ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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来年のお仕事

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「「………………」」
「……なんか、花房と狗央が休み時間にぶっ倒れているのって久しぶりだな」
「来月のIGとコラボユニットの練習が想像以上にキツいらしくて」
 
 と、淳はノートパソコンでなにかポチポチ打ちながら天皚に答える。
 天皚がノートパソコンをいじる淳を見下ろしながら、「音無はなにしてるの」と覗き込むと――なにやらサインだの写真が大量に画面に出ていた。
 
「これは印刷所に提出用のデザイン」
「印刷所に提出用の……え? なに?」
「来年用の星光騎士団第二部隊の新規グッズデザイン。キーホルダーとトートバッグ、ぬい、Tシャツとパーカー、ジャケット、アクリルスタンドなど。予算が貰えたから多めに使えるんだけれど、布系のデザイン発注が難しくて……特にぬい」
 
 ぬい――とは。
 ぬいぐるみの略。
 ぬい専門家に依頼を出しているのだが、量産できるものではないらしいが、需要が現時点でそれほど高いものでもないので悩んでいる。
 
「ぬいだけはSBO内で販売すればいいかなー、とかとも思うんだけどね。アバター用グッズにすれば邪魔にもならないし」
「え……ユニットリーダーってグッズデザインから発注までやるの……?」
「公式グッズは種類が少ないから、グループごとにグッズ作成は推奨されてるんだよ。売上ランキングにも反映されているでしょ? 三大大手グループが強いのって、グループオリジナルグッズの種類が多いからでもあるんだよね」
「へ、へー……。ええ……めっちゃ忙しくない?」
「忙しいよぅ。俺センスないし」
 
 とは言うが、そもそもデザイン自体無理な層はポカーンと見ている。
 そして、校内売上ランキングへの影響を聞くと、この作業がいかに重要なのかも理解できた。
 淳いわく、こういうのは宇月と後藤のセンスが抜群にいいらしい。
 
「あ、魁星と周は今日の放課後、来年の専用チャンネルのお料理回の撮影があるから」
「「……」」
「そんな絶望感漂う顔しないで」
 
 魁星と周、いまだに料理は得意でない。
 周は調理研究部で基礎は身につけたようだけれど。
 
「なに作るの?」
「来月はクリスマスがあるのでブッシュドノエルです」
「「おされ~~~」」
「じゃあ、材料を買いに行くんですね」
「昨日買っておいたから大丈夫だよ」
「ぐっ……なんであの練習量をこなして買い出しまでできるんですか……!?」
「それはもちろん俺が夏の陣のあと、体力と持久力を中心にトレーニングしたからね! 冬の陣で『Blossomブロッサム』のライブを客席から見るために!!」
「ブ、ブレねぇなぁ……」
 
 体力・持久力、大事。
 朝のランニング距離を二倍に増やして、有酸素運動を重点的に重ねた。
 早起きは元々さほど苦ではなかったし、体力と持久力なら身長の成長にあまり影響がないと病院で言われたので。
 他グループのライブを観覧するとなると、結局三日目にまた過労になるのでは。
 だが、淳のウキウキ具合。
 こいつ、出演者の自覚がない。
 完全に観客のノリ。
 
「いや、冬の陣にも出られるのがすごいけどさ」
「考えたらテンション上がってきたー!」
「「「ええ……」」」
 
 ウッキウッキでデザインを仕上げていく。
 淳は自分を「センスがない」と言っていたが、魁星と周はモニターを見てギョッとした。
 素人が見ても、カッコいい。
 
「……そういえば淳のご両親は有名な映像会社所属のクリエイターでしたね」
「あ」
「え? なに? どこか気になるところある?」
「「いや、全然」」
 
 ノートパソコンでできるレベルではないのでは。
 というか――
 
((デザイナーとして充分にやっていけるんじゃ……))
 
 役者としてのスペックの高さも知っているが、デザインの才能まであったのか。
 そちらは確実に両親からの遺伝ではありそうだが。
 口元が引き攣る魁星と周。
 本当に、声変わり症状は淳にとってのデバフだったんだなぁ、と思ってしまう。
 
「お……おとなしくん……」
「あれ、千景くん? どうかしたの?」
 
 教室の後ろから千景が顔を出す。
 すぐに立ち上がって駆け寄ると「ぼ、ぼくと音無くんに依頼が来ていると真水先生にプリントを渡されまして」と言う。
 え、と目を丸くしてプリントを受け取る。
 
「い、『イースト・ホーム』で、情報がまとまったら、連絡を送る、とのことなのですが……」
「へ、へぇ、はあ……ええ?」
 
 と、困惑しながらプリントをもらって中身を確認する。
 中身を確認すると、『新年♪ アイドルといちご狩り』と書かれていた。
 目が点になる淳。
 
「えぇと……」
「真水先生に聞いた話ですと、四方峰町の郊外にあるいちご農家さんが町おこしの一環で毎年東雲学院芸能科にアイドルの派遣をお願いしているんだそうです……ぼく、知りませんでした。知っていたら、行ってたのに……」
「お、俺も知らなかった――!」
 
 不覚……!
 ドルオタ、テンションがダダ下がりになる。
 ただ、このイベントは基本的に一年生のあまり知名度の高くないアイドルに振り分けられがちらしい。
 昨年一年間頑張っても、あまり振るわなかったアイドルが、お情けでいただける仕事――というイメージ。
 
「それなら尚更行きたかった!」
「ですよねっ!」
「なんの話?」
 
 参加してくる魁星。
 なんだか話が進まなさそうなので、周と天皚も参戦。
 ふんふん、と話を聞いてみたところ、コラボユニットで知名度が上がった淳と千景を主軸に八人ほどの一年生アイドル――ランキング下位の者から選んで連れてきてほしい、との依頼。
 
「つまり魁星と周は除外か」
「「え」」
「じゃ、じゃあ俺もダメかぁー。三十位から十二位になっちゃったしなぁー! しょ、しょうがないよなー!」
「そうだね」
 
 嬉しそうな天皚。
 しかし、逆に半笑いになる淳。
 
「ふ、は、ふはははは……! 自分の好きなランキング下位のアイドルを連れて活動できる……合法的に……!」
「わかります。ライブもできるそうなので、これはもうコラボユニット申請して曲を歌ってもらうしかないというか」
「後藤先輩に衣装のお願いして、花崗先輩に振付依頼するね」
「コラボユニット申請用紙プリントしてきました」
「千景くんわかってるぅ~!」
 
 いえーい、とハイタッチドルオタ。
 変な汗が出てくる魁星と周と天皚。
 
「ってことで――長緒くーん、緋村くーん、飯葛くーん、コラボユニットの依頼が来てるんだけど参加しないー?」
「「「!? するー!」」」
 
 三人確保、完了。



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