ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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聖魔勇祭(3)

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 十七時ニ十分。
 一年生の『トップ4』ライブが始まる。
 衣装に着替え、野外ライブステージに上がった。
 
「こんばんは~! 星光騎士団第二部隊所属の音無淳おとなしじゅんでーす」
「同じく星光騎士団第二部隊所属、花房魁星はなぶさかいせいだぜーーー!」
「同じく星光騎士団第二部隊所属の狗央周くおうあまねです」
「ゆ、勇士隊の御上千景みかみちかげです……」
 
 ステージに上がってすぐに自己紹介。
 なにを語るかどうかは任されているが、歴代『トップ4』を六年前から見守ってきている淳はすんなりと「本日はご来場、ありがとうございます!」から始める。
 
「皆様ご存知のこととは思いますし、午前中にも説明があったとは思いますが――本日の『聖魔勇祭』は校内売上ランキング上位四名で結成されたコラボユニットによる、一日限定のライブとなります。このステージに立てるのは、皆さんの応援のおかげです。心より御礼申し上げます」
 
 貴族部で学んだお辞儀をして、ランキング一位らしさをアピールしてから「それではお聴きください――」と、作詞作曲者の雛森日織の名前を告げてマイクを持ち直す。
 前奏が入り、歌声が響き始める。
 今年一年の感謝を込めて、自分たちの成長を見てもらおうと。
 
「~~~♪」
 
 淳たちが歌い終わると、次に二年生のコラボユニットがステージに上がり、一年生のコラボユニットはステージ下へ下がる。
 下がってすぐに淳と千景は衣装もそのままにサイリウムと推しうちわを取り出してダッシュで在校生席に向かう。
 え、と声を漏らす魁星と周。
 
「後藤先輩ー、茅原先輩~」
「苗村先輩~、夏山先輩~」
「「頑張ってください~」」
 
 秒でドルオタに変化する淳と千景。
 虚無の顔のままステージ脇からその姿を眺める魁星の肩を、次の出番である綾城が方を叩く。
 二年生のステージもドルオタが最高に盛り上げたので、非常にスムーズに終わる。
 というか――
 
「千景ってアイドルライブの時あんなにはっちゃけんのな」
 
 と、心底驚いて呟く石動先輩。
 ドルオタなのは知っていたけれど、ステージを観戦する千景は初めて見たらしい。
 
「石動くんのところもいい子が入ったねぇ」
「アレな。まあ、アレは十二代目の君主が首輪つけてた感すっからなぁー」
「うちの淳くんも神野先輩に憧れて入学してきた子なんだよね。先輩たちの偉大さを、改めて感じられるというか」
「うーん……まあ、そうだなぁ」
「うんうん。淳くんは偉大だよね。……しかし、あの子あんなにアイドルのライブが好きなのに、定期ライブで見た覚えがないんだよね~」
 
 話に混ざってくる朝科。
 それに対して石動が「それはそうなんじゃねぇ? あいつ中学の三年間はイジメで引きこもってたらしいし」としれっとバラす。
 主に配信で観ていたらしく、生配信されないステージは録画でまとめられてプレミアム公開される。
 それを聞いて、朝科は少し、呆けた。
 
「…………そうか。私は目の前のファンのことばかり目にしていたけれど、最近はモニター越しにもファンやお客さんがいるんだったね」
「うん……。それに、神野先輩と鶴城先輩がプロモーションをやっているSBOはまだ僕たちのことを知らない、今までにない層を取り込める」
「SBO内のイベントね。確かに私も今まで目の前のファンのことしか考えていなかった。見えていなかった。モニターのその先にいるファンのことも、ゲームの中で出会うファンのことも、これからは考えていかなければならないんだね。ふふふ、三年間アイドルをやっても、まだまだ我らにはまだ見ぬ“ファン”がたくさんいるのだね」
「そうだね」
 
 笑い合う朝科と綾城に、渋い表情の石動。
 卒業後の進路が影響しているのか。
 石動は卒業と同時にアイドルも卒業。
 その後どうするのかは不明。
 黙って聞いている大久保はグループメンバーと共に大学へ。
 綾城と朝科な所属事務所が決まっているので、そのままアイドルを続ける。
 
「さて、そろそろ我らの出番だね」
「三年生としては最後のステージだね。一月からは定期ライブにも出ないし」
「なんだかちょっと寂しくなっちゃったなぁ……」
「はあ? 大久保は自分で事務所のスカウト全部蹴ったんだろう?」
「だってどの事務所も翔平しょうへい亜蓮あれんはいらないって言うんだもん。おれは二人と一緒じゃないとアイドルをやるつもりはないよ」
 
 大久保は『ケ・セラセラ』のメンバーと一緒でないとアイドルをやりたくない。
 大久保自身は歌もダンスも他の二人よりも劣っていると思っている。
 それなのに顔が整っていて、華があるからとスカウトは大久保に集中しているのが、彼は気に入らない。
 ただこの三年間で、アイドルとしての活動は充分に楽しいものだと思えるようになった。
 だからこそ、この三人でやっていきたかったのだ。
 それを認めてくれない事務所なら、入らなくていい。
 三人一緒に大学生をやろう――と。
 
「でもアイドル活動は本当に楽しかったから、できれば続けたかったなぁ」
「大学生活をしながらでも活動はできるよ。僕としては石動くんが本当にやめてしまうのがもったいない気がするんだけれど」
「俺は元々アイドルなんて興味なかったの。未練もなにもない。ただ俺のファンっていう変人に義理を通す意味で卒業まではアイドルやるって決めただけ。卒業後はまだなにも考えてないけどさ」
「生活のこととか考えてる?」
「…………」
 
 これは考えてない。
 
「生活に困ったら声かけてね」
「私も力になるからいつでもアイドルに戻っておいでね」
「大学なら来年も入試受けられるからね」
「優しくするな!」





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