ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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来年も安泰そう

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「――以上。IG冬の陣とコラボユニットの件は終わりです。次は来年の仕事依頼の件です」
 
 と、タブレットを操作しつつ、星光騎士団にきている依頼を読み上げていく綾城。
 花崗が「うへぁ……去年の倍以上やなぁ……」と肩を落とす。
 一年生たちは「そうなんですか」としか言えないが、去年はこれの半分以下だったそうだ。
 どちらかというと星光騎士団は個人の仕事が多い。
 花崗と宇月はモデルの仕事が多いせいだろう。
 なお、後藤は個人依頼の仕事NG。
 せめて他のメンバーが一人でもいればOK。
 綾城は去年から『Blossomブロッサム』の練習が激増していたので、個人の仕事はほぼなかったとか。
 ただ、グループの仕事は全員参加が多く、それが可能な程度には少なかった。
 が、今年はやはり夏の陣以降グループ依頼が非常に多い。
 個人仕事のスケジュールと照らし合わせつつ、受けられるものと条件が厳しいものなどを選別していく。
 
「――そういえば、俺が個人依頼で受けている演技依頼の生徒さん、来年東雲学院芸能科を受けたいそうです。先月の定期ライブを見て星光騎士団に入りたいって」
「「「へーーー」」」
 
 淳が柳のことを話すと綾城と花崗が嬉しそうに、宇月が鬱陶しそうに返す。
 宇月、早くも後輩いびりモード。
 スイッチが入るのが早すぎる。
 
「ナッシーが個人依頼受けてる子って俳優でしょ? どんな子?」
 
 警戒心、嫌悪感を隠しもしない宇月に苦笑いしながら「あ」と先程の会話を思い出して手を叩く。
 そして宇月を手招き。
 不審そうな顔をしながら近づいてきた宇月の耳元にこっそーりと「前にBL漫画原作ドラマのオーディションあったじゃないですか」と聞くと「ああ、僕がハブられたやつ」とさらに不機嫌になる。
 あ……ああ……なんかそういえばなぜか宇月先輩ハブられてたな、と若干失敗を感じだがともかく「その時に受け役に選ばれた子なんですけど」と続けると、急に無表情になった。
 三十秒ほど見守る。
 そして淳と宇月を見守るメンバー。
 
「ふ…………………………ふーーーーーーん……。まあ、僕は別にBL漫画とか読まないけどーーー……ふ、ふーーーーーん……つまり俳優の仕事をもうやってる、実績のある子なわけね。ふーーーーん。そのドラマ、観てどんなやつなのか鑑定してやろうじゃん」
 
 ごくり、と息を呑む魁星と周。
 淳は口許の緩みそうなのを必死に我慢する宇月ににこり、と微笑む。
 この先輩、本当に慣れてくると本当にチョロい。
 チョロくて心配になる程度にはチョロい。
 堂々とBLドラマを観られるので、お気に召したのか。
 
「BLドラマ? そういえば前にオーディションオファーあったよね」
「そうですそうです。そのオーディションに受かってる子なんですけど、年齢的にもBLということで演技に自信がないとかで劇団繋がりで演技指導の依頼が来ていたんです」
「へー。俳優実績のある子が星光騎士団ウチを希望してくれとるんか。そりゃあなかなか将来有望な子やね」
「はい。すごい子ですよ。子役出身なので、今回の作品で一皮剥けたら“俳優”に生まれ変わると思います。……若干学力が不安らしいんですけどね」
「「え……」」
 
 学力を言った途端、魁星と花崗が「同士?」と目を輝かせる。
 複雑な感じもするけれど「らしいですね」と肯定すると学力アレ組の魁星と花崗が「え、応援しちゃう」「超歓迎」モードになった。
 
「ふふふ、来年にも有望な子が入ってくるかもしれないんだね。来年の騎士団長は美桜ちゃんだから、新入生加入に関しては美桜ちゃんに一任するけど、楽しみだね」
「淳はその子を推すのですか?」
「すごくいい子だから、もし無事に入学して来れたら是非に、って思うな。……というか、あの子が入ってきたらそれだけで話題になると思う」
「えー、名前は教えてもらえへんの?」
 
 うーん、と考える。
 オーディションはすでにネットで配信されているので、隠されているわけではない。
 しかし、学力がいかがなものか。
 もしも淳の想像以上にアレだとしたら面接でどうにかなるものなのか。
 いや、彼はすでに子役として相当の知名度がある。
 なら大丈夫かなぁ、と「でもあくまで志望校がうちというだけなので……」と前置きしてから「柳響やなぎひびきくんです」と名前を出した。
 綾城と花崗には目を丸くされ、驚かれる。
 
「え、え? マジで言うとる……!? 柳響いうたらアレやん、『プワプワアンダーグラウンド』のやまちゃんやん……! 『プワプワワッフル』のやまちゃんやん……!」
「そうです」
「なにそれ」
「さあ?」
「魁星くんと周くん、知らないの……!? 六年くらい前にテーマソングがヒットしたドラマだよ。でも、僕はあれだな、『棘の針』の方が印象強いな。中学に入学したての頃の火曜八時にやっていた、介護する中学生の兄を支える小学生の弟役……。衝撃ですごく覚えてる」
「あー、アレはわしネット配信で観たわ! アレもすごかった! 内容もテーマも重々しくて衝撃なんやけど、子役全員上手かったもんなぁ!」
「そうそう。毎話ぼろぼろ泣いてたなぁ、僕」
 
 と頷き合う綾城と花崗。
 この二人、意外にドラマ観ている派だった。
 テレビ観ない派の魁星と周は「へー」としか言わない。
 しかし、そこで全員がはた、と止まる。
 
「「「「え……? 地上波子役……?」」」」
「そう」
 
 こくり、と頷く淳。
 柳響はすでに地上波で有名になったことのある子役。
 その彼が、子役から俳優になろうとしている。
 そして、そんな彼が東雲学院芸能科、星光騎士団を希望している。
 
「はあ? 僕はそんなの関係なく、『洗礼』を潜らなきゃ認めてやらないけどぉ?」
「はい。本人もきっとそれがいいと思っていると思います」
「ふーん。それじゃあまあ、来年楽しみにしてあげようじゃん」
 
 腕を組んで、ふふふ、と笑う宇月。
 知名度がもしかしたら現時点で綾城よりも高いかもしれない柳に対しての、この態度。
 
「来年の星光騎士団も安泰みたいだね」
「せやね」


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