
*更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる